悲劇
一人の男の話をしよう。
これはまだ魔法が栄えていた頃の話だ。
その男は村でも屈指の魔法使いで、盗賊から村を守ってきた。
しかし、上には上がいるもの。
国でも手を焼くほどの大規模な盗賊団がその村を襲った。
村人は彼を頼り、彼は期待に応えようとした。
奮戦むなしく、その村はその晩には滅んだ。数と疲労に負けたのだ。
それからの彼はあちこちをさ迷い、国を出て、大陸の辺境で新たな「家」をつくった。
今度こそ、守ってみせる。
その誓いをたて、修練を重ねた。
それから幾年か経ち、その男は世界最強の名を手に入れた。
魔法大会で優勝したのだ。
誓いを果たす力を手に入れた。そう確信して「家」へと帰った彼を待っていたのは、焼け落ちた家々と焦げたかつて人であったものだった。
また守れなかった。
また奪われた。
彼はその心を粉々に砕かれた。
それでも、と。彼はそれでも誓いを守ろうと戦った。
壊れた心はすべてを敵と見た。目に写るもの全てを破壊した。
それからも幾年が経った頃、彼は魔王と呼ばれるようになっていた。
誓いは擦りきれ、心は抜け落ち、ただ肉が辺りに破壊を振り撒く。それは災害であった。
災厄であった。
最後はあっけなかった。魔法が栄えているのなら、対抗すべく技術も磨かれる。
そう、最後は兵器群に跡形もなく焼かれた。
彼は世界に恨まれ、憎まれ、恐れられ、守ろうとした者に殺された。
死に行く瞬間、彼は願った。
「今度こそ、誰かを守らせてくれ」
───と。