回顧 sideフランソワ
side フランソワ
実家からヴァレリーの目が覚めたと連絡があった。
俺の目の前で倒れてから4日、毎日気が気ではなかった。
俺は転移の魔方陣を使い、ヴァレリーの元へと急いだ。
ベッドに横になったヴァレリーは美しかった。
流行る心を落ち着け、俺はヴァレリーに声を掛けた。
「やあ、体の調子はどうだい?」
彼女は掠れる声で青白い顔をしながらも、大丈夫と答えた。
しかしその後に続いた言葉に驚かされた。
「私は誰なのでしょう?」
叔父でもある医師のエドモンは、記憶を封印してしまう事で彼女の心を守っているのだと言う。
そんなに婚約破棄がショックだったのだろうか。
俺はヴァレリーとの出会いを思い出していた。
俺がヴァレリーを初めて見たのは図書室だった。
彼女は陽のあたる窓際で優しい微笑みを浮かべながら本を読んでいた。
彼女の髪に陽があたり、後光が差しているように見え、彼女から目が離せなかった。
どのくらい見つめていたのだろうか。
侍従であるロジェから声を掛けられるまで動くこともできなかった。
何度か図書室で声も掛けられず、彼女を見つめていると、ロジェが彼女の事を調べて来てくれた。
名前はヴァレリー・マリア・ペンバートン。
シャブルー子爵の長女で、フラー公爵の嫡男ブライアン・アリスター・ブライスの婚約者であることを知った。
自分でも驚いたが、胸が苦しくなるほどのショックを受けた。
しかし、ブライアンの方はヴァレリーの事を嫌っており、話しかける事はおろか、側によることすらしないでいる。
今は婚約者しているが、結婚するつもりはなく、準備が出来次第破棄をするつもりでいることを公言していた。
ブライアンは皇太子の側近であり、友人でもあるため、皇太子はブライアンの発言に黙認をしてきた。
そのため、回りの生徒たちもヴァレリーと交遊を持とうとするものは居なかった。