記憶
目を開けると、カーテンを閉めた薄暗い部屋で寝ていた。
首を動かして回りを見てみると、ベッドの横で女性が本を読んでいる。
誰だろう?
見つめていると、私の視線を感じたのか、その女性が本を読むのを止めて私を見た。
「お嬢様、目が覚めたのですね。今、医師を呼んでまいります」
少しして人の足音が聞こえると、部屋のドアが開き、立派な髭を生やした人がやって来た。
「お嬢様お加減はいかがですかな?」
何処か懐かしい優しい声だ。
「……だ……」
声を出そうとしたけど、声がかすれて上手く喋れない。
「声が出にくそうですな。まぁ、4日も寝ていたのだから仕方なかろう。水で喉を潤しながら少しずつ出していけばよかろう」
えっ!?
私、4日も寝ていたの?
それにここは何処なんだろう?
疑問が頭の中でぐるぐる回る。
「まあ、焦らず少しずつじゃよ」
笑顔でそう声を掛けられて、私はホッとした。
「まだ本調子ではないじゃろうて、もう少し寝ていなさい」
私は素直に
目を瞑ると、もう一度夢の中へと誘われていった。
廊下の賑やかな足音で目が覚めた。
隣には先ほど医師を呼びに行ってくれた女性が私を見つめていた。
「お加減はいかがですか?」
優しいその笑顔に、私もつられて笑顔になりながら頷いた。
コンコン、コンコン
ドアを苛立たしげに叩く音。
女性は文句を言いながらドアを開け、一人の男性を連れてきた。
凄いイケメンさんだ。
「やあ、体の調子はどうだい?」
何処か懐かしい、優しい声と笑顔で私に体調を聞いてくる。
親しげであるから私の知り合いなのだろう。
でも誰だろう?
掠れた声で私は大丈夫だと答えた。
そこで私は大変な事に気付いてしまった。
「私は誰なのでしょう?」
先ほど診てくれた医師が呼ばれ、私の診察をしてくれた。
どうやら頭に大きな瘤があることから何処かにぶつけた事や、高熱を出したこと、後私は覚えていないのだけれど何か精神的なショックがあったらしい。
医師は回復魔法等を掛けてくれたけど、私の記憶は何処かに行ったまま戻ってはきてくれない。
どうやら自然に回復するのか、このまま無くなったままなのか、医師にもわからないそうだ。
絶望的になってもおかしくないのに、何故か私は落ち着いていた。
私の体調を聞いてくれたイケメンさんは、私を『ヴァレリー』と呼んだ。
ヴァレリーと呼ばれると胸が苦しくなり、涙がこぼれ落ちそうになる。
どうやら私はその名前は好きではないらしい。
違う名前にしてほしいとお願いしたら、イケメンさんは少し考えて『マリア』とつけてくれた。
うん、マリアはいいかも。
その日から私はマリアになった。