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カプセルからこんにちは!女神様の為にチートで活躍します  作者: rayiーーレイ
第一章 王国脱出編
3/8

第3話 盗賊団と暗殺者

ーー丑の刻。


皆が寝静まる午前1時から3時の間の時間帯。こんな時間にまさか僕が何かを企んでるとは思わないだろう。


「まずは、仕掛けからだな」


床板をめくり氷の器を作り水を入れる。そして氷で蓋をする。計8箇所。燃えやすそうな物を倉庫内から見つけていたのでそれを四隅に。そして僕の足枷が付けられていた位置には倉庫の壁から拝借した板を水魔法で水分を取り乾燥させた物を設置する。意味はあるかわからないが、数日分の食事のお肉を足枷と重なるように置いていく。上手く焦げて少し張り付いて残る感じになればベストだ。


木板を外れやすくして置いた風の通り道となる部分から外へ出て中に火を放つ。燃え広がりやすいように数カ所放ち、僕のいた所には少し他より大きめの火を放つ。と言っても今の僕では火炎放射器のような大きな炎は出せない。直径20cm程の丸い炎の球だ。


こんな炎でも乾燥した木はよく燃える。すぐに燃え広がり、風の通り道に少し穴を残した事でより早く炎がまわっていく。


「見ている場合じゃないか、さっさといこう」


アンリが油や藁を用意してくれてるはずだ、さらに燃え上がるだろう。ミュアに被害があってはいけないので、倉庫から屋敷側の芝生には水を撒いておく。


「じゃあ、バイバイ」


結局僕は、倉庫以外で暮らす事はなかった。でも、引き継いだ記憶は確かにミュアやアンリと過ごした時間を教えてくれたし僕のものだ。


落ち着いたら、会いに来るよ。


僕は屋敷の隅にある大きな木の裏にある、小さな頃に作った秘密の抜け道を通り外へと出る。作ったのは5歳の頃だったからか、少しきつい。強引に通るが枝が体に引っかかりブチブチと折れる。服にも葉が大量につく。体の大きさの事をすっかり忘れていたのだ。


無事に出て抜けた先の道からは、警備員の持つ光が見える。慌ただしく集まってきているのは、僕が原因だろう。騒ぎを起こせば注目度は下がるが、油断せず、壁沿いを音を立てないよう歩いていく。


「問題は門か……騒ぎで人員が減ってくれてるといいのだが」


この時間だし、門に入るものはいないし、全員屋敷に向かってくれたら好都合だ。少し遠いが近い北門ではなく、南門に向かう。出てすぐ進むと魔物のいる森があるだけで、他の街へ行くルートとは正反対。特に魔物が森から出てくる事もないので、普段から警備が薄いのだ。


門に着くと、警備員が1人。しかも、煙を見て慌ててるのか、門の近くにある詰所に駆け込んでいった。全く、こんな警備でいいのやら。連絡を取ってる間に僕は門を抜ける。


「ふぅー、何とかなったな」


南門から出たが僕は森は探索する訳ではない。森を通り大回りしながら、北門側へと移動し国境近くの街へと向かうのが目的だ。流石に夜中とは言え、壁沿いに反りながら向かうのはリスクが高い。森の魔物も不安だが、見つかれば今回の作戦が失敗となる。こればっかりは慎重にならざる終えなかった。


今回上手くいけば、僕は火事で焼け死んだ事になる。そして仕掛けた床下の水が上手く火に接触すれば水蒸気爆発が……。


凄まじい音が響く。


「やっば、仕掛けすぎたかな?大丈夫だよね……」


森の浅い部分へと既に着いていた僕だが、大きな爆発音に心臓がバクバクだ。被害に会うのは僕だけの予定だ。誰かが巻き込まれていたらと思うと胸を締め付けられるような不安がよぎる。


「はぁ、割り切らないとな、とにかく今は進もう、朝が来る前に目立たない所まで」


僕の死体がなく状況が確かでなくても父からすれば好都合。どちらにしても僕は死んだとして処理される。しかし、気付けば追手が放たれ外に出て好都合な僕を殺しにかかるかもしれない。


そこまで恨まれるような事には思えないが、元々父からは何故かよく思われてなかったからな。


僕は息も絶え絶えになりながらも森の中を走り、朝になる頃には、北門を通過し、街道沿いへと到着したのだった。既に煙は見えない、鎮火されたのだろう。


「街までどれくらいあるんだろうな、誰かと会う前に離れないと」


街から近い街道沿いですれ違えば僕が街から来たのがバレバレだ。どこで漏れるかわからない。しかし、生まれて10年、地理が全然記憶にない。次の街へ着いたら情報集めが必要だ。



見渡す限りの大草原。


「はぁ、はぁ、もうダメ」


歩いても歩いても抜けない街道に僕の足が悲鳴をあげている。10歳の子供の体力で夜通し歩いてたのだ、頑張ったと思う。街道から少し外れたところにある木を背もたれにして休憩する。


「うわ、皮めくれてる。バンソーコはないし、回復魔法もない。詰んだあああ、眠い眠い眠いよ」


駄々を捏ねる子供のように言ってしまったが精神的にかなり疲れて全てを投げ出したい気分なのだ。しかし、こんな所で寝ては何が起きるかわからない。魔物にパクりとされるのはごめんだ。


「ミュアとアンリも一緒に逃げれば良かったかな」


1人では満足に休息すら取れないのか。溜息と欠伸を交互に繰り返す。パンっと音が響く。頬を両手で思いっきり叩いたのだ。


「弱音ははかない、よし!切替だ」


僕は木に登り始める。勿論眠る為だ。木に必死に掴まり何とか、辿り着く。下を見下ろす。


「落ちたらアウトだなぁ、寝相はわるくないはずだけど」


熟睡出来ずとも休めればいい。せめて紐でもあれば気分は違ったが、こんな事予想してなかった。なるべく広く落ちにくい所に腰を落ち着け眠る事にする。




ーー騒がしい音。僕の深い眠りを妨げたのはとても不快な音だった。剣がぶつかり合い、悲鳴が少し離れた場所から聞こえる。


眠たい目蓋を擦りながら、葉の隙間から覗き込む。


「馬車が襲われてるのか……」


冒険者らしき人物達が馬車を守っている。そして汚い身なりの盗賊らしき者達が優勢に見える。僕は考える、助けに行くべきだろうか?と。


僕は戦闘経験は無い。ステータスも低い。スキルはチートだが、活かせるだけの能力はまだない。魔法だけは、練習していたので大分使えるようになったが、護衛が出来るPTがやられるような場所に行って生き残れる自信はない。


迷ってる間に最後の護衛がやられてしまった。盗賊達は車輪を壊すと馬車内に入る。盗賊に連れられ出てきたのは一人の女の子。顔は見て取れないが僕と同じくらいの年齢に見える。


護衛が生きてるうちのがまだ勝算があったかもしれない。同じくらいの少女が妹のミュアと重なる。放っては置けない。


落ち着こう、心臓に手を当て、深呼吸をして呼吸を整えていく。直ぐに手は出せない、このまま突っ込んだ所で返り討ちになる可能性が高い。僕は馬車の荷と少女を連れ去る盗賊の集団の後を付けていく。


街道を外れた森の中へと進んでいく。


「バレてないよな……」


距離は保てているはず、大丈夫。自分に言い聞かせて落ち着かせる。森の中を進む事1時間程だろうか。沼地にある、洞窟へと盗賊達が入っていく。まさか沼地の裏陰に洞窟があるとは……。盗賊ってある意味不動産探しのプロだな。まさに穴場だ。


「1.2.3....見ただけで30人はいるなー」


入り口へ入る者を数えただけで30人前後、恐らく中にもいるだろう。流石に火魔法を洞窟に放つ訳にはいかない。連れ去られた少女にも被害が出るかも知れない。


そして、何より。盗賊の討伐と言えば人殺しである。覚悟を決めきれない自分に苛立ちを覚える。


「やらなきゃ、やられる」


先ずは、人数をどうにかしないと。入り口の見張りは3人。幸いこちらからは見えるが向こうからは見えていない。


「まずは1人」


『ん?なんか音がしたぞ』


『気のせいだろ?それか兎か?』


『兎なら今夜の宴の肉に追加だな、頼むわ』


『りょーかい、じゃあ行ってくる』


僕は石を投げ、見張りを1人呼び寄せる。

草をかき分け入ってくる盗賊。


ツルンっと効果音が聞こえてきそうなくらいに見事にコケる盗賊。


『っ、いてててえぇ。何でこんなとこに氷が張ってんだよ』


ーーそれはね。


「こう言う事だよ」


盗賊には聞こえない声で呟き、氷の矢を、盗賊の斜め後ろの死角から放つ。


『がぁっ』


声にならない声をあげてすぐに盗賊は倒れる。正直思った程、抵抗はない。状態異常耐性の効果だろうか?精神耐性?


少しして次の盗賊が仲間を探しにくる。


『おーい、兎はまだか?ってうぉ、と。ってし、死んでる!?』


死んだ仲間に意識がいっている間に先程同様に首へと氷矢を放つ。これで2人。流石に3人目は警戒される可能性があるな。念には念を入れてっと。2人の死体付近に氷を張る。


『何かあったのか?もうすぐ交代の時間だぞー』


2人が帰ってこない事にかなり警戒している。身長に草をかき分け、辺りを見回しながら向かってきている。同じ場所へと向かうように、仕向けているので、ーー当然。


『うわおっ、と。と。ふぅ、あぶねって……お前らな……』


時間はかけない、油断している所に氷矢を放つ。これで3人目。殆ど減ったうちに入らないが見張りがいると中の様子も探れないので僕的には満足のいく成果だ。


洞窟を覗こうとすると、声が聞こえてくる。


「交代の時間になっちゃったか」


タイミングが悪いが、これはこれで好都合。何も知らない3人ならまだ警戒も少ない。6人減るだけでも大分安心感が違うよなー。


では、早速。


『がぁ』『ぐぁっ』『ぐぅ』


3人を無事に倒す事に成功する。


今度こそ中へと入る。洞窟には、火が灯されており曲がり道が多いので見通しは悪いが視界は良好だ。奥へと進んでいくと分かれ道に突き当たる。ルートは3つ、洞窟を見た感じだと、左右の道が広いことはないだろう。


「まずは、左かな」


曲がり道を進んでいくと見張りが1人。倒すのは簡単だが、見通しが悪いし1人とは限らない。


「やっぱり罠が無難かな」


床を凍らせ、音を立てる。そして氷矢。かなり定番なパターンになってきている。冒険者になる前に暗殺業をする事になるとは。


なんて、皮肉を考えていると、2人目が現れる。僕と目が合い。


『おっ、おま』


叫ばれる前に倒す。何でみんな攻撃する前にリアクションしようとするかな?まあ、助かるけど。


見張りが1人と断定して突っ込んでいたら叫ばれてた可能性があった。判断は正しかったようだ。少し待っても誰もこないので恐らく大丈夫だが、部屋の前からそっと覗き込む。


いないようだ。ーーそしてここは。


「宝物庫って所か」


如何にも宝箱な感じの箱が詰まれている。見張りが2人だけとは無用心な。有り難く頂かせて貰おう。


「入らない……」


宝箱事入れようとすると、入らない。分かっていたが悔しい。剣や武具お金に、魔道具らしき物など沢山ある。結構大きな盗賊団なのだろうか。お金は、貰ってくとして。


「後はこの剣と小さな魔道具かな」


青い装飾の綺麗な剣と魔道具らしき物。剣は入らないのでベルトも頂き装備する。お金だけで殆ど収納スペースが埋まったので、魔道具も小さな物一つのみだ。


「うっ、女々しいのかな。置いてくのに抵抗が」


しかし、今回の目的は……。少女の救出だ。後を何回も振り返りながら、右の部屋へと向かう。


「うわっ、くさい」


思わず鼻を摘んでしまう。ただのトイレのようだ。


戻ろうとすると足音が……。壁際にくっつき隠れる僕に気付いていないのか、警戒なしに用を足す盗賊。ーー氷矢。


僕はさっとその場を立ち去った。


分けれ道の最後の道を奥へと進んでいく。曲がり道かと思えば少し入ると奥まで一直線な道のりだ。しかし、そこそこ距離がある為見通しは悪い。逆に言えば相手からも見えにくいと言う事だ。


「うーん」


隠れる場所がない。近付けば確実に見つかる。半分も進めば多くの笑い声が騒がしく聞こえてくる。呑気なものだが、人数は力だ。大勢でいればそれだけ安心感が出るのは当然だ。


僕は真逆のぼっちで不安でいっぱいなんだけどね。こんな事なら盗賊の服をって思ったけど、よく考えたら、10歳の子供が居たら服以前におかしい。


こうなれば真っ向勝負!


なんてことはしない。罠をはってちまちまとね。徐々に追い込むよ。まず初めに通路の半分より前を床以外を凍らせていく。凍る範囲がかなり広がっていくしスムーズだ。


「もしかして人殺しも経験値入るのかな」


体も軽い気がしてたけど気のせいではないだろう。ステータスupの恩恵だ。これで多少の無茶にも、対応出来るかな。入り口まで凍らせ蓋をし、30分程待つ。少女が心配だが、返り討ちに遭うわけにはいかないからね。


30分の間何もしてない訳ではない、勿論盗賊が状況把握にきている。塞いだ氷の壁を見に来た盗賊を氷の壁の覗き穴よりやや大きい穴から氷矢で倒していく。


せこい?そんな事はない命のやり取りにせこいも何もあるものか。生きるが正義だ!


「12人か、最初と合わせて18人。半数は倒してると思うんだけどなー」


戻ってこない仲間とこの冷蔵庫のように冷えた洞窟の惨状に警戒したのか、来なくなってしまったので再び奥へと向かう。


「うぅー、寒い」


冷やしたは良いが結局入るなら僕も寒いんだよね。盗賊の主力となる人達が冷えて戦力ダウンしてるといいなと思いつつ奥の部屋を覗き込む。


『はっくしょん』


『彼奴らまだ、戻らねえのかよ。なんだよ、この寒さ』


『お頭、もしや騎士団が……』


『それはねえよ。彼奴から連絡はない。って事はばれてねえって事よ。洞窟だからな、冷え込む事くらいあるさ』


ある訳あるか!って突っ込みそうになり、慌てて口を紡ぐ。お頭と呼ばれてる、あのザビエル感のある男が頭のようだ。馬鹿だが、強そうだ……。いかつい顔に筋肉質な体。


「捕まればアウトだな」


奥には更に道が見える。少女は恐らく奥だ。無事だといいのだが。


『もう、待てねえ。お前もいって直ぐに報告しろ!今夜の宴は女もいるし最高の宴なはずだ。俺の機嫌の良いうちに解決してこい』


『わかりやした。直ぐに解決してきやす』


『では、あっしもついてきやすね。早く解決するならその方がいいでやんすから』


『任せたぞ』


まじか、こっち来るの。しかも、幹部らしき2人。でも、話から推測するに少女はまだ大丈夫そうな事は分かった。戻って対策だ。


お頭とその周辺に5人。火を焚いたり、雑用をこなしてる者が10人程いたからこの2人を始末したら攻め込もう。長引かせては僕もこの寒さで体が動かなくなってしまう。


『それにしても、何してるんすかね』


『女でも見つけて追いかけてるんだろ』


『まあ、そんなとこでやんすね、それにしても寒いっすね』


ーー寒いなら温めてあげよう。


「ファイヤーボール」


うお、頭に直撃したけど、一瞬で燃え上がり、倒れた。


「威力大分上がったな……」


『な、敵か!?』


キョロキョロと僕を探している。だが、僕は見つからない。何故なら、氷壁の中に隠れているからだ。穴の開け閉めは自由、ファイヤーボールを放った後すぐにまた蓋をして小さな穴を開け盗賊の隙を伺っている。壁沿いに分かりにくく作る為に僕の体との距離を少し開ける程度に作っているのでとても寒い。


「はっくすん」


可愛らしいくしゃみの主は僕だ。


ーー氷矢。


視線が重なり武器を構えようとするが、魔法の速度に勝てるほどの者ではなかったようだ。僕の放った氷矢を避けれず倒れる。


「ふぅー、あぶなかったー」


氷の中に入ってたから体がブルブルと震えている。薄めに作っても氷は氷、冷えるに決まっている。


「よし、後は真っ向勝負だ」


勿論魔法で先制攻撃してからの真っ向勝負だ。お頭を何とか出来れば……と考えているが、ダメな場合の対策もしっかりと施す。


奥の部屋を覗き込む、寒さで集中力が欠けているのか、全くこちらに気付いていない。


ーーファイヤーボール。


お頭の顔目掛けて飛んでいく。


「よし!っ」


全く避ける気配のないお頭に思わず手で小さくガッツポーズをとる。


ーーしかし。


僕の放った火の玉はお頭の振るった剣により消し去られる。


そして目が合う2人。


「まじかよ……魔法ってきれるの!?」


すぐさま逃げる。僕を追いかけてくるお頭。だが、この道を通るには足が大きすぎた。


ツルンっと盛大にこけるお頭。僕の足のサイズ分だけ滑らないよう氷を省き、道全体を氷で凍らせて置いたのだ。しかも滑りやすいよう水まで撒いている。咄嗟の判断で僕の足サイズのコケないポイントを探し、足をつくのは無理だろう。


「ファイヤーボール」


「氷矢」


「ファイヤーボール」


「氷矢」


お頭に向かい放ちまくる。ファイヤーボールと呼ぶなら、氷矢はアイスアローのが良いかなとか考えてしまうくらいの余裕がある。


『ぐっ、お前は何者だ。この俺は赤髑髏のダーウィンだぞ?子供なら聞いただけで泣くくらい怖いんだぞ?』


記憶をあさってもそんな情報はない。と言うか何で生きてるの!


「へえ、知らないけど。おじさん丈夫過ぎない?」


『けっ、これでも元Aランク冒険者だからな。能力差があるとダメージが緩和されるのは知らないのか?』


Aランクって、まじ!?何でそんな人が盗賊してるの。しかも、僕が対峙しに来た盗賊に限ってそんな強い人がいるなんて。


能力は大分上がったと思ってたけど……。聞いて入るけど致命傷にはならない。僕とお頭の差はこんな感じかな。


「緩和されても全てのダメージは防げない。それに僕はまだ本気を出してない」


『ゆってろ。大人を舐めるな。すぐにあの世へ送ってやる』


次の瞬間、目の前にお頭が立ち剣を僕に振るっていた。僕は咄嗟に頂いた青く綺麗な剣を抜き受け止める。


「うっ」


強い衝撃に腕が痺れる。こう言う時は受け流さないといけない。剣の極により、最適な動作が分かるが初の実戦でその動きを上手く再現出来ない。体がびびってしまっているのだ。


『受け止めたのは褒めてやろう、だが、腰が引けてるぜ?もう終わりか?』


「ちょっとだけびっくりしただけだよ。後衛の僕に受けられる程度の剣術ならしれているよ」


とは強気に言ってみたが、勝てる気がしない。


『けっ、ちょっとはやるようだが素人だな。お前の目的はなんだ?』


素人なの、バレバレか……。初実戦なんだから仕方ないよね。


「少女が連れ去られたのを見たから助けに来た」


ここは素直に話しておく。


『ほう、お前の連れか?』


お、聞いてくれるのか?このまま戦闘なくならないかな。


「違うけど、同じくらいの歳の女の子が連れ去られたのを見たら、普通助けるでしょ」


『普通は助けねえよ。ヒーローごっこにここまで、やられたってのかよ。ったく、てか賢いかと思えば馬鹿なのかお前は』


馬鹿なのは否定出来ない。僕だって逃げたしてやっとのスタートなのに……こんな所来たくはなかった。


「うるさい、盗賊に言われたくはない。それに、時間稼ぎでもしてるの?僕相手に結構やられちゃった?」


挑発して少しでもチャンスを作る。策はまだあるが、果たして効くのかどうか。


『さて、そろそろ終わらせるか。ここまでやったんだ、覚悟は出来たか?』


全然挑発にのらない。もしかして……と言うより、もしかしなくてもだ。僕の為に時間をくれてたようだ。子供だから同情でもしたのか?盗賊の癖に。


「盗賊の癖に甘いよ、おじさん。それに僕は負けるつもりはないよ」


ーー先に動き出したのは盗賊の頭だ。


氷の床を踏まないように一足で僕の所へと斬りかかる。まさかこの距離を1歩とは、やや驚いたが、僕も黙ってやられはしない。


「氷壁」


分厚めに作った、氷の壁により剣は阻まれるがヒビが入り今にも割れそうだ。密度を上げてかなり硬くした氷壁を割られそうになるとは思わず、僕は後ろに下がる。


『ほう、その歳で俺の剣を止めるか。ただの餓鬼じゃねえのは分かっていたが、これは驚いたぜ』


「おじさんこそ、氷屋さんに向いてると思うよ。毎日真面目に氷切るとかどう?」


ーー話しながら氷矢を放つが、剣で振り払われて当たりそうにない。レベルが上がり魔力も上がっているのでもっと強い魔法を使えるはずだが、実戦で使えるか。下手な魔法は隙に繋がる。


『お前を斬ってから考えるとしよう』


僕達は何度も剣を交える。そして、剣の極のお陰か僕は物凄い勢いで剣の腕前を上げていく。


『ちっ、手加減でもしてたのか?最初と剣の腕が違いすぎるだろ。何で俺の剣を捌けてるんだよ』


そう言えば、次どこに剣が来るかわかる、そしてそれに対してどう処理するか。自然と体が動く。ーー勝てる。僕は確信した、もう少し打ち合えば僕は完全にあの剣を見切る事が出来る。


「おじさんにもう勝ち目はないよ」


僕が宣言した途端、後ろに下がったおじさんは、目を瞑り深呼吸をした。すると……おじさんから先程とは別物と言っていい何かを感じる。僕は咄嗟に氷壁を張り、下がる。


氷壁は綺麗に切られ、余裕の笑みを浮かべた盗賊の頭が僕の前に立っていた。


『まさか、身体強化を使わされるとはな。久しぶりだぜ、本気になるのは。酒も丁度抜けてきたしな準備運動は終わりだ』


準備運動?強がり?と思いたいが明らかに強がりでない事が分かる。元A級冒険者を舐めてた、勝てると思ってしまったが手加減されてたよあだ。チート貰ったからと言って、初実戦の僕が勝てる相手じゃない。


僕は少し怖くなった。足が震えている。


「なんだ、脅えてるのか?さっきまでの気迫はどうした。そんなんじゃ、一瞬で死ぬぞ?久々の本気だ、楽しませろよ」


ちょっとどころじゃなくやばい。心臓の鼓動が洞窟内で反響してるかのように聞こえて来る。出し惜しみしてる場合じゃないが、効くのか?できるのか?


今のレベルの上がった僕なら出来るはずだが……。効くのか怪しい所だ、しかも、完全な奥の手、リスクも高い。


「ま、待って」


僕は怖がるふりをしてファイヤボールを至る所に打ちまくる。ーー天井の仕掛けを作動させる為に。


ーーバシャっーと大きな音と共に大量の水が降りかかる。


『な、なんだ。水……?まさか』


驚いた顔をしてももう遅い。


「フリーズ」


僕は水で濡れてしまった盗賊の頭を多くの魔力を注いで凍らせる。抜け出そうと必死だが足元から急速に凍り、体温が低下しているのか動きも悪くなる。


『くっ、まさか、ここまで考えてるとは。こんなとこで死んでたまるか、俺にはやるべき事が』


やるべき事?と思ったが全身が凍り盗賊の頭の動きは完全に停止した。これでダメなら増えた魔力任せで水蒸気爆発を再現するつもりだったが、確実に規模は小さいにしても洞窟は崩れる。最後の手段を使う事にならなくて良かった。


「それにしても、強かったな、現役じゃなくて良かった。と言うか氷付けにしたし死んだよね?」


フラグを立ててはいけないと思ったが、綺麗に凍っているので生きてるように見えてしまう。


「壊すか……。でも人として……。」


暗殺者のような事をしていて発想がおかしくなってる。こんな物騒な人間ではなかったはず!純粋無垢な10歳の男の子だ。


ーーとりあえずフリーズ。重ね掛けって大事だよね。厚さを増した盗賊頭の氷像。


「うん、これで安全だな」


僕は少女を助ける為に奥へと向かう。広い部屋を抜けた先の道。少し細くなっているが、小太りの人が1人通れるくらいには幅がある。直ぐに小部屋に辿り着く。


牢と言うべきなのだろうか。とても簡易的な木で作られた檻。3人の女性が、足枷と手枷を付けられている。そのうち2人は疲れ果てた顔をし目が虚になっている。服装も汚く薄い服のみだ。震えているのは、多分僕が原因。


牢の前で僕が3人を見ていると、僕が来るきっかけになった少女がこちらを見ている。薄暗いがはっきりと分かる、色違いの瞳が印象的だ。


『貴方は……盗賊ではないようですね』


「あー、うん。助けに来たんだけど」


驚いた顔をしながらも僕を見定めようとしているのが分かる。あんまりじろじろと見られると恥ずかしい。ミュアとアンリくらいしか女性との関わりはない。


『盗賊達は……』


「盗賊なら倒したから大丈夫だよ」


驚愕している。それとも盗賊を倒したなんて言ったから怖がられてる?薄暗くて分かりづらいが逆の立場なら警戒するだろう。


『私達はどうなるのでしょうか』


不安そうだ。僕は3人を見渡す。2人の女性はよく見ると首に首輪が……。奴隷?目は虚で僕の方を向いているが目が合わさらない。


「とりあえず、僕は街を目指すからその街までで良かったら送っていくよ。地理詳しくないから街名はわからないんだけど、アルブムの街から北に向かった街かな?」


アルブムから逃げ出した僕が戻れる訳ないからね。


『ミンクスの街ですね。お願いしてもよろしいですか?私はミアンと申します』


とても丁寧な口調だ。僕と変わらないくらいに見えるけど良いとこのお嬢様かな。


「うん、任せて。僕の名前はレティス。好きに呼んでくれていいよ。任せてとは言ったけど旅は初めてだから……。快適ではないかも」


『それは構いません、レティスさんですね。それと……』


2人の女性に目を向ける。どうしたら良いんだろ?とても正常とは言えない。とても旅を共に出来るとは思えないが。


「どうしたらいいかな?」


カッコ悪いが正直どうして良いかわからない。2人が歩いてくれないと、僕じゃ背負えない……いや、レベル上がったしいけるのか?とも思ったが、次の街まで運ぶのは流石に無理。


『この方達は……。もう』


「え、それってどう言う」


『身分が奴隷で、ここまで精神に異常をきたしてるとなると恐らく薬漬けにされたのでしょう。引き渡したとしても恐らく処分されます。それも大体コストが安く処分しやすい毒で……』


薬漬け……確かに記憶にある麻薬中毒者などTVで見た事のある状況と似ている。盗賊に掴まり不安定な精神状態で薬漬け。壊れてもおかしくはない。奴隷とは言え生きてるのに処分されるのはどうなんだ。しかも、毒。苦しんで精神壊して、更に苦しむのか。


『気持ちは分かりますが私も似たような方達を見た事がありますが、この方達の面倒を好意で見てくれる方なんていません。精神に異常をきたした方はいつ何をするか分からないのです。身内であっても、殆どの場合は……。ですので出来れば』


決断しないと、いけないのだろう。


「わかりました。僕がやりましょう」


『すみません、私では余計苦しめてしまいますので』


僕は剣を抜き、振るう。一振りで2人の首が飛ぶ。こんな時でも冷静でいられる状態異常耐性には感謝かな。


「では、行きましょうか」


僕達は外へと向かう、死体は凍らせておいたのでそれ程えぐいものではないが、かなり驚いていたようだ。その途中僕は、通路で一度待って貰い、お宝をレベルアップにより、容量の増えた空間収納にしまう。この状況で取りに行ける僕の精神にびっくりだ。しかし、この先あって困る事はない。


外へと出る。天気は晴れており、気持ちの良い森林の空気が複雑な僕の気持ちを整えてくれる。


『本当に外に出られましたのね。もうダメかと覚悟は決めていましたが……』


そう言うと、座り込んでしまう。無理をしていたのだろう、張り詰めていた緊張が解け動けなくなってしまったようだ。光に当たり綺麗な金色の髪が輝いている。目の色は綺麗な水色と赤の瞳。薄暗く分かりずらかったがかなりの美少女だ。少し緊張してきた。


「大丈夫?」


『ごめんなさい、情けないのだけれど、足が動かないの。休んでもいいかしら?』


「休むのは構わないですが、ここは危ないので街道に近い場所へと行ってから休みましょう」


『けど、私は……』


僕は早くこの場から離れたかったので、そのままミアンを抱き上げる。お姫様抱っこというやつだ。


『ひゃっ、あ、あの』


顔を赤らめてこちらを見ている少女。


「ごめん、嫌かもだけどここから離れないと休まらないから」


『い、いえ。重く、ないですか?』


「軽くてびっくりしてるくらいだよ」


僕は街道沿いまで走る。正直筋トレにもならない程に軽い。レベルアップの恩恵だろう、後で確認しよう。


『きゃっ』


街道沿いに着いた僕は、最初に少女を見つけた木の上に登る。木に足をかけ跳躍し簡単に登ることが出来た。自分でしたのだが内心びっくりしている。


「ごめん、驚かせたね。ゆっくり休むなら木の上のがいいかと思って」


急に飛んだから驚いたかな。


『いえ、そうではなく……木の上に登るのって普通は』


後半聞こえなかったが怒ってはなさそうだし、大丈夫そうだ。


今度こそ、ゆっくり休みたいな。流石にこの子に襲われたりはないだろう。


「ここなら簡単には気付かれないからゆっくりして大丈夫だよ」


ここで休むの?と下を見ながら不安そうだったが、疲れが溜まっていたのか、僕にもたれかかり寝てしまった。


「ふぁー、僕も限界。おやすみなさい」



























本日は二話連続投稿でした。この先も読んで頂けると嬉しいです。


◆評価応援よろしくお願いします。

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