生まれ出づる所、地獄につき注意。
意識が浮上する。
目蓋の向こう側に光を感じる。
(死んだ、いや、殺されたはずなのに…なんで意識が?)
目を開こうとするが、思うようにいかない。
(やはり、死んだのか?しかし、感覚はぼんやりとだがあるのは…)
そのとき、体の下に手を差し込まれる感覚と共に、浮遊感が生まれた。
「元気な男の子ですよ!リーザさん!」
(………どういう状況だ?これは)
なんとか開いたその目には、小さくなった俺の体を抱える、メイドの姿が写っていた。
それから数年、俺は、いや。僕は四歳になった。
だというのに、いまだ歩くことができないのだ。
そう、先天性の下半身不随である。
誰かを守らせてくれ、その願いすらかなわない人生。俺には、守る力すらなかったのだ。
「母さま、外に遊びにいきたい…」
「だめよフルー。あなたは外で遊べるような体ではないの」
フルー。それが今の俺の名前だ。
「でも母さま、エルは問題無いって言ってた…!」
僕の母さまの名前はリーザ。赤毛の美しい女性だ。そしてエルというのは僕の傍付きのメイド。エルフの少女である。
この家は村の外れにある。その理由は、とても醜い。
我が家系は、剣に秀でた者が多く排出されてきた。
その父親と結婚から四年という長い時間をかけ母から生まれた子供が僕だ。
しかし、足は動かず、優れた頭脳を持つわけでもなく、期待に沿わぬ出来損ないが生まれたというわけだ。
そのことを世間から隠すため、離れを建て、死産による精神的ショックの療養という名目で母はこの屋敷に軟禁されている。
僕は死んだものとされたのだ。父に。
唯一俺と向き合ってくれたのが、エルである。
魔法という技術に優れている彼女は、俺のなかにある魔力に気づき、目にかけてくれているのだ。
「坊っちゃん、坊っちゃん!」
母に外出の許可を出してもらえなかった僕は、自室で読書をしていた。するとドアを蹴破るようにして飛び込んできたエルは、興奮したように捲し立てた。
「坊っちゃん!やっと魔晶石の鉱脈を見つけてきましたよ!誉めてください!」
「ほんとかエル!さすがだ!」
「はい!」
俺はコートを掴むとエルの手を引き急いで屋根裏へと転移する。
「ぼ、坊っちゃん?褒美はそれだけですか?キスの一つくらい…」
エルがボソボソと何か言っているが、興奮している俺には聞こえない。聞き取れない。聞く気が無い。
「ようやく、守る力へ手がかかる…!」
これは、俺が三歳のときにエルと考えた俺の力を取り戻す計画だ。
忘れもしない、一年前のあの日を。
あのとき、エルと俺は知り合ったのだから。