三月の出来事・①
清隆学園高等部のD棟にある生徒会室に、黒い炎がメラメラと燃え上がっていた。
もちろん本物の炎ではない。そんな状態であるならスプリンクラーが作動して、火災報知器が耳障りの悪いけたたましい音を発しているはずだ。
その黒い炎は情念の炎だ。しかも昏い嫉妬の炎だった。
元来、生徒会長の席である窓際の席を、いまは一人の女子生徒が占領していた。
彼女は加賀沼祥子、現生徒会の副会長であった。
お気楽な生徒が多いこの学園で、生徒会のスタッフをグイグイとひっぱるように先導した才媛である。今年度の学園行事がすべて成功したのは、学年主席である彼女の功績によるといって過言ではない。
彼女の魅力は学業だけではなかった。運動神経の方も生徒会の仕事が空いた時間を利用して鍛錬を欠かさず、陸上部に参加して良い記録を出すことは学内で知られていた。
そんな彼女が醜いスタイルをしていようがない。少々スレンダーではあるが、手足の長さといい、頭の大きさといい均整の取れたシルエットをしていた。
もちろん鏡を覗けば、その中には自尊心を満足させる物が揃っていた。
長い髪に細い銀のフレームをした眼鏡がトレードマークの彼女は、その美しさでも完璧な生徒であった。
生徒会の非公然活動である『学園のマドンナ』投票で選出されたこともある。
曇り一点もなさそうなそのプロフィールに、ただ一つのシミがあるとすれば、今年は一回もその『学園のマドンナ』に選出されていないことだろうか。
原因は簡単だった。
美しさにおいて彼女より完璧な生徒が入学してきた事に他ならない。
才色兼備にして文武両道。完璧な美少女という自尊心が大いに傷つけられたのは言うまでもない。
彼女は生徒会の誰かがこの部屋に持ち込んだオモチャのダーツをテーブルから取り上げて、しばし手に中でもてあそんだ。
しかし視界に、壁面の連絡用掲示板へ張り出された写真が入ると、表情をかたくした。
真面目に授業を受けていたら不可能なはずなのだが、写真の中では体操服姿の美少女が、見切れている級友と快活に笑いあっているという魅力的な物だった。
しかもその美しさといったら、地上に降りた美の女神と表現するのが陳腐すぎて本人に失礼なほどだ。
数学的にまで完璧な彼女は、よもやコンピューターが作り出した映像をプリントアウトしたのではないかと勘ぐりたくなるほど美しかった。
彼女は佐々木恵美子。剣道部で活躍している一年女子である。
写真ですらそこまで美しいのだから、実物に会った男子が軒並み彼女の信奉者になってしまうのも無理の無い話だった。
その時、髪をまとめているハチマキの少し下、正確に眉間に当たる場所にツト突き立つ物があった。
祥子が手にしていたダーツであった。
掲示板の横の扉が開いて、太めと痩せすぎという対照的な二人の女子が入室してきた。
一瞬二人はそのダーツを見て硬直した。視線が水平に移動し、腕を振り切った祥子に焦点があった。しばし絶句したが、彼女たちは気を取りなおして口を開いた。
「加賀沼先輩」
彼女たちは二学期の後期生徒会選挙で一年生から選出された執行部の者たちである。生徒会で思いのままに権力を振るう祥子の腰巾着といったところだ。
「大ニュースですよ」
「なによ」
剣のある声で祥子はきいた。
「あの佐々木さんが、今度デートするらしいですよ」
選出されてから多数の男子学生からのアタックをことごとく退けてきた『学園のマドンナ』が、とうとう公認の彼氏を持つのか。
「どおいうこと。話をききましょう」
祥子はなるべく興味が無いふりをしながら後輩二人の話しを待った。
それよりさかのぼること小一時間、郷見弘志は司書室に入るなりに人差し指を鼻先に突きつけられていた。
「話があるの」
恐いぐらいの迫力で、その人差し指の主である恵美子が宣言した。
「はなし?」
1ミリも動くことができずに弘志は聞き返した。
さすが、剣道部で都大会に行くほどの腕前を持っているだけのことはある。その険しい表情だけではなく、触れることなしに絶対の一点を押さえて、相手の動きを封じていた。
「そう」
「ここで?」
「いえ、校舎裏まで来て頂戴」
恵美子は開いている左手で、弘志の右肘の上あたりを掴んだ。これまた有無を言わさない態度だ。
「な、なに?」
「いいから」
その勢いに、二人の周囲にいた友人たちは道を譲った。
「なんだろうねぇ」
その背姿を見送って、弘志とは同じクラスというだけでなく、なにかとウマがあうために遊び仲間になっている権藤正美が、隣に訊いた。
「さてな」
あまり関心がなさそうに、正美と同じく弘志の遊び仲間になっている不破空楽がこたえる。
「なんにしろ、あの剣幕だ。血の雨が降るかな?」
ちょいと窓から外を見上げる。
冬の空は快晴だった。
「あの、痛いんだけど」
自分より遙かに細い指先が食い込んだ右腕に、余分な力がかからないようにしながら、弘志は前を行く恵美子に不平を言った。
「離したら逃げるでしょ」
「さて、どうでしょう」
ちょっと考え込むようすをしてみせる弘志。長めで茶色がかった髪に、卵形のほっぺ。高い声質や、左指を頬にあてる仕草といい、まるで女の子のようである。
「逃げない?」
「話による」
『学園のマドンナ』である恵美子が、学内で色々と有名な弘志を連行する姿は、他の生徒から奇異な視線で見られるに充分な絵づらだった。
ちょっと見まわして、さりげなく弘志の腕から手を引く。
「で? なに?」
恵美子の指が食い込んでいたあたりをマッサージしながら弘志は訊いた。
深刻そうな表情が返ってくる。
「郷見くんは、どうするつもりなのよ」
「どうする?」
とりあえず並んで昇降口に向かいながら弘志はききかえす。
「どうするって、なにを?」
弘志は自分のバッグからスニーカーを取り出し、上履きを入れ違いにそこへ入れる。恵美子は自分の下足入れの蓋を開いた。
バサバサと音を立てて、1ダースはありそうな封書の山が、そこから吐き出される。
「お、帰宅時間にもけっこうな人気だね」
「めいわくだわ」
冷たい貌になると、恵美子は昇降口に備え付けられたゴミ箱にすべて放り込んだ。
「もったいない。地球に優しくないよ」
冗談か本気かわからない声で弘志が言うと、怒ったように二人の間をつめて恵美子。
「いまは、それどころじゃないの」
「オレがどうするかっていう話だっけ?」
肩をすくめてみせる。
「なにを、どうすればいいの?」
「わかってとぼけてるんでしょ」
「は?」
硬直した弘志の腕を再び掴む。
「とりあえず来て」
恵美子は弘志をそのまま校外へ引っ張り出すと、学園を取り巻いている住宅街をグルリと一周して高等部の裏にある人通りが少ない路地に連れ込んだ。
片方は学園のコンクリート壁、反対側の民家も学園側には高い木を植えており、電柱に「ちかんちゅうい」なんていう立て看板がしばりつけてあったりする。
この立地条件のため、体育館裏と並んで人の目を避けて会いたい時に学園の生徒が利用している。
そこに先客がいた。
制服姿の小柄な影。図書室常連の者ならば知らない者はいない、学園開闢以来の『武闘派』という噂が高い図書委員長、藤原由美子である。
彼女は恵美子が視界に入って、不機嫌そうに組んでいた腕をほどいた。
「どうしたの? 姐さん」
「どうしたも、あたしもコジローに呼ばれたのよ」
コジローというのは剣道部でエースとして活躍する恵美子につけられたアダ名である。名字+剣道で昔の剣豪にちなんでつけられた。
「もう、冷えちゃったわよ」
「王子も郷見くんもそこに並ぶ」
強い剣幕のまま二人を立たせ、恵美子は美しい柳眉をキリキリとよせた。ちなみに『王子』というのは女子の間でつけられた由美子への愛称である。
「オマエ、なンかしたのかよ」
「姐さんこそ」
コソコソとあまりの剣幕に囁きあう。
「今日という今日は話しがあります」
二人を前に厳しい顔のまま恵美子は話しはじめた。
「「はあ」」
二人は揃って気の抜けた声を漏らした。
「もうすぐ進級だっていうのに、二人はどうするつもりなのよ」
両手を自分の腰に当てて胸を張った恵美子に、二人は目を白黒させる。
「どう?」
「もうちょっと、わかるように話してくンない?」
二人のキョトンとしたようすに、恵美子は悟ったように表情をすませた。
「二人がちゃんとつきあうかどうか、よ」
「ちょっと待てや」
由美子は女の子にあるまじき言葉遣いになった。
「なンであたしが、よりによってこンなのとつきあわなきゃならないねン」
「それはオレのセリフだろ」
横でボソボソとつぶやいた弘志へ、左の裏拳を顔面に命中させて沈黙させ、由美子は最近のばしていた髪の毛を逆立てて悲鳴のような声をあげた。
「コジロー! そういうこと言うのやめてくれる」
対する恵美子は表情を一筋も変えなかった。
「そうやってとぼけるんだ。二人ともバレンタインだってホワイトデーだってちゃんとやったじゃない」
「あれが〜?」
由美子の表情が曇った。今年のバレンタインやホワイトデーにまつわる騒動は彼女の記憶に良い印象として残ってないらしい。
「それに…」
ちょっと恵美子はそっぽを向いて頬を染める。
「それにキスだって、みんなの前ですませてるしさ」
「だから、あれは事故だって言ってンでしょう!」
殺意さえ感じさせるようすで由美子は詰め寄った。
「だいたい原因はコジローがつくったんじゃないか」
弘志も重要な点を指摘する。いつもならふざけて「情熱的なファーストキスだったわ」とか言いつつ体の一つでもくねらせるところだが、この問題だけはどうやら後悔しているらしい。
怒った様子の二人に心外と言いたげに恵美子は振り返った。
「いつまでも進展しない二人の背中をちょっと押してあげただけじゃない」
「ちょっとどころじゃないでしょお」
頭に血がのぼった声をあげる由美子。相手が男子学生ならば必殺技が炸裂しているところだ。
「あのね、コジロー」
こちらは疲れた声を出す弘志。両方の人差し指をこめかみにあてて考えるポーズになっている。
「本当に、オレと姐さんはつきあう気ないから」
「本当に?」
確かめるように弘志を見る。
「本当に」
変なポーズをやめて弘志は断言した。
「本当に?」
今度は由美子を見る。
「ああ、そうだよ」
ご機嫌斜めになった由美子は腕組みをして肯定した。
「ほんとうに、ほんとー?」
残念そうな顔をして恵美子が口にした幼児のような問いに、二人してそろってうなずく。
一転、恵美子の顔が戻る。
「私の他は誰も聞いてないから、恥ずかしがらなくてもいいのよ」
「しつこいなあ」
うんざりした顔の弘志に、問答無用に由美子の『必殺アームストロングパンチ』が炸裂した。
「このぐらい嫌だね」
彼女の拳が遠慮なく腹にめり込んで、痛さのあまり前のめりになった弘志を見おろして、由美子は断言した。
「それに…」
「じゃあ…」
何か言いかけた由美子の前で、再び残念な顔に戻るかと思いきや、一転して含み笑いを恵美子は浮かべた。
彼女はそのまま弘志の腕を取ってまっすぐ立たせると、彼の腕に抱きついた。
「私と郷見くんがデートしてもいいわよね」
「は?」
「はあ?」
「なんですと?」
「ほなな」
「バカな!」
「なん…、だとっ!」
突然の提案に、鳩が豆鉄砲を食ったような顔になって、彼女に抱きつかれた弘志も、由美子も、壁の向こうからドサドサ落ちてきた五、六人の団体も、恵美子を見た。
「なあに? だって郷見くんフリーなんでしょ?」
「まあ、そうだけど」
制服越しにモデル級の肢体を押しつけられた弘志は、平然を装ってこたえた。
「じゃあ、たまには私とデートしてくれてもいいでしょ」
「ちょ、ちょっと待てや」
話しの飛躍についていけない由美子はひきつった顔をして、恵美子が抱きついたのとは反対側の腕をひっぱって、弘志を彼女から引き離した。
「あら、王子には止める権利あるの?」
唇をとがらせて恵美子は彼の腕をつかみ、由美子から取り戻した。
「そんな…」
愕然とした声を出す正美。
「コジローと弘志がデートだなんて」
「…」
つまらなそうな空楽。
「ほら、言ったとおりやん」
背の高い男子がやわらかい京言葉を口にしつつみんなに向けて手を出した。全員が図書室で毎日顔を会わせる『常連組』だった。
「ちぇ」
「ユキちゃん読みがするどいなあ」
二、三人の男子が彼へ掛け金を払っているところに、遠慮なく由美子の鉄拳が炸裂した。
「何ンで、オマエらがいンだよ」
「いてて。いや、ほら。偶然通りかかったもので」
まるで相撲取りのような体格をした男子が殴られた頭をかかえてこたえた。
「どうやって、どこに行くつもりなら、あンな塀の上から落ちてこれるンだよ」
由美子が生徒から鉄のカーテンだのベルリンだの有り難くないアダナを着けられている塀を指差した。一度はその指差す方向に視線をやった男子一同は、お互いの顔を見合わせた。
「それもそうか」
「いや、そんなことはない」
「俺たちのたぎる青春の前に障害などない!」
「あの夕陽に向かうんだ」
「おともするっす!」
とかなんとか言いながら、わいわいと壁をよじ登りはじめた。
「道から帰れ! 道から」
夏の夕立のように騒ぎが引いていくと、そこには弘志と彼の腕をとった恵美子、腕組みをして去っていった男子どもを見送った由美子、そして空楽と正美が残された。
「オマエらは行かないのかよ」
呆然とした様子の正美と、それにつられて逃げそびれた空楽は顔を見合わせた。
「いや、ほら」
「僕たちはいないということで。ささ、続きをどうぞ」
もちろん、そんなことを言う二人には、あらためて由美子の鉄拳制裁がなされたのだった。
寒いからという単純な理由と、どこで話しをしていても嗅ぎつけてくる『常連組』の態度にひらきなおったということで、恵美子は弘志を図書室の隣室である司書室へ連れ込んだ。
二つの部屋の間仕切りにある大きなガラス窓には、高等部の生徒たちが鈴なりになっていた。
本来は教職員の他は図書委員しか入室してはいけない司書室であったが、『常連組』は平然と入り込んでいた。
「で、ドコ行く?」
楽しそうに蔵書整理用の大テーブルに肘をついた恵美子が「いつもの場所」に座った弘志にきいた。
「行きたいところでもあるの?」
弘志も泰然と聞き返した。
その一挙手一投足ごとに、ガラス窓にはり付いた『学園のマドンナ』の心棒者たちが、弘志へ殺意のこもった視線を投げつけていた。
弘志の質問にニッコリ笑顔を返した恵美子は言った。
「(高校生のデートコースの範囲なら)どこでもイイヨ」
「どこでも!(夜のホテルも可っうことですか?)」
静寂なはずの図書室で一斉にあがった悲鳴に、由美子は座っていた椅子から立ち上がった。
とたんに『武闘派』委員長を怖れた数十人が図書室から逃げ出した。しかし、まだガラス窓の半分は人の顔で埋まっていた。
「まったく、なンでこンなに人があつまってンのよ」
「それはきっと、言いふらした奴がいるからだね」
至極まっとうな答えが正美から出た。
由美子は迷わず近くにいた、まるで相撲取りのように体格の良い男子へ拳をとばした。
「さては、オマエだな」
「ひどいなあ」
厚い脂肪のためか、そのパンチが効いてないような印象のその男子、十塚圭太郎は声に心外だという響きを混ぜて言った。
「俺は言いふらしたりしてないよ」
「そうそう」
怪しい方言のやわらかいイントネーションで隣の背の高い男子が付け加える。
「ツカチンはんは、独り言を漏らしはっただけや」
「独り言ていどで、こンなに人が集まるわけないだろ」
腕組みをして由美子がその男子、松田有紀を(心情的に)見おろした。
「間違うのう独り言やったよ」
「ただ、場所が放送室の放送ブースだっただけだよ」
まあ誰にでもある誤解だから仕方がないとばかりの圭太郎。
「しかも音量最大でスイッチが入っていたなんて、俺が気がつくわけないじゃないか」
怒りのはけ口を求めていた由美子の拳が、かわいそうな獲物の鳩尾に食い込んだ。
窓の外に吊された風鈴がチリーンと鳴ると同時に、いままで静かにしていた左右田優が合掌した。
「オレ、行きたいところがあるんだけど」
そんな外野の騒ぎをよそに、弘志は恵美子との話しを続けていた。
「ドコ?」
首を傾げてチャームポイントの八重歯を唇の端に覗かせて微笑む恵美子。
「多摩動物公園の昆虫館」
「そんなのあるの?」
「うん。でっかい温室になっていて、中にチョウチョが放し飼いになってんの」
「へえ」
二人だけの世界に突入した横で、正美が不安そうな声をあげた。
「本当にコジローは弘志とつきあうのかな」
「安心しろ正美」
図書室にいつもの静寂がないため居眠りが思うに任せない空楽は不機嫌な声でこたえた。
「あの弘志だぞ」
嫌な沈黙が司書室を覆った。
悪寒を振り払うがごとく体を揺らした正美は、なんともいえない苦笑を浮かべた。
その時、司書室の廊下側の入り口が開き、取り巻きを引き連れたスタイルの良い女子生徒が入ってきた。
厳しい目つきをしたその人物は、生徒会室で恵美子の写真にダーツを突き立てていた加賀沼祥子であった。
ツカツカとまっすぐ蔵書整理用の大テーブルに歩み寄ると、そこで楽しそうにデートの計画を話している二人の間に、わざと大きな音を立てて手をついた。
彼女の計画はこうだ。衆人の見守る中、本当は恵美子より「魅力」のある私が、彼女のデート相手を横取りし、真の『学園のマドンナ』は自分であることを知らしめる、というものだ。
もちろん自信過剰気味の彼女は、まさか自分が負けるなんていう事態を、これっぽっちも考えていない。
「話があるの。ええと郷見くん」
あまりの唐突さに二人は顔を見合わせた。
「私とデートしてくれないかしら」
「はあ」
弘志は生返事をし、制服のポケットからスマホを取りだした。
「たしか二年の加賀沼先輩でしたよね。いつがいいですか?」
「ちょっと、郷見くん」
恵美子が女の子らしく反応した。
「私とのデートは?」
「それは今度の日曜日でいかが? 先輩とはその次の日曜日にでも」
恵美子は正直にふくれっ面をしてみせた。
平然と携帯のスケジュール表を確認している弘志に、祥子は腕を組んでキリキリと眉をひそめた。
「郷見くん。なんで私が佐々木さんの後なんですの?」
「ああ、それはね。オレはデートを先着順と決めているから」
「失礼ね、あなた」
弘志の前で女子の意見が一致した。
「前『学園のマドンナ』とデートしたくないって言うの?」
「いえいえ。現『学園のマドンナ』とも、先輩とも、ぜひとも楽しみたいですよ」
いかにも軽く言い放つ弘志。
「弘志とデートとは、やめておいた方がいいぞ」
三すくみで睨み合う場所から離れて、空楽が誰ともなくつぶやいた。
「まあ、そうだな。あンなののドコがいいのよ」
それを聞きつけた由美子が率直な感想を漏らす。
「見た目は、まあマシだけど」
気がつくと正美まで逃げてきていた。
「見た目はな」
さんざん自分に仕掛けられた色々な罠やら人体実験など、この一年の間に彼から受けた仕打ちを思い出すように由美子。
「いや。真の後悔はデートすればわかる」
「はあ?」
由美子と正美は目を丸くして空楽を見つめた。




