2話 深夜の会話
目が覚めると、いつもの布団の上だった。
(ああ、あの時の夢か…。久しぶりに見たな。)
時計を確認すると午前二時。
両隣を見ると、いつものように寝相の悪い兄弟達があほ面晒して寝ている。
弟達の頭を撫でたい衝動を抑えながらも枕元のコンパクトミラーを手にし、皆を起こさないようにそっと寝室を出る。
廊下に出て目の前の両親の部屋を覗いて寝ている事を確認してから一階へ降りる。
台所でマグカップに牛乳を注ぎ、レンジに掛けてから少しだけ砂糖を加えたホットミルクを作って居間に入る。
卓袱台の中央に鏡を立てて、そこに映る自分を見つめる。
すると、鏡の中の私がニヤッと笑って言う。
『何だ、眠れないのかい。』
それに対して特に驚くこともなく、気怠げに答える。
「ん。」
『夢見でも悪かったのか?』
「あんたと出会った時の夢。」
『ちょっと、私との素晴らしい出会いを勝手に悪夢にしないでくれる!?』
「どう考えたって悪夢でしかないから。」
『ねえ。もう少し私にも優しくしてくれていいんだよ?塩対応しないでよ。』
「やだ。」
『何でよ!弟達には優しいじゃないの!兄には少し塩対応だけど、私に対するより優しいよね!』
「そりゃあ自他ともに認めるブラコンですから。」
『知ってるけどさあ…。』
「何?兄弟の魅力を語って欲しいの?仕方ないなあ。一から百まで伝授してあげようじゃないの。」
『ああぁぁ!要らない!要らないから!耳にタコが出来るほど聞いたから!』
「長男の翔太はね、高校三年生にもなって将来の事も考えずにダラダラして、その上凄くお調子者で自分勝手で周りの迷惑を考えずに皆を振り回すバカなんだ。生粋のね。だけど下が困ってる時、悩んでる時は何故か察知してフォローしてるんだよね。そういう所は尊敬してる。本人には絶対言わないけど。」
『……。(わーわー聞こえないー)』
「次男の悠太はね、ちょっと人見知りだし素直になれないけど、本当はそんな事ないんだ。他人の事しっかり見てるし気に掛けてるし、兄弟の事大好きだし、優しいし色々考えてるし本当に可愛いよね!でもさ、もうちょっと頼ってくれてもいいのになぁ!」
『……。(らーらーらー)』
「三男の晃太はね、いつも元気いっぱいでにこにこしてて、近くに居るだけでこっちが幸せになって…。私が落ち込んでる時は話聞いてくれて、心配そうに眉を垂らしながら恐る恐る頭撫でてくれるんだよ!あれは天使だね!」
『……。(もうお腹いっぱい…)』
「双子の弟って何でこんなに可愛いんだろうね!もう存在が癒しだよね!ああ、お母さんは何故私を1年早く産んでしまったのか。明日からようやっと同じ学校に通えるから幸せだけど、3つ子で同じ学年が良かったなあ…。」
『ストップストップ!もう分かったから…。』
「……まあ、弟達が一番可愛いけど、あんたの事は信頼してるから。だってあんたは私、二人で一人なんだし。」
『ぐぬぬ…。』
「?どうかしたか?顔赤いけど。あんたも風邪ってひくのか?」
『い、いや!別になんでもないから!(こんの天然タラシが!)』
「それにしても、あんたと会ったのも春だったよね。もう13年くらい経つかな?色々あったよね〜。」
『そうだね。泣き虫だった子が立派になったものだよね。いろんな意味で。』
「ちょっとそれどういう事さ。でも、そりゃあまだ幼稚園児なのに急にオバケが見えるようになったら怖いだろう。自分でもよく頑張ったと思うよ。ま、あんたのお陰でもある訳だけど。一応は感謝してるから。」
『急にデレるよね。』
「ん?何が?」
『無自覚って怖いよね。』
ふと時計を見ると、針は午前三時を指している。
「あ、そろそろ上戻らないと。あの子達の眠りが浅くなる時間。」
『そんなの把握してる訳!?ブラコンじゃ収まらないね…。』
「ふふっ。じゃあおやすみ、もう一人の私。」
『ああ、おやすみ。』
鏡を閉じて、飲み切ったマグカップを台所で洗った後寝室に戻る。
弟達の足元を越えて自分の布団に戻り、枕元に鏡を置くと目を閉じる。
そしてそのまま、もう一度夢の世界へと――
兄弟語り(ショートver.)でした。ロングver.は作者の手にも負えません…笑
次回、美玲は眠くない
もうしばらくは、細かい設定や過去の説明、回想が続くと思います。