家出
書棚にぶつかり体が痛いので、私は少し休んでから部屋に帰ることにした。
「寒い……」
休むだけのつもりだったのに、いつの間にかうたた寝をしていたみたい。
部屋着は薄手で、床からの冷気で体が冷えてしまった。
体が冷えて強張り動かすのも辛いけど、どうにか部屋に帰ることができた。
それから一睡もせず朝を迎えた。
どうにか着替えた私は、貯めていたお小遣いと僅かばかりの宝石類を手提げ袋に入れた。
他に持ち出す物を考えながら部屋を見渡したが、手に取りたくなるものはなにもなかった。
私の15年は淋しいものなのだな。
私は馬車に乗り学校へ向かった。
何時もより一時間早い学校は歩いている人も殆どなく、静かだった。
私は痛む体をどうにか動かすと、真っ直ぐ図書室へと向かった。
図書室には唯一の私の友がいる。
隣国の留学生である彼は、商家の出であり彼は情報収集に長けていた。そんな中で私の状況を知り、辛いなら私の所に来ないか?と誘ってくれたのだ。
彼なら顔が広いだろうから職を世話してもらおう。
迷惑をかけるけれど、他に頼る人もいないのだ。
朝日の中で本を読む彼はキラキラと輝いていた。
私は声をかけるのも忘れて、彼に見惚れた。
「やあ、おはようヴァレリー。今日は早いね」
彼なら昨日の事を知っているだろうに、何もなかったかのように笑顔で声を掛けてくれる。
彼の優しさにはいつも助けられてきた。
「おはよう……ございます」
緊張しているのか声がかすれる。
「じ……実は、お願いがあるの……。
私、国を出ようかと思って。そ、それでよければ貴方の国で、お仕事を紹介していただけないかと思って」
私はうつむき、彼の返事を待った。
「いいよ」
断られるだろうと思っていた私は、顔を上げ彼を見た。
「ありがとう。ありがとう」
他の言葉か見つからなかった。
私は何度も何度もお礼を言った。
「詳しい事は相談しよう」
その言葉に私はホッとした。
ホッとしたとたん、目眩がしてその場に崩れ落ちた。
「ヴァレリー!」
私の名前を呼ぶ彼の声を最後に、私は闇の中に落ちていった。