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SS30 「ボンネットの女」 

作者: 花迺屋 風天


 ボンネットの上を女が這いまわっている。

 薄い影のような体を突き抜けて、商店街の雑踏が見えている。

昼時限定の弁当のフタを開ける。特選・酢豚弁当480円。買い物袋持参で5ポイントのサービス。気が付くと窓越しに女がこちらを覗き込んでいた。細部までは判断しづらいが、暗い闇となった部分が目なのだろう。身長は160センチ弱、シルエットからすると長い髪をしており、ロングのスカートをまとっているようだ。

女は長い指で車体を絶えず引っ掻いている。

走行距離が1万キロもない車が15万円なんておかしいとは思っていた。でも、今の仕事には車が必要だったし、目に見えない不安からは目をそらしやすいものだ。


・・・・・・まあ、こいつは、ここまでハッキリと見えるわけだが。


どうやら女は俺にしか見えないらしい。女の正体を知りたくて、購入元に電話したが、何度かけてもつながらない。ただ、女は搭乗者に何かをするわけではないらしい。今も窓ガラスは開けているが、中に入ってきたことはない。ひたすら車を引っ掻いているだけだ。それもボンネット付近に執着があるらしく、何時もそこを引っ掻いている。車体に傷は付いていないし、ボンネットを開けてみたが、妙なものもなかった。検査にも出したが、エンジンに異常はなし。不自然な値段とボンネットが閉まりにくいのを除けば、状態の良い新品同然の車だ。

 ・・・・・・これで我慢するしかないのか。

 女は何かしてくるわけでもない。急に天井からフロントガラスに顔を出して心臓が止まりかけた時もあったが、俺を意識して動いているのではないとわかってからは、走行中に車を這いまわられるのも気にならなくなった。走行中に女のシルエットを見るのは悪いものではないし、女のプロポーションは悪くない。・・・・・・顔はよくわからないが。

女は例によってボンネットを引っ掻いていた。ライトに近い部分を引っ掻いているので、四つんばいになった下半身がこちらを向いていた。

お尻が邪魔で前が見えにくいんだけどな、俺はそう呟きながらエンジンをかけた。女の体は日向では目を凝らさないと見えない程度の濃さだし、交通量の少ない田舎の道だ。運転に影響はない。ただ、今日はいつもより動きが激しいのが気になった。大きく下半身を上下し、のけぞる。何かに苛立っているのか、興奮しているのか。一体、どんな恨みをこの車に持っているのやら。時間をかけても部品1つ壊せるかわからないのに・・・・・・。

 その瞬間、甲高い金属音と共にボンネットが跳ね上がった。


 ・・・・・・そうか、そこを壊したかったのか。


 視界を奪われ、車は対向車線にはみ出した。ぶつかったのは大型トラックだと思うがよくわからない。俺にはボンネットと、その上に乗る女しか見えなかった。ボンネットが跳ね上がる動きと共に女は両手を広げて俺に向かって飛んできた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] なんだかよく分からないけれど、雰囲気が怖いです。 [一言] 結局、その女の人は何がしたかっただろう?
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