悪役令嬢(妹)が婚約破棄された? 喧嘩売ってんのか?
初の悪役令嬢ものです笑
エタる可能性が出てきたのでその前に投函しました。
まぁ暇潰しにでもなれば幸いです。
追記なう(2019/07/10)
タイトルの調教済みって要らなくね?と思ったので消します。
ロイゼン侯爵家。
莫大な農業地帯を保有し、国内における60%もの食料自給率を支援している交易の中心地で開国から200年も続く名門でありながら、あらゆる作物や調味料、料理の発祥の地とされている。
そんな侯爵家の長男として新たな生を受けた俺は恵まれていた。
地球で異世界物ばかりを読んでいた社畜が異世界に生まれた時は絶望した。
知っていても理解していなかった。
例えばマヨネーズの作り方は知っているが分量や注意点、リスク等は何も知らなかったからだ。
こんな事が実際にあるならもっと勉強しておけばと後悔した。
だが神様もそんな怠け者に慈悲をくれた。
この世界には『スキル』と呼ばれる10万人に1人の確率で神から与えられる特殊な力があるらしい。
『剣術』というスキルを持つ5歳の少年とスキルを持たない30代の大人が戦えば少年が勝つ。
さすがに現役の騎士ともなれば勝てはしないが、それでも何十合と切り結んだり、運が良ければ引き分けに持ち込める程に『スキル』とは強力な物だ。
そんな『スキル』を俺は神に与えられた。
スキル名は『レシピ』。
あらゆるモノの作り方を知り、理解するというスキルだ。
奇跡だと思った。
食料を多種多量に生産し、交易の中心地になっていてある程度以上の資産と権力を持っており、高位貴族の嫡男という立場に生まれた事は文字通りの奇跡と言っても過言ではなかった。
そもそも生まれ変わって記憶を保持している時点で奇跡なのだが、神様は想定していた以上に慈悲深く、世界は甘かった。
俺が5歳の頃に母が身篭った。
父と母は貴族では本当に珍しい恋愛結婚で互いの爵位に見合う権力を保有しながら、子宝にも恵まれている。
そんな両親はとても甘く優しく、幼い頃から不気味な行動(幼児の頃から早く歩けるように手足を頻繁に動かしたり、ほとんど泣かなかったり)を取る俺を猫可愛がりしていた。
まぁ長男という事もあったのだろうがその気になれば事故死にして養子でも取れば良いのだ。
それを考えれば優しいでは不足だろう。
そんな両親は使用人の間でも好評で他の貴族家を知る使用人は「天地程の差がある」と称していた。
さて、その2人の間に子供が出来たとなり屋敷も領地もお祭り状態。
疫病が流行ったり、どこからか暗殺者が忍び込んだり、他領から変な圧力がかかったりしたが、レシピで疫病の特効薬を作り、勢いで作った現代武具を装備した使用人が暗殺者を捕え、圧力を掛けてきた貴族を丁寧にゆっくりと潰した。
そうして母子ともに健康な状態で生まれた子供は妹だった。
天使だ。 手を出す野郎は去勢する。
一家全員が覚悟を決めた。
妹が生まれてはや9年。
食料生産率は一向に下がること無く今年も豊作。
第3王子の10歳の誕生日が王城で開かれる為、ロイゼン家も招待され一家総出で出向いた。
大変だったよ。
幾つもの貴族が庇護を求めてゴマをすって来たり、子供だと思い懐柔出来るだろうと考えた貴族をボロを出さない様にあしらったり、妹を変な目で見ていた貴族の顔と名前を覚えたり、ロイゼン侯爵家と縁を繋ぐために詰め寄る令嬢をいなしたり。
貴族に生まれた主人公ってこんな大変な事をこなしてたのかと思うと尊敬するね。
やがて参加者が雑談を辞め、静まった頃にホールの正門が重々しく開かれた。
様々な宝石をはめ込んだ王冠を被り、分厚いマントを靡かせた壮年の国王が現れると全ての貴族がその場で膝をつく。
次いで現れたのは煌びやかな宝飾をその身に施したティアラの輝く王妃と、その傍らに妹と同じ歳位の金髪が印象に強い少年と俺と同い年の第2王子が続いて現れた。
「みな楽にせよ」
その一言で会場中の全ての貴族が顔を上げ国王に向ける。
「此度は我が息子の生誕祝いに参列してくれた事、感謝する。
長々とした挨拶も退屈だ。 息子の一言を最後に祝いを楽しんでくれ」
そう言うとホールの上座に置かれた椅子に座り、妹と同い年位の少年を見て一つ頷く。
「アルクセム王国79代目国王、アルクセム・バーナードが第3児、アルクセム・カリオンと申します。
此度は私めの祭事に出席して頂けた事、嬉しく思います。
兄にも遠く及ばぬ非才な身ではありますが王国の為、ひいては民のため、より一層の献身に務めますが故、これからもどうか良しなにお願い申し上げます」
そう言って頭を下げると、拍手を送る。
「第3王子は聡明な様ですな」
「いやいや、まだ10歳。 これから何があるか」
「しかり、やはり18にならなければ」
様々な評価が飛び交う中て顔を上げた王子はコチラを、正確には俺の隣にいる妹を見て固まった。
次第にその頬を染め上げ挙動不審な様を見せる。
「あ? ホの字か?」
つい口から出てしまった言葉をそれ以上は出さぬまいと飲み込み、ゆっくりと、冷静に、王子を睨み付ける。
……いや、無表情で視線を固定する。
「父様、Lv3です」
「うむ、アリシア次第だがLv4も辞さぬ」
「あら〜、もうLv5でいいんじゃないかしらぁ……」
ちなみに今あげた『Lv』とは妹に対する感情に対する執行すべき限度を指す。
Lv1=それとなく注意する
Lv2=少し圧力を掛けて注意する
Lv3=ストレートに脅す
Lv4=一生幽閉させる
Lv5=この世からさよならグッバイ
となり、妹のさじ加減で大きく変化する。
今回の場合……アリシアが頬を染めて見惚れている。
となると王家に対してLv3を勧告し、様子見って事になる、が、不愉快である事に変わりはない。
「父様、アリシアを」
「ぬぅ……10年じゃ。 10年たってデビュタントまでその誠実さを示せば妥協しよう」
「本気ですか!? 王家に対して不敬だとは思いますが高々第3王子ですよ!?」
「声を静めなさいテレス」
「母様、本当に不敬ですよ……」
片手で扇をへし折り、憤怒もかくやといった表情で王子を睨み付ける母を諌めながら、静かに友人である第2王子の下へ移動する。
「ジーン」
「急に気配を消して後ろに現れるなっ!!」
「そこで大きな声も出さずに表情を崩さないお前が大好きだ」
「キモイな。 で、急にどうした?」
「アリシア、カリオン、ホの字、Lv3」
「嘘だろ?」
「傷付けたらLv5も辞さない。 覚悟しろ」
「おい、おいっ、もういないしっ!」
何かを喚く友人を無視して両親の下に戻ると、ジーンも国王陛下に話を通したのか目を見開き、こちらの様子を伺ってくる。
俺達はそれにただ微笑みだけを返した。
訳:傷付けたら殺す
国王陛下も冷や汗を流して頷く他なかった。
そして、誕生祭の後、正式に第3王子とアリシアの婚約が各貴族家に通達された、
それから9年。
アリシアは王家に嫁入りする為の勉強を怠らず、領内の孤児院の訪問を定期的に行い、使用人に対する接し方もロイゼン侯爵家の方針を教育し続けた。
いまな立派な淑女の鑑と言っても過言では無い。
立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花。
この言葉が似合う程に美人に育ったアリシアが涙を流して帰ってきた。
「アリシア、オカエリ、ドウシタノカナ?」
「お兄様、わたっ、私、殿下に、婚約を」
「ン? オチツイテ、ユックリトハナシテゴラン?」
「ひぐっ、えっう、殿下が、あっ、し、ひひゃくけの娘を、ごんやぐじゃに、するっでぇぇぇ!!」
「イッタイ、ナニガアッタノカナ?」
アリシアは学園で起きた事を涙ながらに話し始めた。
それは第3王子の18歳を祝う学園内のホールで行われたデビュタントでの出来事だった。
本来ならこの場でアリシアとの正式な結婚が成り立つハズだったが、パーティーの開催時刻ギリギリになっても殿下の迎えは無く、アリシアは侍女数名と共に学園に向かうと殿下の隣には最近、殿下や他の高位貴族の子息達、財力のある商家の跡取りに、教師に対してまで露骨に媚を売っていた子爵家の令嬢が殿下と腕を組んでいた。
それを見たアリシアは全身から血の気が引いて崩れそうになる身体を侍女に支えられながら、殿下の下までゆっくりと赴いた。
「で、殿下? 其方の令嬢は?」
震えた声で伺うと殿下はアリシアをキッと睨み付ける。
隣に侍っていた令嬢を身体で隠す様に背に回し、アリシアに対して口を開いた。
「アリシア、昔の君はそんな事をする人間では無かった筈だが?」
「な、何を、仰って、いるんですの?」
「まだ、シラを切るつもりか! クリスに対する悪質な嫌がらせや、暴言、派閥の人間に声をかけた意図的な無視、ここまでならまだ許せた! 確かに私達が悪い! だが! 裏ギルドに殺人まで依頼するとは何事か!」
「そ、そんな! 私はそのような事を「黙れ!」ひうっ」
「暗殺者を尋問した所、貴様の取り巻きが指示した事が分かっている! その取り巻きがお前に指示を受けたとな!」
「な、何故!?」
「ふん、貴様の処分は父上と相談の後にロイゼン侯爵家に償いを受けさせる。 貴様との婚約は無論破棄する!!」
と、コレが事の発端らしい。
いや、影から報告事態は受けていた。
殿下やその周りにウロチョロするネズミかいる事は分かっていた。
その令嬢が一定以上の権力と財力を保有する相手に対して無遠慮な態度を取っていたことも知っている。
まぁ、中には未婚の者もいた故に見逃してはいたのだ。
どの世代でも権力を有する者に対して側室を狙ったり、未婚なら婚約しようと画策したり、様々な水面下の争いがあったし、俺も受けていた。
だが、影からの報告ではアリシアは裏ギルドに行ってなどいない。
そもそも天使に対して裏ギルドの存在を教えるわけが無い。
だが子爵令嬢に付けておいた影の報告では確かに嫌がらせを受けていたらしい。
破かれた制服や、無残に散らかされたノート類に、厠に捨てられた昼食、鞄に詰め込まれたネズミの死骸など上げればどれも陰湿な物ばかりだった。
どの時代でも女子の嫌がらせは度を越した物が多いようで。
今回の出来事を調べさせた影から他の高位貴族の婚約者である令嬢が、アリシアの取り巻きに指示を出して実行に移させたらしい。
いい度胸だ。 対象は第3王子殿下、指示を出した令嬢、実行した取り巻き共。
殺意と悪意に満ちたロイゼン流の喧嘩術を教えてやる。
両親に報告するとすぐ様、実行の許可を得た俺は先んじて王家に対して抗議文を送り付けた。
『拝啓 アルクセム王国代79代目国王アルクセム・バーナード陛下並びにカリオン殿下
此度の学園内で発生した一連の件に関してですが、御子息が大変な誤解をなされているようですので、改めてご説明申し上げます。
先んじて私達、ロイゼン侯爵家はロイゼン侯爵家令嬢ロイゼン・アリシアに対し、裏ギルドなどの存在を教育した覚えは御座いません。
よくよく御確認の上で誠に申し上げにくいのですが、今年は生憎と天候に恵まれず領外に流通させる程の麦を得る事が叶いませんでした。
王国の皆々様にご迷惑の程をお掛け致しますが、どうか平に御容赦を
ロイゼン侯爵家嫡男 ロイゼン・アレックス』
まずは食料を押さえ付ける。
覚悟しろよ、ボンクラ共?
同じ設定で同じ世界観でも勝手に続編を作って頂いて一向に構いません。
作られた設定の世界に新しい続きを与えて下さい。