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そこにいたのは
【ハロルド・ローレンス】
私は仕事を終え、その仕事場であるオペラハウスの裏
細い裏路地を歩いていた
灰色の空から、大粒の雨が降っている
早く帰ろう。
音楽家の仕事は楽しいが、疲れるものだ。
美しいものはどうしてか人を惹きつける
それがどんなものかわからずとも
ああ、吐く息が白い
早く帰って温まった部屋で曲を書こう。
愛しい娘も待っている。
私は歩みを早めた
彼はそこにいた
小さくなって震えていた
私の娘と歳も変わらないくらいの
少年がそこにいいた。
「どうかしたのかい?」
普通なら、知らないふりをするのだろう。
私もそのつもりだった
何故その時声をかけたのか、手を差し伸べたのかわからない。
私はなにを
「あ、えっと…」
ああ
「その…」
彼は、似ているな
「ごめんなさい…?」
あの娘に
「…………君は」