閑話 第一王子が見た舞台裏1
アクアシュタット王国の王都は扇の形をしている。扇の要に当たる部分は高台となっており、王宮があり、その裏手には後宮が存在する。
国の主要機能のほとんどが王都内に存在し、「アクアシュタットには街が一つしかない」とまで言われるほど偏っていた。
後宮から王宮へと繋がる回廊に足音が響く。まだ空の色は暗く、夜明けは遠い。
ぎりぎり駆け足にならないほどの速度で回廊を進んでいるのは青年だった。年のころは二十前後に見える、金の髪と青い髪をした美青年だ。
アクアシュタット王国の第一王子、ルーカスである。
後宮内にある彼の自室から呼び出しを受けてすぐさま飛び出したせいだろう、整った顔を彩る金の髪はちょいとばかりはねていて、それを撫でつける余裕もなかった。
「――ヴァサヴァルト連合王国で山崩れだと?」
「はい。連合王国の中央部、『常雪峰』の斜面が突如として崩れ、南側の雪が雪崩となって麓の村を襲ったようです。生存者の有無は、不明です」
自室まで押しかけてきた側近が早口で説明を行う。緊急事態でなければこんな報告の仕方は取らないはずだ。西の隣国とはいえ『常雪峰』とアクアシュタットとは距離がある。それだけではないだろうとルーカスは側近へ視線を向けた。
「……周辺各国への救助要請は?」
「ヴァサヴァルト連合王国内のことだからか、今のところはありませんね。何より場所が中央部ですので」
「見舞い金を……いや、救助物資の必要性の有無を確認する連絡を送るべきだと父上へ進言するべきだな。数日分の水と食糧と、万が一のための生存者救助のための人員を一緒に。連合王国の首長会宛が良いか……」
「『常雪峰』の頂からは、ドラゴンのような翼を持った生き物が飛翔する姿が目撃された、との報告も、あります」
「ッ……!」
足が止まった。
みるみるうちに青ざめたルーカスに、側近は「どうかお早く」と再び急かす。
だが一度止まったルーカスの足はしばらくの間動かなかった。
※ ※ ※
アクアシュタット王国が存在するのは『女神の大地テルース』と呼ばれる大陸である。
はるか昔現れた女神によって水の恵みが与えられ、毒の大地であった大陸は生命の息吹があふれる場所となった。《女神の泉》がその証だ。
だが、女神の慈愛はすべての場所に等しく与えられたものではない。
《女神の泉》が多く存在する地と、そうでない地がある。
アクアシュタット王国は前者だ。
六つの国と隣接しており、荒野を挟んで北にフォアン帝国、運河を挟んだ南西に聖王国、山岳地帯を挟んだ北西にヴァサヴァルト連合王国。残り三国とは森や川など緩やかな境界線で分けられており、時折国境線を巡る小競り合いが起こることもあるが、現在は婚姻政策により調和が保たれている。
中でも特色豊かなのはヴァサヴァルト連合王国だった。この国は幻獣が多く住まう国で、少数民族が寄り集まり国としての体裁を整えている。連合王国という名を冠してはいるが『王』はおらず、重要事項は各民族の代表が集まる首長会議で決める。毎年春に聖王国の大聖堂で行われる聖女たちの祭典――女神の祝祭へひとりの代表を参加させることで国のまとまりを国際社会に認めさせている国だった。
ルーカスが会議室に到着したのはまだ明け方。だが、会議室にはすでに国の主要人物が揃っていた。
国王レオン、将軍ヴィルヘルム、宰相バルトロメウス。そのほかにも王都に屋敷を構えている貴族のうち数名の顔がある。会議室の席の半分は空席なので、まだこれから人が集まるに違いない。
殺風景な部屋である。絵画の一枚さえなく、申し訳程度の花が活けてある程度だ。
「……遅くなり申し訳ありません、父上。第一王子ルーカス、参上いたしました」
「良い。座れ」
軽く礼をしてからルーカスは末席に座った。
今年十九歳のルーカスは会議室に席を与えられて一年程度しか経っていない。アクアシュタット王国では十八歳で成人扱いとなるため、それ以降ということになる。国王公務の一部を代行したり、助手の真似事をしたりと、まだ一人前の扱いは受けていないが、国防に関わる大事を決める席につけるようになったのは将来を見据えてのことだろう。
弟王子はまだ七歳であり、現在のところアクアシュタットの王太子はルーカスであるというのが世間一般の評価だ。
「集まりが悪いな」
国王のボヤキに対し、宰相が苦笑いする。
「この時間帯に会議室へと駆け付けるというのはなかなか難しいことでございましょう。王都の屋敷に滞在していたとしてもまだ眠りの中という時間帯でございます。ましてや領地におる者につきましてはまだ報が届いておらぬかと。どうぞご容赦くださいませ」
「国の大事に駆け付けられなくてどうする?なあ、将軍」
「まことに」
生真面目な表情を浮かべたまま、将軍がうなずいて見せる。
「一報を受けて各方面に使いをやって一時間――……。構わないでしょう」
「将軍、まだ半数も揃っておりませんよ?」
「国王陛下はおっしゃった。国の大事に駆け付けられなくてどうする、とな。地方領主が来られないにしろ、王都に別邸を設けている者が多い。代理を寄越すくらいはできる」
「……ですが」
「兵は迅速に動けてこその兵。動けぬ兵なぞ木偶にも劣る」
「勇み足で足元を見ずに転ぶこともございます。慎重とは臆病という意味ではございませぬよ、将軍」
「そこで喧嘩なぞするなよ?朝っぱらからギスギスしてかなわん」
軽い口調で口を挟んだ国王に、宰相と将軍が口を噤む。
「そもそも会議の招集を提案したのはおぬしであろう、宰相」
「……国防を口実にされますと、陛下と将軍のおふたりで話を進めてしまわれるからでしょう。さすがに、今回の件は各地の領主の方々にご協力いただきませんとどうしようもありません。王都を守る騎士団ではなく領軍の派遣が必要となってきます。それでいて領軍の単独行動であってはならない。しかるべき危機感を煽りませんと陛下や将軍の指示に従わぬ者も出てきましょう」
「しかり」
「まてまておぬしら、すでに会議をはじめてしまっておるではないか。そこの王子がポカンとした顔をしておる。わざわざ列席してくれた者たちにも不親切だと思わぬか?」
「ですが、陛下」
「国防は速度を求められます」
「やれやれ。おぬしら、気が合っているのかいないのか――……」
国王は肩をすくめるような調子で笑った。笑う余裕のある状況らしい、とルーカスはうがった見方をしながら集まったメンバーの顔色を見やる。
国王レオン・L・アクアシュタットはルーカスの父。アクアシュタット王国の現国王だ。先代国王の血を引くのは王妃マルガレーテの方だが、政治にさほど興味のなかった王妃により、全権を任されている男である。王妃との間には四人の子がおり、側室などはいない。
将軍ヴィルヘルム・ツァーベルはアクアシュタット王国の国防を司る責任者であり、王立三騎士団の騎士団長を束ねる立場だ。国を挙げての戦争ともなれば地方領主たちが組織する領軍をも指揮下に入れることになる。妻と一人娘がいたが、どちらもすでに故人となっている。
宰相バルトロメウス・B・ベルンシュタインは内政と外交を担当する大臣たちの取りまとめである。もっとも国王を筆頭に元々の爵位が高くない大臣たちが地方領主たちから軽視されずに実務に当たれるよう、仲介役を務めることの方が多い。王妃マルガレーテの従弟にあたり、血筋からすれば彼こそが王位を継ぐのに相応しいとささやく者もいる。
立ち位置からすると、報告者にあたるのはあの騎士だろう、とルーカスは視線を向けた。国王の傍に控えるようにして立っている痩せぎすの男。騎士というには少々厚みが足りない体格をしているが、身に着けている服は騎士団のものだ。
早く説明が欲しいという視線を父王へと向けたルーカスは、会議室の入り口付近から大きな音が近づいてくるのを耳にした。
ガツガツと、足音を忍ばせる気のない大柄な人物の足音だ。誰か来たのだろう、と入り口へと視線を向けなおしたルーカスの目には期待に違わぬ大きなシルエットが見えた。
熊のような巨体に豪奢な外套。早朝だというのを感じさせない整った口ひげ。手に長杖を持っているのを不思議な気持ちで見ながらルーカスは口を開きかけ――止めた。
「フハハハハハハハハッッ!朝食会だと聞いたがテーブルセッティングもされていないようですなッッ!」
ガシャンと長杖を鳴らして付き人に手渡すと、男は大仰に国王へと礼をして見せた。
「お招きいただき感謝する、国王陛下。モーリッツ・M・メンゲルベルク、ただいま参りました」
「よくぞ来てくれた」
「当然でしょう。こたびの朝食会、主役はこのわたくしめだと言っても過言ではありますまい?」
にんまりと笑い、彼もまた着席する。
正直に言おう。ルーカスは驚いた。
メンゲルベルク侯爵は王都からもっとも遠い場所を領地とする地方領主だ。領地経営に専念しているため中央に官位はないが、国の貴族たちの元締めのような人物である。彼がわざわざやってきたということは、アクアシュタット王国全体が一丸とならねばならぬような事態が起きているということだった。
「良い頃合いだ、報告を」
「かしこまりました」
国王の要請に深々と頭を下げ、控えていた騎士が口を開いた。
「第二騎士団所属、フォルマーと申します。昨夜未明、ヴァサヴァルト連合王国『常雪峰』の南方斜面が崩れるということがありました。アクアシュタット国境までは到達しておりませんが、この雪崩により連合王国内の集落がいくつか被害を受けていると推測されます。
同時刻、第二騎士団フォルマー隊駐屯地よりヴァサヴァルト連合王国『常雪峰』山頂よりドラゴンらしき翼を持つ大型の飛行物体を確認しております。飛行物体は山頂付近を旋回した後、『常雪峰』の向こう側へと姿を消したため、以後行方は不明です。駐屯地では引き続き見張りを続行しております」
騎士の言葉を引き継いだのはヴィルヘルムである。
「聞いての通りだ。これだけでは諸君らを叩き起こすほどの脅威とは言い難いが、先日別方面からさらに聞き逃せない報告が上がっていたため、一緒に報告させてもらおう。
――王国の南、」
「おっと、ツァーベル伯爵。そこからはわたくしめに報告させてはくださらんかね?」
口を挟んだのはモーリッツだった。
モーリッツは国王へと視線を送り、承諾を得たと見てから続ける。
「我が所領、メンゲルベルク領の国境沿いにて、多数の賊の目撃証言がありましてな。盗賊に偽装している風でもありましたが、規律の取れた動きがどうにもおかしい。調べたところどうやら――ネロ王国……『魔国』の先兵隊のようだったのですよ」
ぞわ、とルーカスは寒気を感じた。
ネロ王国は《女神の泉》が少ない国だ。全土で五か所しかないらしい。アクアシュタット王国からみると南側、大陸最南端に位置する場所にあり、海に接していることもあって海洋貿易を得意とする。余りある経済力を軍事に投入した軍事国家でもあった。
『魔国』と呼ばれるのは高い経済力を持つ国へのやっかみと、かの国が女神信仰を疎かにして聖堂を蔑ろにしているという噂のためだ。水魔を祟り神として祭り、女神を敬うよりも水魔へひれ伏すことで恩恵を受ける――『魔国』。
「皆様も知っての通り、我らがアクアシュタット王国と『魔国』とは国境を接してはいない。間に一国、別の国を挟んでいる。にも関わらず兵が発見されたということはいかなることか?近隣諸国すべてに兵を送っているだけか?あるいは隣国はすでに『魔国』の影響下に落ちてしまったのか?まことに残念ながら先兵隊は舌を噛み切り、自らの正体を明かすことさえありませんでしたがな」
「ま、まことに『魔国』の者だったのですかっ?まさかっ!」
「そ、そうです。正体を明かさなかったということは、所属については推測に過ぎないのではっ?」
「確証があるなら『魔国』へ抗議を行うべき事態です!」
列席していた者たちがざわめく中、モーリッツは大きく首を振り、芝居がかった仕草で「嘆かわしいことに。他の国の者ではありえない特徴が見受けられましてな」と答えた。
「皆様の様子を見るに、先兵隊が確認されたのは今のところ我が領内だけであると見てよろしいか?この場におられない地方領主の方々にも確認がとれるかと思っておりましたが――……」
ふるふると横に首を振った後、モーリッツは口ひげを撫でた。
「『魔国』については、三年前から聖王国の祝祭へ聖女を参加させていないばかりか、かの地にある聖堂は軍によって破壊され、信仰が失われ……。国全体が水魔によって支配されているという噂もありますしなあ――」
チラ、とモーリッツは会議室を見回して再び大仰にため息をついた。
「真相を確認しようにも聖堂長はいらしていないようですな。せっかくの機会に聖堂の見解をお聞かせ願おうと思ったのですが」
「聖堂は我が国の組織とは言い切れぬ。国防については不参加が基本だ」
「おっと、それは失礼を。朝食会だとおっしゃるので、てっきりね」
フハハハハッと大きく口を開いて笑った後、モーリッツは目を細めた。
「『魔国』の状況は捨て置けませぬ。隣国の内情を探るにも特殊部隊を出す必要があるのではないかと思われます。領軍には荷が重い。できれば第一、あるいは第二でも構いませんので騎士団の派遣をお願いしたいのですよ、ツァーベル将軍」
「貴殿の領軍だけでは足りぬと。それだけの動きがあるのか?」
「動き出してからでは遅すぎましょう。それに、我がメンゲルベルク領の独立を懸念する動きがあると聞き及んでおりましてな、それを牽制するためにも一度国軍の受け入れをしておこうかと、そう思っておるのですよ?」
モーリッツの言葉に国王が肩をすくめる。
「おいおい、勘弁してもらいたいものだ。おぬしが独立などと言い出した暁には、国中の貴族たちがこぞって独立を始めてしまうではないか」
「フハハハハハッ!またご謙遜を。我らがアクアシュタットが列国に渡り合っていけるのはすべて国王陛下のご威光の賜物。地方領主なぞひとひねりでございましょう。ですがなにしろわたくしめは王都から遠い場所におりますのでな、あらぬ噂を立てられる前にこうして弁明の機会をいただき感謝しているのですよ」
一方の将軍は顔をしかめた。
「貴殿の独立など、どこの誰が……」
「フハハハハハッ!杞憂でございましたかな!」
面白い冗談だとばかりに大笑いしてから、モーリッツはひたりとルーカスを見据えた。
うっすらと目を細めた後、国王へと視線を移す。
「いかがでございましょう?陛下」
会場中の視線が集まったところで国王レオンが息を吐く。
「ツァーベル将軍、どう思うね?」
「はッ」
スッと伸びた背筋をさらに伸ばしてからヴィルヘルムはうなずいた。
「第一にしろ第二にしろ、騎士団ひとつすべてをメンゲルベルク領へ派遣することはできかねます。第三はもとより小規模ですし、近衛隊として王族の護衛を行っておりますので論外です。ヴァサヴァルト連合王国内で確認されたドラゴンが実在していた場合、上空から直接王都を狙ってくる可能性があるためです。また、ヴァサヴァルト連合王国内で起きた雪崩による避難民を引き受ける必要が出てくる可能性もあります。王都周辺は直轄領ですので、最低限の人員は動かせません」
「では、いかがする?」
「『魔国』の動向を探るための特殊部隊。――及び、隣国への潜入部隊として、騎士団の一部を派遣することは可能かと思われます」
「推挙する人員は?」
「第一騎士団、ゴルト騎士隊がよろしいかと」
ヴィルヘルムの言葉にモーリッツは感心した顔を浮かべたが、宰相バルトロメウスは青くなった。
「理由は?」
「ゴルト騎士隊はもともと騎士団でも腕利きが集まっている小隊です。彼らであればメンゲルベルク領の領軍を率いて対応にあたることもできましょう」
「潜入部隊としての能力はどうだ?」
「そちらも特に問題はないかと――……」
「お待ちください!国王陛下、ゴルト騎士隊はいけません!」
発言の許可も取らずに口を挟んだ宰相に、モーリッツが楽しそうな笑みを浮かべる。
「なぜです?
ゴルト騎士隊の隊長と言えば、今でこそ小隊長ですが、第一騎士団の騎士団長の座も間違いないと言われていた人物でしょう。彼らを派遣してくださるのであれば願ってもない、国王陛下とツァーベル将軍の英断に感謝いたします!」
「国王陛下!」
将軍では埒が明かないと思ったのか、宰相は直接国王へと視線を投げた。
「ゴルト騎士隊は、聖女の護衛騎士隊でございますよ!?」
部屋の隅でかすかに紫色の花が揺れた。
※ ※ ※
会議は中途半端に終わった。
ルーカスは一度も発言を求められることもなく、国の重鎮たちが揉めるのをただ見ていた。
ヴァサヴァルト連合王国内で目撃されたドラゴンらしき影については、引き続き第二騎士団フォルマー隊が駐屯地で見張りを続け、動きがあるようなら王都に報告を行うという現状が承認された形である。
メンゲルベルク領へ派遣されることになったのは第一騎士団のゴルト騎士隊。これについては反対者が宰相一名のみであったことと他に推薦がなかったためごり押しされたようなものだった。
指示を出すためにツァーベル将軍が退室し、それをきっかけに他の者たちも退室をはじめた。残されたのは国王とルーカスのみである。
「さて、ルーカス。メンゲルベルク領への派遣、おまえも参加しろ」
「私もですか?」
「メンゲルベルク侯爵の令嬢は、おまえの婚約者候補の一人だろう。せっかくだから会ってくるがいい」
発言の途中、モーリッツから意味深な視線を向けられたのはそれか、とルーカスは思い至る。確かにモーリッツの娘は十七歳になったばかりで、幼少期からルーカスの婚約者候補として名前が上がっていた人物だった。候補、であり、婚約者ではない。
「……聖女ミスズが適齢期なので私の婚約は一度白紙、と伺っておりますが」
「聖女ミスズの任期は元々シャルロッテの修業が終わるまでだ。本人にもその気はないようだし、庶民の出で貴族社会の礼儀も身についていない。無理に王族に取り込むよりは聖堂所属としての役割を果たしてもらえればそれでいい」
「…………父上?」
訝しむルーカスの言葉に、国王の表情は何も答えない。
「――ゴルト騎士隊は聖女の護衛騎士隊。にもかかわらず今回の派遣を承認したことといい、聖女ミスズに何か問題でも?
彼女は国内の《女神の泉》を次々浄化した実績を持ち、フォアン帝国において正式に聖女として公認された能力者でしょう。素行に問題があるという話も聞きませんし、正直なところ春までと言わずシャルロッテが成人するまで聖女の役を任せても構わないと思いますが?」
「それでは遅い」
「遅い?」
ルーカスは首をかしげた。
「……おまえは、この世界の成り立ちについてどこまで知っている?」
「どこまでと言いましても。王族として必要な知識は得ているつもりですが」
「――聖女ミスズには大事な役割を担ってもらう。この大地のためにな」
表情を動かさず淡々と告げる父王の姿に、ルーカスは漠然とした不安が沸き上がるのを感じた。