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破棄

「お前との婚約は解消する。

これは父上の了解もいただいている。」



ああ、これで全て終わった……。


いえ、これが始まりかしら?


そう考えていた私の口元は、緩くカーブを描いていた。

 

 

私は表情があまり変わらないと良く言われる。

でも表情がないからと言って心が傷付かないわけではない。


回りの人たちは、表情が変わらないから私は何も感じていないのだと、好き勝手な事を私に言う。

しかし私の心はズタズタに傷付き、血を流し、心のでは涙がこぼれ落ちる。しかし私の表情は動くことはない。


そんな私が微笑んだ。

今まで見たことのないその微笑みに、優しいその表情に、元婚約者が息を飲んで私を見つめていた。

私はそんな元婚約者の表情に、全く気付かずにいた。






私が婚約者であったブライアンと会ったのは、まだ母が側にいてくれた頃の事。

父に言われて王家のガーデンパーティーに出席した時の事だ。


まだ3歳だった私はパーティーの目的も分からず、ただ父に命令され出席した。


後から聞くと、王子の学友選びと婚約者の候補者選びだったそうだ。


その頃の私は父と母以外ほとんど話すことがなく、知らない人と会話することが全く出来なかった。


隅っこの椅子に座り大人しくしていると、優しそうな男の子が私に話しかけてきた。


「皆の所に行かないの?」


私は突然の事で声が出ず男の子の顔を見ながら頷いた。


「ここ、座ってもいい?」


私の横に座る人がいるのかと驚きながら、また頷く。


「僕の名前はブライアン。君の名前は?」


ブライアンは、優しそうな笑顔で私に名前を聞いてきた。


「わ……わた……しは、マリア」


「マリア、いい名前だね」


本当はヴァレリー・マリア・ペンバートンと言うのだけれど、父が怒るときに怖い顔をして『ヴァレリー』と呼ぶので、ヴァレリーと言う名前が好きではないのだ。

だからこの格好いい彼にヴァレリーと呼ばれたくなくて、マリアと名乗ってしまった。


「ありが……とう、ブ……ライ……アン」


「ブライアンだと長いから、僕の事はライと呼んで」


格好いい男の子の名前を呼ぶのが恥ずかしくてつっかかっていたら、短くライと呼ぶように言ってくれた。


「うん、……ライ」


私は物凄く嬉しかった。


私は別れ際、袖口を掴み離れたくないと我儘を言うほど、優しいライの事が好きになってしまった。


これが私とブライアンとの出合いであり、私が15年間生きてきた中で、最も幸せな思い出である。



ブライアンと出会ってから3年後、私が6歳の時に、母は家を出ていった。


家には私の他に、2歳になったばかりの弟、生まれて半年になる弟、そして……父が残った。


父は母がいなくなると直ぐに再婚した。

そして父は、幼い二人の弟を継母に預けた。


私はと言うと、朝から夜まで勉強漬けの毎日だった。

勉強を頑張れば父が誉めてくれる。

それが嬉しくて勉強を頑張った。

勉強を頑張れば頑張るほど父が笑顔で誉めてくれるので、私は母がいなくなった寂しさも忘れ、勉強を頑張った。


しかし、それも魔法の勉強をするまでだった。


私の魔力は人よりも多いらしく、父は皇太子妃候補に名乗りを挙げようとしていたらしい。

所が私は魔法が使えなかった。

今では人の倍以上の魔力を使い、人並みに使えるようになったが、その頃は発動すらしなかった。


この頃から私に笑い掛けてくれる人はいなくなった。


そうして私は、一人で過ごすことが多くなった。

勉強をしていると、外から継母と弟たちの楽しそうな笑い声が聞こえ、涙がこぼれた。


私が10歳になった時、父が言った。


「お前の婚約者が決まった。フラー公爵嫡男、ブライアン・アリスター・ブライスだ」


私はあの優しい笑顔を思いだし、嬉しくなった。


しかし数日後、ブライアンと顔合わせして世の中は甘くないのだと思い知らされた。


「ヴァレリー・ペンバートン、卑怯な手を使いやがって……、俺はお前の事なんか認めないからな!」


そう言って睨み付けられ、そのまま出ていってしまった。


それを見ていたフラー公爵は口先だけの謝罪をし、私に侮蔑の視線を向けながら帰っていった。




そして今日、嬉しそうに私に婚約破棄を告げている。


彼の後ろには可愛らしい女の子が立っている。

彼女が最近殿下やブライアンたちと仲が良いご令嬢かしら?


ぼっちの私の耳にも入ってくる。

仲睦まじく中庭でランチをいただいていた……とか、談話室で顔を寄せ合いながら勉強をしていたようだ……とか。


……うらやましい。

私もそんなふうに誰かから好意を持たれてみたい。


そもそも私を好きになってくれる人っているのかしら?


母は何も言わず私を置いて出ていった。

父は私に話しかけすらしてくれない。

継母は弟には笑いかけるけど私には目を向ける事すらしない。

そして婚約者だったブライアンは、何故か私を嫌っている。


悲しい……。


私は息を整えブライアンに向き合った。


「ブライス様、私に異存はございません。

ですが、公表は明日までお待ちいただけませんでしょうか?」


「明日まで?」


「はい。 お願い致します」


私はブライアンに懇願した。


「わかった。父上へは明日報告することにするよ」


「ありがとうございます。」


そうして私たちの婚約は破棄された。



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