北風と太陽の後日談
北風と太陽は、『どちらが旅人の上着を脱がすことが出来るか』という勝負をしておりました。
勝負に勝ったのは、太陽でした。
吹きつける北風の寒さで上着をしっかりおさえて離さなかった旅人も、照りつける太陽の光を浴びて自ら上着を脱いだのです。
北風と太陽の勝負のお話はここでおしまい。
これは、その後の旅人のお話。
やがて、暖かな太陽にすっかり慣れきってしまった旅人は、手にしていた上着を捨ててしまいます。
「ここはこんなにも暖かくて心地良い。もうこんな物は要らないだろう。」
旅人は身を包む暖かさを失う日など来ないのだと、安心しきっていたのです。
その暖かさがどんなに幸福なものであるかを、
北風の吹き荒ぶ寒い夜のことを、すっかり忘れてしまっていたのです。
太陽の恩恵を受け、穏やかな日々をすごせることを、まるで当たり前のことのように思っていたのです。
この幸福な日々を失うことなどないのだと、信じきっていたのです。
けれどももちろん太陽は、そんなことなど露知らず。
北風との勝負に勝ったことで、すっかり慢心しきっています。
「さてと、勝負にも勝ったことだし、そろそろ私も一休みするとしよう。」
そう言うが早いが、太陽はあっという間にぐうぐう眠り込んでしまいました。
こうして大地には夜が来て、
太陽が去ったことを知った北風は、以前にも増して力いっぱい吹きつけました。
「あの忌々しい太陽の奴が寝付いたならば、肩身の狭い思いも今日までだ。
これで私のやりたい放題暴れられる。」
上着を捨ててしまった旅人には、寒さに耐えるすべなどもうありません。
もっとも、暖かで平穏な暮らしに慣れきったその身体では、上着があっても凌げたかどうかわからないでしょう。
憐れ、旅人は寒さに凍え、
慣れ親しんだ暖かい日の光を二度と浴びること叶わず、一人寂しく亡くなったのでした。
《E N D》