第2話 毒殺と決意
ーーここは何処?私は誰?
なんて言うつもりはない。しっかりと記憶を引き継いでいる。僕のこの世界の名前は、レティス・アルファーム。どうやら子爵家の5男らしい。イデア様、良い所へと転生させてくれると言っていたが……。この状況はあまり良いものではなさそうだ。
客観的に見ているのは、僕が記憶を引き継いだのが先程だからだ。何をしていたかは、記憶を探ればわかるが、この状況は割とピンチな予感しかしない。現在僕は、倉庫の中で監禁されている。しかも、足には重りが装着されており無駄に重厚に出来ているそれを壊す事も取る事も出来そうにない。
「一体何故こんな目に……」
記憶を探ると答えは簡単だった。10歳になると皆スキルを授かる。しかし何故だか僕はスキルがなかった。
「どう言う事だ?1年に1回引けるはず……だから最初の0歳はわからないが、少なくとも9のスキルが。って……まさか!」
記憶が戻る前だから、単純に引忘れでスキル無し?!と言うか10歳で記憶が戻るなんて聞いてない。オギャーオギャーからやり直しだと思っていたのに。羞恥プレイは趣味ではないので都合はとしては有り難いけどね。
僕には兄が4人と弟が1人、妹が1人いる。みんな可愛がってくれてたし、兄達も嫌ってると言うことはないはずだ。弟と妹は毎日のように僕と遊んでいた。少なくとも僕の事が大好きだったはず。3ヶ月も助けに誰も来ない……どう言う事だろう。スキルがないくらいで10歳の子供にこの仕打ち、貴族の面子があるとはいえどうかしている。
コンコン、っと扉を叩く音がする。まさか助けが!なんて期待はしない。僕の食事を持ってくるメイドの叩き方だ。3ヶ月も聞いていれば覚えてしまう。
鍵が開けられる音、その音を聞くだけで厳重に閉じられているのがわかる。こんな子供が普通の鍵でも抜け出せる訳ないのにね。
『レティス様、お食事をお持ちしました』
可哀想にと言った目で僕を見下ろしている。そう思うなら助けてくれても良いんだけどね。
食事が目の前に置かれる。何も話さず立ち去るメイド。再び鍵は閉じられる。
「まずは腹ごしらえだな。幸い食事はまともだしな」
まともなレベルが何処からかはわからないが、硬すぎない普通のパンに、味は薄いが具が入ってるスープ。そして、少ないが一口サイズの焼かれたお肉が4つほど。10歳の僕としては十分な量だ。情けなのか、飢死は困るのか、実情は分からない。
「1年に1回のガチャどうなったかなー」
教会に祈りに行かないと行けない!とかだったらアウトだ。このまま一生出られないとかだとエアリルも困るはず……。何とかしてくれないかな。ご飯を食べた僕は眠くなり目を閉じる。
閉じたはずなのだが……。
「ここは確か……」
『確かじゃないわよ、さっき記憶が戻ったなら少し前までここに居たようなものなんだから分かるでしょ!』
「まあ、分かってたけど記憶が戻ったら状況的に詰んでるし。ふざけたくもなるよね」
『と言うか、記憶が戻ったら鳴るようにアラームかけてたけど、どうなってるのよ!なんで、私の加護持ちの貴方が倉庫に監禁されてるのよ。試験落ちるじゃない!』
「こっちが聞きたいよ、なんでスキル0なんだよ!ガチャはどうなった?少なくとも9のスキルがあるはずだよね?」
『スキル0?……あっ』
「あっ、って言ったね、わかりやすい」
『ち、ち、違うのよ。カプセル召喚って言えば引けたのよ?ただ、教えるのと、記憶引き継ぐまでの期間を忘れてただけよ』
完全にエアリルのせいだ。こいつダメだ。
「イデア様ー!!居ませんか!!?」
『ちょ、と!やめなさいよ。イデア様が来たらどうするのよ』
「イデア様に助けて貰おうと思ったんだよ!」
『ダメよ、絶対ダメ!これくらい私にかかればちょちょいっと解決するんだから』
……本当だろうか?
『何よ、信じてないの?』
「そもそもエアリルのせいでこうなってるからね……どうするつもり?聞いて納得いかなければイデア様呼ぶから」
『も、勿論よ。とりあえずは転生記念と10歳までの誕生日の10回分ガチャ引けるはずだから引きなさいよ』
10回分引けたのか……なら自分で解決もって、カプセル召喚なんて当てずっぽでは言えないか。さて、とりあえず引いてみるかー。
「カプセル召喚」
うん、何となく予感してたけど、僕が入ってたガチャの小さい版だ。手抜き感満載。
『ちょっと待って』
せっかく引く気満々だったのに……と思うが、エアリルが手をかざした瞬間ガチャが光に包まれる。光が収束する。期待をして見てみるとーーそこには、全く変化のないガチャがあるのだった。
「……」
『何よ、そんな態度とっていい訳?せっかく私が内緒でサービスしてるのに』
「どうせ大した事ないんでしょ」
エアリルだしな……期待するだけ無駄だ。
『ふっふーん、驚きなさい。なんと、なんと、なーんと。全スキルガチャから、アンコモンスキルとコモンスキルを除外よ!』
アンコモンとコモンスキルってそもそもレアリティについて聞いてないからいまいちパッとしない。
「凄いのそれ?」
『当たり前よ。コモン、アンコモン、レア、ユニーク、レジェンド、ゴットの6段回のうち、コモンとアンコモンのスキルが8割を締めるのよ?それを無くしたって事は……分かるわよね?』
「どうせなら、レアとユニークも無くしてくれると……」
『何言ってるのよ、これだけでも、私の趣味の為に貯めてた神力の殆どを使ったんだから』
「試験落ちたら神じゃなくなるから、貯めとく意味」
『そうよ、だから全部貴方に賭けたのよ!』
まあ、悪くない。と言うか状況的にはかなり当たりだ。最悪10回共コモンスキルになる可能性もあったしね。
「この世界の、スキル事情について教えてほしい」
『簡単な事ならいいわよ。制限があるから言えない事は言えないわ』
「十分!コモンスキルとか、アンコモンスキルとかは、自力でも手に入るの?」
『コモンは努力次第で手に入るし職業によっては簡単に手に入るものもあるから難易度的には高くないわね。ただどのスキルも10歳以前では努力をいくらしても覚えれないわ。無理をさせる大人対策ね。アンコモンは凄く稀に手に入るわね。ダンジョンの突破報酬だったり、数十年の修行の成果で身に付いたりするわね。レア以上は10歳、30歳、40歳、120歳の時に神から授かる以外に手に入れる方法はないわね。大抵はコモン、アンコモンスキルをもらう事になるわね』
という事は……かなりチートになった?以前でも、努力しないで手に入る可能性考えたら十分チートだが、120歳まで生きて4回しか可能性がないのを考えるとやばいな僕。120回引けるのか!と言うかいくつまで生きれるか分からないけど生きてる限り毎年貰えるから上限は無し!
『私の凄さがわかったみたいね』
「馬鹿にしてごめん!エアリルの為に頑張って活躍するよ」
『と、突然何よ。びっくりするじゃない』
動揺してるようだ、顔が薄らと赤くなっている。変な事言っただろうか……。それよりガチャだな!
では、10連ガチャ!やってみよーう。
◆レアスキル
治癒力増加
剣の極
成長促進
状態異常耐性
火炎魔法
氷結魔法
空間魔法
◆ユニークスキル
能力補正
魔素適合
◆レジェンドスキル
武具創造
◆ゴット
ーー以上だ。残念ながらゴットは出なかったが、レジェンド1、ユニーク2。これは中々に当たりな気がする。
R7、SR2、SSR1、UR0。僕の記憶にあるゲームのランクに置き換えて見ると当たりでも……ないように見えてしまう。URなんて殆ど出ないしゴットなんて元々出ないと思って考えれば。SSRが出ればとりあえず大当たりと言う事だ。
「引き終わったけど、スキルの詳細とからみれるの?」
『見れるわよ?自分の情報を見たいと思うだけよ』
僕の情報よ、いでよ!!
「お、おお。でた」
◆ーレティス・アルファームー◆
種族:人族 年齢:10歳
レベル:5
生命値:60
魔力値80
力:30 体力:20
知力:40 敏捷:40
◆レアスキル
治癒力増加
剣の極
成長促進
状態異常耐性
火炎魔法
氷結魔法
空間魔法
◆ユニークスキル
能力補正
魔素適合
◆レジェンドスキル
武具創造
◆加護
女神エアリルの加護
女神イデアの加護
◆ー➖ー➖ー➖ー➖ー➖ー◆
「おお、何かゲーム見たいだ」
『私も見るわよ?』
「他人のも見れるの?」
『違うわよ、女神パワーよ!勝手に見るのは良くないと思って確認よ?勿論鑑定スキルや魔道具での確認などもあるから、見られたくないなら気を付けたほうがいいわね。ちなみに冒険者になるなら最初に鑑定されるわよ』
なんですと!冒険者になる時鑑定されるとかトラブルな予感しかしないんだけど。それに逃げ出せたとして生きていくにはお金も必要。冒険者は名前も偽れるし身分証を貰えるから都合が良い。冒険者になって稼ぎつつ他の国を目指す予定だったのがここで崩れたのだった。
『そんなに落ち込まないの。てか、何よレジェンドスキルにユニークスキルが2つ!?どんな運してるのよ……』
「ゴットは出てないし少しいいくらいじゃないの?」
『ゴットなんて、出ないわよ?条件クリアしてないとそもそもゴットスキルは覚えれないから』
「全スキルって話はどうなった?また……失敗した?それとも故意に」
URが出るガチャで実はURは入ってませんでした。とか言われたら大炎上するだろう。
『違うわよ。ゴットはスキルであってスキルでないの。条件をクリアした者にのみ初めてチャンスがくるの。まあ、人間には無理ね』
「その条件は?」
『条件はシンプルよ。『待ちなさい、エアリル』へっ、イデアさ、さ、様?!』
「お久しぶりです、イデア様」
『ええ、久しぶりね、レティス。それよりも、エアリル、貴女今何を言おうとしたかわかっているの?』
『え、そ、そそんな、本当の事言いませんって!』
「嘘付くつもりだったの?」
きょどりすぎて、唇がタコみたいになってる。こんな分かりやすい女神で大丈夫なのか。
『ち、違うけど、違くなくて……。とにかく、これで問題解決したんだから早く戻りなさいよ』
『エアリル、私の部屋に行くわよ。レティス、それではまた会いましょう』
『いややああぁぁぁ、まだお尻治ってないんです、イデア様、お願い……』
悲鳴が途切れた所で僕も元の場所に戻ってきたようだ。まずはやっぱり色々と出来る事出来ない事を試して見るべきだろう。
とにかくまずは、能力を再確認だ。
◆ーレティス・アルファームー◆
種族:人族 年齢:10歳
レベル:5
生命値:60
魔力値80
力:30 体力:20
知力:40 敏捷:40
◆レアスキル
治癒力増加
剣の極
成長促進
状態異常耐性
火炎魔法
氷結魔法
空間魔法
◆ユニークスキル
能力補正
魔素適合
◆レジェンドスキル
武具創造
◆加護
女神エアリルの加護
女神イデアの加護
◆ー➖ー➖ー➖ー➖ー➖ー◆
レベルが5。これは見たまんまだろう、恐らく低い。生命値、魔力値、力、体力、知力、敏捷。この6つで能力分けをしているようだ。ずば抜けて高そうな能力はない。平均が知りたいが……今は難しい。
続いてスキルだ。
◆治癒力増加
怪我の治りが早くなる。また怪我の治療の際に補正がかかる。
◆剣の極
剣を修めた者の証。技術に大幅な補正がかかる。個人の力量が上がる程効果は高くなる。
◆成長促進
成長に補正がかかる。通常より多くの経験を取得する。
◆状態異常耐性
あらゆる状態への耐性を持つ。但し、効かない訳ではない。個人差有り。
◆火炎魔法
火魔法を極めし者が辿り着く頂の魔法。
◆氷結魔法
水魔法を極めし者が辿り着く頂の魔法。
◆空間魔法
空間に干渉する魔法。
レアスキルは以上だ。怪我が治りやすいのはとても有難い。剣の極は恐らく%で増加なのだろう。仮に10%の補正としたら10技量の剣士は11だが、100の技量の剣士なら110になる。初めから強いは出来ないようだ。しかし、どうすれば上手く扱えるかは何となくわかる気がする。
成長促進は、経験値取得量が上がった程度に考えておこう。状態異常耐性も個人差があると書かれている。過信は出来ない。お腹が痛くなりにくい体質程度の認識にしよう。
そして、魔法だ。何故だがとてもワクワクしている。前世の記憶の影響だろうか。
「火、水、空間魔法。どれも楽しみだ」
続いて、
ユニークスキル。
◆能力補正
レベルが上がる際に能力に100の補正がかかる。
◆魔素適合
魔素に適合した体質になる。魔力酔いの影響が少なくなる。また魔力への変換率上昇。
能力補正は%ではなく固定……最初は強くなりやすくて後半は微妙とかもありえそうだ。魔素適合は、いまいちわからない。魔力回復量が上がるって事だろうか。やっぱり知識不足だ。
最後にレジェンドスキル
◆武具創造
イメージした武具を魔力で創造する。ベースとなる武器があると使用する魔力減少。
「こ、これは。伝説のエクスカリバーを作るしか!」
僕はここで残念な事気付く。どのスキルも魔力が足りない。安全かはわからないが炎よりはと氷結魔法を試そうとしたが体が無理だと言ってるのがすぐに分かった。
では、全く意味がないのかと言われるとそれも違う。氷結魔法は水魔法の頂。下級の水魔法なら僕でも使えるようだ。まずは、心臓辺りにある何かを見つけ、血管を通して放出するイメージ……とかは必要ないようだ。スキルを覚えると何となくわかる有難いがちょっと残念。
空間魔法に関しては空間の中に物を入れる魔法が使えるようなのだが、能力不足なのか、コンビニの袋程度にしか物が入らない。時間停止機能もないようだ。それにも関わらず開けるだけで半分の魔力が失われている。使い勝手が良いとは今は言えないようだ。
鉄の足枷を壊す為の武具の創造も考えたが、鉄の剣ですら創造出来なかった。
「はぁー、現状スキル得ても状況変わらないな、エアリルの役立たずめ」
思わず愚痴りたくなる。レベルを上げるにしても外へ出れない今やれることはない。魔法に関しても火魔法は強そうだが倉庫が燃えてしまえば僕は足枷があり動けないのだから自滅だ。
「足枷さえ、何とかなればな……」
僕はそれから2週間考えながら、実験を重ねる。空間魔法に付いてはパンを入れ腐り具合で変化はあるかの実験をした。2週間目の今日まだ腐る気配はない。通常置いておけば3日もあれば腐るパンが、2週間問題なく食べれそうだ。ただ、硬くなっては来てる事から、時間の流れが遅いだけなのか、菌が繁殖しないのか、どちらかはわからない。
水魔法、氷魔法、火魔法も魔力がある限り練習をした。火魔法は氷で作った器に水をはり、湯を沸かすイメージで使用している。強力な魔法は使えないが、進歩はしている。
そして、今日足枷を取る方法を発見する。
「こんな簡単に取れたとはな……」
物理的に壊した訳ではない。
ただ単純に空間魔法で空間に収納したのだ。僕自身が装着している物であり、ただの鉄の足枷なので入れる事が出来たようだ。お陰でコンビニの袋からスーパーの袋程度まで広がった空間は一杯だ。外へ出たらさっさと捨てよう。
そして、1月が経った頃。いつものように扉が開かれる。が、いつもとは少し違う。
「ミュア……」
綺麗に肩まで伸びた金色の髪。パッチリしたおめめの小柄な少女。
『お兄様……ずっとこんな所に居たのですね。アンリに全て聞きましたわ』
どういう事だ?ミュアは僕が閉じ込められてる事を知らなかった?そして僕が危ない?
『私からお話しましょう。現在レティス様の状況を知っているのは、旦那様であるボーグ様、奥様のレアン様、長男のザック様、そしてミュア様。後はメイド長である私と執事長のクマだけです』
ザック兄さん以外は知らなかったのか……後継である兄さんだけには話した。そんな所かな。
◆ーーアルファム子爵家ーー◆
ボーグ・アルファム 当主 46歳
レアン・アルファム 妻 38歳
ザック・アルファム 長男 18歳
マルク・アルファム 次男 16歳
トント・アルファム 3男 14歳
ブルグ・アルファム 4男 12歳
レティス・アルファム 5男 10歳
ミュア・アルファム 長女 8歳
パック・アルファム 6男 6歳
こう見ると僕だけ4文字仲間外れに見えてしまうのは偶然だよね?
「それで危険と言うのは?」
『はい、今朝方、私とクマに旦那様からお話がありました。一月以内に分からぬよう毒殺をせよと』
「毒殺……。と言うかなんでミュアに話したんだ。巻き込まれたらどうするつもりだ」
『わかっております。しかし、倉庫に監禁するのと毒殺とでは訳が違います。私はレティス様を産まれた時から見て参りました。こう言っては失礼かもですが母が思う子のように思っております。助ける事も出来ず申し訳ありません』
確かに僕のお世話はずっとアンリがしてくれている。監禁された今でさえ……。
「いいさ、母親は監禁したまま僕を放置だ。そんな母親より世話をしてくれるアンリの方がずっとましだ。メイドであるアンリが父に逆らえる訳がないのも分かっているさ。それよりもだ、こんな事がバレたらまずい、それとミュアはどうして」
『お兄様、私が無理やり聞いたのです。泣いているアンリを見つけて普通じゃありませんでしたから』
「ミュア、今日の事は忘れるんだ。僕に構ってしまえば、ミュアの立場も悪くなる可能性がある」
父のお気に入りであるミュアなら大丈夫だとは思うが。
『そんな事私は気に致しません。お兄様、外へ出ましょう』
「僕なら大丈夫、近いうち出るつもりだったから。2人は何も知らないフリをしていて欲しい。僕はこの家の外で生きていくから」
『無理です、レティス様。この家をもし出られても門から出る事は叶いません。外へだけなら、私が何とか致しますが……』
「無理はしないで。そんな事したらきっとアンリは」
殺されてしまう。
『ええ、その覚悟です』
『お兄様、私考えましたの。私とアンリと一緒にこの家を出ましょう』
「へっ?」
ん、何言ってるの、ミュアは……。一緒に?いや、ダメでしょ。ミュアはたった1人の子爵家の女の子。父が許す訳がない本気で追われるだろう。
『ダメでしょうか?お兄様』
そんな目で見ないで欲しい。断れなくなるじゃないか。僕は大丈夫なのに。
「え、っとね。よく聞いてね。僕は死ぬつもりはないよ。近いうち本当に出て行くつもりでいたんだ。ちゃんと考えはあるしリスクも少ないと思ってる。ミュアと離れたい訳ではないけど、ミュアを連れて出たら父は必ず本気で僕を殺しにくるよ」
『ミュア様はボーグ様のお気に入りですからね、私も賛成出来ないですね』
『そんな……お兄様と会えなくなるなんて』
「大丈夫、僕は強くなってミュアを迎えにくるから。だから信じて待ってて欲しい」
『ミュア様、レティス様は頭の良い子です。きっと考えがあるのでしょう。私達は戻りましょう。何か必要な物はありますか?』
「油が欲しい。持ってこなくても良いからこの倉庫に適当にかけて置いてくれると助かる、後は煙の出やすい藁なんかを倉庫の裏に置いておいてくれるかな?」
『レティス様……それって』
まあ、気付くよね。でも、僕の火魔法では火が回るのに時間がかかるかも知れない。燃える速度が遅ければ逃げ出したのがバレル可能性があるからね。念には念をだ。
「大丈夫。信じて」
『かしこまりました。無事を祈っております』
2人は戻り倉庫に1人になる。
「今夜、僕は家を経つ。さよなら」
◆よろしければ応援、評価をお願いします。これからも続きを読んでいただけると嬉しいです。