決意
私が婚約破棄されたと知ったら、父は何と言うだろうか?
私は、父が何と言うのかわかるほど父の事を知らない。
怒られるのか、心配してくれるのか。
私は不安を抱えたまま、家の門を潜った。
食欲がないからと食事もせず、部屋にとじ込もっていた私は、パーティーから何時もより早く帰ってきた父に呼び出された。
父の書斎に入り、その顔を見たとき、婚約破棄が知られたのがわかった。
しかし父が、婚約破棄された私を怒っているのか、婚約破棄したフラー公爵家に怒っているのか、私にはわからない。
「婚約を破棄されたそうだな」
「はい」
「何故」
「わかりません」
「理由も聞いてないのか?」
理由?父は何を言っているんだろう。
顔合わせの時の私を蔑んだあの顔。
婚約したとはいえ、1度も声を掛けていただいた事などなかった。
学校ではブライアンから居ないものとして扱われた。
私はもう……疲れた。
そんな事をつらつらと父に告げ、顔を上げると、父は眦をつり上げていた。
父は誰に怒っているんだろう?
ブライアン?フラー公爵?それとも婚約破棄された私?
「折角あの男の子供と婚約させてやったのに、お前は何もせず婚約破棄されたのか?」
どうやら父は私に怒っていたらしい。
「人前で破棄されおって!恥をかかされてのこのこ帰って来たのか!?」
父は婚約破棄された事よりも、人前で恥をかかされた事に怒っているの?
私の事は?私の事は気にしてくれないの?
私の為に怒っているんじゃないのね……私が一方的に破棄され、それを人に見られ、父が嘲られたのが気に入らないのね。
何時もの私なら泣きながら父に謝っていただろう。
でも今日は違った。
ここまで気に掛けてもらえないなんて……。
会話はなくても、家族としての好意くらいはあると思っていた。
あると思っていたのに……。
この時私の中で何かが『ぷつり』と切れた。
「何時私がブライアンと婚約したいだなんて言いました?
初めから嫌われていたじゃないですか!顔合わせの時に卑怯な手を使うなと言われました。私が何をしたって言うですか?卑怯な手を使ったと言われるなら私じゃない、お父様じゃないですか!
ご自分でしたことを私に擦り付けないで!」
「うるさい!」
ガタン!ドサッ
「あう……」
父が腕を大きく振るうと、たまたま前のめりになっていた私に当たり、後ろの書棚に強くぶつかった。
私が痛みに呻いていると、トントンとノックの音が静かに部屋に響いた。
父は私に何も言わずドアを開け、執事と何か話すと小走りで何処かに向かった。
私は一人になるとため息を1つつき、部屋に帰るため立ち上がろうとした。
「うっ……」
体が痛い。
頭を触ると大きな瘤が出来ている。
この時、この家を出ていこうと決意した。