Ⅲ 出会い ――Encounter――
没案をそのままアップ。結局この辺りは変更なし。Ⅴ辺りからプロットを大幅に変えたので、その辺りから先の投稿は随分先になりそうです。
学園が夏休みに入り、多くの生徒達は実家へと帰省した。
しかしヴァイスのように帰る先が無い者やあまりにも家が遠い者、その他自主的に学園に残る者もいる。
そんな夏休みの一日目、ヴァイスはアリスと共にイリアに先導されて学園を練り歩いていた。
イリアと約束した遺跡探しである。
「ねえ、イリア。普通に歩いて見つかる物ならとっくに誰かが見つけているんじゃない?」
ヴァイスの質問に、ちっちっちとイリアが指を振る。
「だから先月のうちに聞き込みをしてこんなものを作ってみました! じゃん!」
イリアが取り出したのは手帳だった。表紙には学園七不思議探索マップと書かれている。
「学園七不思議をたどっていけば遺跡のヒントが見つかるかもしれないよ。それに七不思議が解明出来て二度美味しいこの企画、乗らなきゃ損ってものなんだよ」
「七不思議といいながら三十個以上あるんだけど」
楽しそうに話すイリアに手帳をぺらぺらとめくったアリスが突っ込みを入れる。
「これでも似たような噂は一つに纏めたんだよ。それでもこんなに不思議が学園にはあったんだ」
一ヶ月の休みは長い。それを考えたら学園不思議めぐりもそれほど悪いものでは無いだろう。
「まずは学園長について。八つの学園の学園長は全て同じ人で、それぞれの学園は普段学園長代理が切り盛りしてるんだけど、長い学園の歴史の中で学園長も学園長代理も代替わりをしたことがないんだ。だから噂だと学園長と学園長代理は人間じゃないんじゃないかって」
「それって、悪魔かもしれないってこと?」
悪魔。黒の森に住み、世界の節理を歪める術、魔法が使える存在。彼らが人間と変わらない姿をしているということをヴァイスは知っている。
「ヴァイス、正解。学園長代理はれっきとした悪魔」
アリスがヴァイスの言葉を肯定する。そのあまりにも断定的な口調にヴァイスは疑問を覚えた。
「どうしてアリスが知ってるの?」
「ヴィヴィとは知り合い。私達はヴィヴィに頼んでこの学園に入れてもらった」
ヴィヴィとは学園長代理の名前だ。
どういう経緯で知り合ったのかは知らないが、聞かないほうがいいだろう。
過去に何かあったのなら、いつか話してくれる時が来る。そう信じることにする。
「でも、それなら学園長室が怪しいかも」
イリアがそう提案する。確かに学園長室は普段教師以外立ち入らない。その床に地下への階段か何か隠されていてもおかしくはない。
「とりあえず行ってみよう!」
イリアを先頭に、ヴァイス達は学園長室へと向かった。
職員の使う棟に入り、学園長室の扉をノックする。
中からどうぞ、と女性の返事がした。
「失礼しまーす」
「失礼します」
「……」
部屋の中に入る。そこには赤い高級そうな絨毯が敷かれ、大きな木製の机があった。
机の向こうに座っているのは、二十歳を超えているようには見えないくらい若い女性だった。陽光を浴びて輝く金の髪が長く伸びている。
悪魔とはこうも美しい者ばかりなのだろうか。そんなことをヴァイスは考える。
その間にイリアが机を挟んでヴィヴィと対峙した。
「ヴィヴィ。ここには秘密の階段とかそういうのはないの?」
「ありますよ」
「えええっ!?」
ヴァイスは思わず声を上げる。そんな物がある事とそれを簡単に教えられてしまった事両方に驚いたのだ。
「この絨毯の下に隠し階段があります。これは緊急避難用の隠し通路の入口で、森の中の洞窟と繋がっています」
「へー。そうなんだ」
感心の声を上げるイリア。
だがヴァイスは違った。
緊急避難用。そんなものが本当に必要なのか疑問に思う。そのような非常事態がまるで想像できないのだ。
「しかし、どうしてそのようなことを聞くのですか?」
「遺跡探しをしているんだよ」
堂々とヴィヴィに言い放つイリア。ヴィヴィの反応は、苦笑を浮かべるだけだった。
「そんなものがあるかどうかは私も知りません。学園長なら知っているかもしれませんが、今頃彼女は放浪しているでしょうから……。まあ、学園を壊さないように探検してくださいね」
にこやかに言うヴィヴィ。止められる可能性を考えていたヴァイスは肩透かしをくらってしまった。
「ありがとう。じゃあね、ヴィヴィ!」
「失礼しました」
「……」
学園長室を出る三人。とりあえず一つ目の噂はこれで終了だ。
「嘘をついている」
終始黙っていたアリスがぼそっと呟いた。
「嘘?」
「ヴィヴィは遺跡の場所を知っている。ヴィヴィからは嘘の色が見えた」
アリスがそういうのなら本当だろう。
そして、それが事実であるならば遺跡が実在することになる。
「じゃあ二つめの不思議に行ってみよう!」
そう言うイリアの紅い瞳は期待に染まっていた。
楽しそうに前を向いて歩くイリアのツインテールが一歩ごとに揺れている。
「次の場所は教会だよ!」
そう言うと手帳を仕舞いイリアは走り出した。ヴァイスとアリスもその後を追って走る。
やがて初等部の寮を過ぎたところにその建物は建っていた。
青い屋根に白い壁。十字架が屋根の上に取り付けられている。
名も無き神。この神は教義も何も無く、ただそのシンボルである十字架とそれに祈る風習だけが伝わっている。
主にここを使っているのは初等部の子供達だ。週に一度この教会で祈りを捧げるのがここでの習慣だ。
「この教会では妖精が出るそうなんだよ」
「妖精?」
妖精。それは幽霊と並んで不思議な現象の原因にされてきたものの俗称だ。
地域によって妖精の姿はまちまちで、基本的に胡散臭いものの代名詞である。
「夜に光る何かが飛んでるそうだよ。他にも色んな怪現象がおきているみたい」
「それなら夜まで待たなきゃいけないんじゃない?」
というよりこの教会に遺跡の入口があるのだろうか。あまり入口を隠せる場所はなさそうだけれど。
「とりあえず中を調べてみようよ。この教会も古いし、何か面白い仕掛けがあるかも」
教会に入っていく。長椅子が規則的に並び、奥の中央には大きな十字架が飾られている。
早速調査を始めてみた。絨毯をめくり返し、その下の床を確かめる。
壁を叩き、中が空洞になっていないか確かめてみる。
それから壁にはめ込まれた絵が動いたりしないかどうか、床に不自然な点がないかどうか確かめて回る。
「あ」
「ヴァイス、何か見つけた?」
「とりあえず、妖精の正体は分かった」
天井を指差す。そこには青白い光の玉が浮いていた。精霊の光球よりも二回りは大きい。
ウィスプ。魔獣の一種で、人畜無害。廃屋などで見られることが多い。物理的な実体が無い存在なので、基本的に魔術でしか退治できない。
「なーんだ。妖精じゃなかったんだね」
「そんなに妖精に会いたいの?」
「うん! ボク幽霊は見たことあるけど妖精は見たことないんだ。だから一度会ってみたくて」
目を輝かせるイリア。その様子にアリスが嘆息する。
「イリア。次に行こう」
「あ、うん。次は錬金科の工房の噂だよ。なんでも工房の中には惚れ薬のレシピが隠されているんだって」
その言葉にアリスがその紅い瞳を輝かせた。どうやら興味があるらしい。まだ作ったことのない魔法薬なのだろう。
「イリア、ヴァイス。行こう」
一人先に教会の出口に歩いていくアリス。イリアと目をあわせ、二人苦笑してアリスの後を追った。
高等部の校舎の隣。そこに大きめのレンガ造りの建物があった。これが工房。錬金科の学生が魔法薬の精製などを行なう場所だ。
扉を開けようとすると鍵がかかっていた。まあ、危険物の多いアトリエに無断で誰かが入ったりしない様にしているのだろう。
「ボクが開けるよ」
イリアが扉に手を当てる。どういう原理かわからないが、ガチャリと鍵の開く音がした。
「イリア。鍵を閉めることも出来るの?」
「うん。朝飯前だよ」
得意気に笑うイリア。そしてアリスは扉を開けて先に一人入って行ってしまった。慌てて後を追って中に入る。
中には幾つもの机とその上に置かれた実験道具、そして魔法薬の原料などが入った大きな棚があった。
とりあえず三人で壁と床を念入りに調べてみる。
コンコンコンコン――コーン
壁を叩きながら歩いていると、中が空洞になっているのか音が違う部分があった。押してみると、壁に四角く線が入る。その四角の中心を軸にその部分が回転する仕掛けのようだ。中からは一冊のメモ帳が見つかった。
「アリス! 見つけたよ!」
直ぐにアリスは駆け寄ってきた。メモ帳をめくって内容を確かめていく。
「これは……禁薬の精製法」
禁薬。それは一般的に倫理上問題のある薬を指した名称だ。
アリスの生産している薬の大部分がこれに当たるのではないかとヴァイスは常々思っている。
「惚れ薬についても記述があった」
「本当!?」
イリアが激しく反応する。
「これは――恋愛というものを生殖本能の観点から分析した物の様。……性質が悪い」
「えっと、どういうこと?」
アリスに説明を求める。アリスはため息をついてそのメモ帳を懐にしまうと、説明をしてくれた。
「恋愛とはつまるところ性欲と直結しているとした上でこの薬は作られている。これは対象を自分に対して軽い発情状態に陥らせる効果を持つ。つまり、媚薬」
「なるほど。確かに性質が悪いね」
そしてそんなもののレシピを懐に納めたアリスも性質が悪い。実験台にならない様に気をつける必要があるだろう。
そこでヴァイスはふと気付いた。イリアが意気消沈している。
「イリア。そんなに惚れ薬が欲しかったの?」
「うん。だって惚れ薬なんてロマンチックだもん」
人の意思を強制的に改変するような薬のどこがロマンチックなのだろうか。
「誰か惚れ薬を使いたい相手がいるの?」
「いないよ? ビンに詰めて棚に飾っておきたかっただけ」
イリアに色恋の影はまるでないらしかった。今まで男子から告白されて全てを断ってきたのも、恋愛に興味がなかったからなのだろう。
壁を元通りにして工房を後にする。そこで昼の鐘が鳴った。
「とりあえず、ご飯を食べに行こう」
寮のところまで戻って学食棟に入る。昨日まではあれだけ騒がしかった食堂が今は閑散としていた。
配膳口からトレイに乗った昼食を受け取りテーブルに座る。
「それで、次はどこに行くの?」
「えっとね、中等部の校舎にあった枯れ井戸だよ。昔その井戸に落ちて死んじゃった子供の幽霊が出るんだって」
学園には湖に注ぎ込む大きな川が流れている。
だから本来必要ないはずの井戸が、なぜか中等部の校舎の傍にあるのだ。
井戸には金属の蓋の上に大きな石が乗っかっていて、中を確かめた者は誰もいない。
「怪しいね」
「うん。確かに」
幽霊のことはさておき、確かにあの枯れ井戸を調べてみる意味はあるだろう。
「ところでアリス。そのメモ帳、一体どんな薬が書かれているんだ?」
パンをかじりながら先ほど入手したメモ帳を読みふけるアリスに聞いてみた。
「人間を吸血鬼にする薬。一定期間仮死状態になる薬。麻薬。痛覚を過敏にする薬。魔力を増幅するけど意識障害が起こる薬。あと色々」
ろくでもない薬ばかりだった。
そして人間を吸血鬼にする薬というのが非常に胡散臭い。
吸血鬼など昔話に出てくる伝説のようなもので、悪魔より信憑性が薄い。
そんな薬が実在するならば、本物の吸血鬼が実在していないとおかしい筈だ。
「精力剤なんかも載ってる。ヴァイス、試してみる?」
「嫌だよ。絶対」
そんなメモ帳に載っている薬なんて危なそうでとても飲む気にはなれない。
「楽しい夢を見続けられる薬もある」
「見続けられるって部分が恐いんだけど」
夢から覚められなくなるんじゃないだろうか。
「お姉ちゃん、ヴァイス。早く食べて行こうよ」
気が付けばイリアのトレイの上はすっかり空になっていた。ヴァイスは慌ててスープに口をつける。
そしてトレイを片付けた後で、三人は中等部の校舎を目指した。
中等部の校舎、その傍にある井戸の周りを三人で囲む。
イリアが手をかざすと、井戸の上にあった石が浮き上がって井戸の横に着地した。
金属製の蓋を開けて中を覗き込む。暗くて底が見えない。
アリスが光球を作り出してゆっくりと井戸の中に落としていった。
井戸の中に水は無い。壁の様子は上からではよく分からなかった。
「ちょっと降りてくるね」
そう言ってヴァイスは井戸の縁に足をかけ、その中へと飛び込んだ。背から光の羽が生え、ゆっくりと井戸の底に降りていく。
そして井戸の底に静かに降り立つ。見れば、壁の一部がぽっかりと穴があいていた。人一人くらいなら余裕で通れる大きさだ。穴の先は見えないが、どうやら通路になっているようだ。
「おーい。穴を見つけたよー」
井戸の中を声が乱反射する。イリアとアリスがゆっくりと浮いて降りてくるのを見て、ヴァイスは穴の中に浮いたまま入った。
「今度こそ当たりかな?」
「行ってみれば分かるよ」
光の羽を展開して地面すれすれを飛びながら進む。その後をイリアとアリスが付いてくる。
やがて進んでいくうちに通路が広くなった。そこでは道が二手に分かれている。一方は狭く、一方は広い。
「こっちの通路。もしかして学園長室から続いているんじゃないかな」
「あにゃ、それって……」
これも緊急避難用の通路の可能性が高い。となるとこのまま進めば出るのは遠い森の中だ。
「どうする? 引き返す?」
「とりあえず進んでみようよ。はずれでも面白そうだし」
イリアの言葉に従い、広いほうの通路を進んでいく。半刻ほど歩き続けただろうか。やがて光が進む先に見えた。出口だ。
出てみると、そこは森の中の丘陵部だった。振り返ると、ぽっかりと下に続く洞窟が口を開けている。
「にゃー。はずれか……」
声は残念そうだったが、イリアの顔は笑っていた。冒険が好きなイリアにとって、こういった秘密の通路というのも楽しいのだろう。
遺跡探しだって冒険をするための名目だ。見つけることよりもその過程を楽しむことが重要なのだ。
「それじゃあ、空から帰ろうか。井戸に蓋をしなくちゃいけないし」
そう言ってイリアは宙に浮き上がる。アリスもそれに続き、ヴァイスもそれを追って空に上がった。
森の上空から見ると、ティレクから随分と離れていた。町ごと包囲される状況でも想定しているのだろうか。
この避難用の通路を作ったであろう人物を思い浮かべ、ヴァイスは頭を振った。
多分、面白半分に作ったのだろう。こんなこともあろうかと、というのが大好きな人だ。これもきっとそういったものの一つだ。
空をゆっくりと飛んでティレクへと向かう。
高速で飛ぶことも出来なくはないのだが、高速飛行用のゴーグルを持ってきていない。ゴーグル無しでは強風に涙が止まらなくなり、前が見えなくなってしまう。
そして中等部の井戸の所に降り立つ。蓋を閉めてイリアが魔術で石を載せた。
これで枯れ井戸の秘密も分かった。幽霊のことは分からなかったが、イリアが気にしていない様子なので黙っておく。
「次は――夜になると現れる扉。学園のどこかに夜にだけ現れる扉があるんだって。だけど、見えるだけで触る事は出来ないみたい」
「それは夜にならないと確かめられないね。その次は?」
「図書館の影。誰もいないのに、図書館の床に歩いている人の影が現れる。……誰かが魔術を使って姿を消していただけじゃないのかな」
「いや、そんな事イリアにしか出来ないと思うよ」
そうかなあ、と呟くイリア。
姿を消す魔術などヴァイスは知らない。
そんな物が使えるとはイリアから聞いた事はないが、そのような事を言うからにはそういった魔術を開発した事があるのかもしれない。
「とりあえず図書館に行こうよ。もしかしたら遺跡の入口が隠されているかもしれないし」
そうイリアが提案する。あの広い図書館を調べて回るのは骨だが、イリアはひどく楽しそうだ。
「ねえ、イリア。遺跡が見つかったらどうするの?」
「もちろん、探検だよ! 学園の秘密だよ? 面白そうだよ!」
元気いっぱいの返事が返ってきた。こんなに楽しそうな笑顔を見られるのだから、それだけでも手伝う意義がある。
「分かった。図書館に行こう」
「……(こくり)」
無言で頷くアリスと一緒にイリアの後について図書館に向かう。ちらりとアリスの様子を見る。その表情からは何も読み取れない。だが、少なくとも嫌がっているということはなさそうだ。
図書館に入る。窓が全て開かれていた。司書の人はいないようだ。
無人の図書室を三人で手分けして調べる。
床をコツコツと鳴らしながらちらりと影を見るが、七不思議の影は見当たらない。
それを少々残念に思いながら図書館を回る。
そして図書館で最も怪しい場所に三人は集まった。
古い文献が収められた蔵書室。かかっている鍵をイリアに開けてもらい、中に入る。
蔵書室には窓がない。そのためアリスに明かりの光球を部屋中に飛ばしてもらい、明るくなった部屋の床や壁を慎重に調べて回る。
「あっ!」
「見つかった?」
声を上げたイリアの元に近付いていく。そこではイリアがボロボロの本を手に取っていた。
「旧世界の文献だよ、ほら!」
「ホントだ。えーと、『虚数空間論』?」
「ヴァイス、英語が読めるの!?」
イリアに大層驚かれた。アリスも何事かと近付いてくる。
「えっと、昔教わったことがあるんだ。それよりイリア。何で英語を知ってるの?」
その質問にわたわたと手を振るイリア。かなり動揺している。
「えっと、それは……秘密! そう、秘密だよっ!」
「分かった。聞かないで欲しいならそうする。……ところでイリア、遺跡は?」
「そ、そうだね! 遺跡を探さないと!」
本を棚に戻し、慌ててヴァイスから離れていくイリア。ヴァイスはそのままその棚を眺めて、ふと棚の下に積まれていた古びた紙の束を手に取った。
「これは……学園を造ったときの記録?」
その紙には学園の図が載せられていた。めくってみると、建設の際の詳細な記録が載っている。
そこで、ふとヴァイスは奇妙な事に気が付いた。
「ねえ! これを見て!」
床を調べている二人に呼びかける。近付いてきたイリアとアリスにその紙を見せた。
「これ。ここを見て。学園が建設された時、一番初めに時計塔が造られたんだ」
「あ……ほんとだ」
「しかもほら。校舎や寮は設計図があるのに、時計塔だけ設計図が無いんだ」
ぺらぺらと紙をめくる。そこには校舎などの図面があった。しかもその中には隠し通路の設計図まで含まれている。
それなのに、時計塔だけ設計図が無い。怪しい事この上なかった。
「あと、今気付いたんだけどどうやって時計塔は動いているんだろう。誰かが管理しているわけでもないのに、ずっと動き続けているなんておかしいよ」
「うん。じゃあ、時計塔に行ってみよっか!」
棚に資料の束を戻し、蔵書室を閉める。無論鍵をかけなおすのも忘れずに。
そして三人は時計塔へと走った。学園の中央に位置する大きな鐘のある時計塔は、今日も狂うことなく時間を刻み続けている。
この時計塔を当たり前と受け入れていた自分を恥じる。
誰も調整せずに二十四時間という時間を毎日正しく刻む時計。
長い間風雨にさらされて錆びることのない大きな鐘。
そして謎の動力源。
これ以上怪しい施設はこの学園には無いだろう。
「鍵を開けるよ」
イリアが扉を開く。開かれた扉の中には、一面の黒い壁があった。
中に入って通路を歩いてみる。どうやらこの四角い時計塔の中心に大きな円筒状の壁があるようだ。
ぐるっと一回りして見つけたものは、上に上る階段のみ。
「上に行く?」
「……もうちょっと探してみよう。もしかしたら見落としがあるかもしれない」
アリスの質問にそう答える。まずは円筒状の壁を調べる。
破壊すれば中に入ることは出来るかもしれないが、それはヴィヴィから釘を刺されている。
次に床。一メートル四方の石が敷き詰められている。一つ一つ丁寧に見て回ると階段の裏の石の一つだけ溝が深かった。
「イリア。この石を持ち上げてもらえる?」
「うん。分かった」
イリアが石に手を当てる。すると立方体の石が空中に浮き上がり、四角い穴が姿を現した。
アリスが光を穴の中に入れる。どうやら下に部屋があるようだった。
「これが、遺跡の入口?」
「かもしれない。入ってみよう」
「うん!」
イリアが穴の中に飛び込む。そして穴の底で幾つもの光が灯った。
照らし出されたのは銀色の狭い空間。遺跡によく見られるという金属製の壁だ。
ヴァイスも四角い穴に飛び込む。その後にアリスが続いた。
イリアの光に照らし出されたのは上に続いていると思われる円筒状の壁。ただしこちらは壁が金属で出来ている。
部屋を回っていくと、通路への出口があった。通路は左右に伸びている。
「よし。右に行ってみよう!」
興奮気味なイリアに続いて通路を歩いていく。通路の先には閉じられた金属製の扉と下へと続く階段があった。
「スライド式の扉だね。電力の供給がないと開きそうにないよ」
「イリア、よく知ってるね」
「あ、うん。そういう知識はあるんだ」
少しイリアの言葉が気にかかった。少しだけイリアの持つ空気が暗くなったからだ。
だが、次の瞬間にはイリアは持ち前の明るさを取り戻していた。
「とりあえずここは後回し。まずは下に行ってみよう!」
そう言って階段に突撃していくイリア。アリスと一緒にその後を追う。
階段を下りた先は天井の高い部屋だった。壁の上部にでっぱりがあり、そこからはガラスで部屋が見下ろせるようになっていた。
「あの扉はあの部屋のものだったみたいだね」
「でもここは何をする部屋なのかな」
イリアとアリスの明かりに照らされた部屋には何もなかった。ただ、床が大分黒ずんでいる。
「まあいいや。今度は逆の道に行ってみよう」
イリアにしたがって下りてきた部屋の前に戻り、逆の道へ行く。
そこには通路の左右にぽっかりと空いた二つの入口と突き当たりにある閉じられた扉、そして下へと続く階段があった。
まずは通路右手の入口に入る。その部屋には椅子型の機械が三台設置されていた。
「学習装置……!」
思わず呟く。この機械についてはヴァイスの知識にもある。
「ヴァイス、知ってたの?」
「うん。脳に直接情報を書き込む機械だよ」
そこでふと気付いた。一つだけ椅子の隣にあるコンソールの赤いランプが付いている。これだけ電気が通っているのだ。
疑問を噛み殺し反対側の部屋へと向かう。
そこには大きな試験管を逆さまにしたような装置が五台設置されていた。これもヴァイスは知っている。
「培養槽……」
今度はイリアも何も言わなかった。だがこれが何か知っているのだろう。表情が随分神妙なものになっている。
ここも一つだけ培養槽のガラスの中に液体が入っていないものがあった。それが意味することは、おそらく――
「下に行ってみよう」
イリアの静かな言葉に小さく頷きを返し、部屋を出て階段へ向かう。
そして階段を下りた先にあったのは、カプセル状の機械だった。
ただし壁に大きな穴が開いていて、そこから幾つものケーブルがカプセル状の機械に繋がっている。
おそらくこの機械は外から持ち込まれたものなのだろう。
ヴァイスはカプセルの上部の丸いガラスから中を覗き込む。
そこには、女性の顔があった。
カプセルの横に取り付けられた操作盤にイリアが触れる。
表示された画面に対し、イリアは迷うことなくコマンドを入力していく。
『声紋認証を行ないます』
表示された画面にイリアがうろたえる。
「……どうしよう、ヴァイス」
「ロックがかかってるの?」
イリアに言葉を返した次の瞬間、ピッという電子音が響いた。
『声紋照合。ヴァイス・アンヘル――――承認。解凍作業を実行します』
カプセル型の機械――冷凍睡眠筐体から冷たい霧が噴出する。しばらくすると霧は全て消え失せ、カプセルが開く。
中から出てきたのは真紅の長い髪をした女性だった。その白い肌とは対照的な、黒いぴっちりとした上下のアンダーウェアを装着している。
そして女性が目を開いた。翡翠を思わせる緑の瞳がヴァイス達を捉える。
「……ヴァイス・アンヘルはあなたですか?」
「へ?」
上体を起こし、質問してきた女性にイリアが素っ頓狂な声を上げる。
慌ててイリアはヴァイスを指差した。女性の視線がヴァイスに移る。
「僕がヴァイスだよ。君は?」
「私に名前はありません。製作者はヴァイスに名前をつけてもらうよう指示しました」
「僕に?」
製作者が誰なのか、ヴァイスには見当がついている。
いつだったか機械に声を記録させられた記憶もある。
どういう意図であの人がこの女性を生み出したのか知らないが、確かに名前が無いままではかわいそうだ。
「わかった。その前に聞かせて。君は何者なの?」
「私は人造人間です」
「ほむんくるす?」
ヴァイスはイリア達に振り返る。イリアもアリスも首を横に振った。彼女達も知らないらしい。
「人間を模して生み出された、核にフィロソフィアストーンを使用した人工生命体のことです」
あくまで事務的な対応。
おそらく彼女は上の培養槽で生み出され、脳に知識だけを強制入力されてここで眠りに就いたのだろう。
「私は学習装置から二つの指示を受けました。ヴァイス・アンヘルの傍に侍り仕えることと、ヴァイス・アンヘルを試すことです」
「試す?」
「私と戦闘を行い、五分間生き延びること。これが学習装置からの指示です」
物騒な事を言う女性。五分間生き延びろとはどういう意味だろうか。
「とりあえず、その前に名前だよね。名前、名前……」
いい名前が思いつかない。うんうん唸ること三分。ようやく思いついた名前を口にする。
「名前、ユーリでどう?」
この女性を生み出したと思われる人物の名から一文字取ってみた。それを聞いて女性は小さく頷く。
「ユーリ……。認識しました。私の個体識別名称はユーリです」
無感動に淡々と話すユーリ。その様子に既視感を覚える。
それは造られた者達特有の感覚。知識のみが先行し、経験を重ねる事で個性というものを確立していく。
おそらく、ユーリもこの学園で過ごしていく内に少しずつ生の喜びというものを手に入れることが出来るだろう。
ユーリが筐体から床に降り立った。背が高い。ヴァイスも背は決して高くないが、ユーリはヴァイスより頭一つ分は高い。
長い前髪をさらりと流し、ユーリが口を開いた。
「では試練を始めます。付いて来て下さい」
ユーリに先導されて連れてこられたのは、反対側の階段を下った先の大きな部屋だった。
イリアとアリスは壁際に。ユーリはヴァイスと距離を取り、部屋の中央に立つ。
「これから戦闘を始めます。戦闘制限は五分間。時間は私が計測します」
淡々と告げるユーリ。
ホムンクルスというものがどのようなものかは知らないが、生き延びるというおっかない指示が出されるほどだ。決して油断は出来ない。
「では、始めます」
瞬間、ユーリの姿が消えた。ユーリは寸前までヴァイスの居た位置の前に現れ、跳んだ勢いを殺そうとしてつんのめり、三回前転をして立ち上がった。
ユーリの突進を避けられたのは偶然だ。
ヴァイスはユーリが開始の合図を出す前にサイドステップをした。それがヴァイスをユーリとの衝突から救ってくれたのだ。
「私の身体能力が一瞬著しく低下しました。ヴァイス・アンヘル。あなたは何をしたのですか」
「僕の事はヴァイスでいいよ、長いから。僕の近くに寄ると、魔力で強化された分の身体能力は失われるんだ」
質問に答えながらいつでも動けるよう小刻みにステップを踏む。先程の様な勢いでぶつかられたらダメージも半端なものでは無い。
「理解しました。では、これでどうでしょう」
ユーリの周囲に六つの赤い光球が生まれる。それらがとてつもない速度でヴァイスに殺到した。
「っ!」
へその下に力を入れる。光弾はヴァイスに触れるその直前で砕け散って消えてしまった。
「魔法を消去した? ……分かりました。あなたは摂理の力を行使するのですね」
ユーリが呟いた言葉の意味は理解できない。
が、とりあえずユーリがヴァイスより遥かに高い身体能力を持つ事と、悪魔にしか使えないという魔法を使えるという事だけは解った。
そしてヴァイスが身構えた瞬間、ユリアが再び床を蹴る。
今度の跳躍は先程より勢いが無かい。
そのためヴァイスはユーリの動きをはっきりと見ることが出来た。
ユーリはヴァイスの前に着地し震脚から拳を突き出す。
それを体をひねることで躱し、ユーリの鳩尾に右拳を叩き込む。
さらにくの字になって宙に浮くユーリの側頭部に左足で回し蹴りを加えた。
右に吹き飛び倒れこむユーリ。
だが、まるでダメージが無いかのようにユーリは平然と体を起こした。
「言い忘れましたが、私の体は多少の怪我であれば即座に回復します。私への攻撃に手加減は不要です」
ユーリの宣告に愕然とする。
今のはヴァイスにできる最大の攻撃だった。それがダメージを与えられないのであれば、ヴァイスにユーリを倒す手段は無い。
五分間という時間制限はこの為のものだったのだとようやく理解する。
再びユーリの体が消える。
肩からぶつかってきたユーリにあっけなく吹き飛ばされる。
そのショルダータックルに息が詰まり咳き込む。そこに追いついてきたユーリの蹴りを受けて床に転がされた。
ヴァイスの能力で身体能力は低下しているはずなのに、それでもなおヴァイスを宙に浮かせるほどの威力の蹴りを放ったのだ。
体を起こした瞬間、手足を使って横に十メートルほど跳躍する。
見ればヴァイスが居た所の床にユーリの拳が突き刺さっていた。
ヴァイスはユーリが動くよりも早く横に跳躍する。
その次の瞬間にはヴァイスの居た空間に蹴りが放たれていた。
ユーリの行動を先読みし、実際に動くよりも先に動かなければなぶり殺しにされてしまう。
そして次の瞬間ヴァイスの目の前にユーリが現れ――その側腹にヴァイスの膝が食い込んでいた。ヴァイスはユーリが動く前に既に蹴りを放っていたのだ。
だがユーリは一瞬顔をしかめただけで、ヴァイスの腹に拳を叩き込んだ。
ごほ、と肺の空気が押し出され、それでも体を動かしてしゃがみ込む。
その頭上をユーリの蹴りが通過していった。ヴァイスが最初に仕掛けた攻撃をそのまま返してきたのだ。
しゃがんだ体勢から足払いを仕掛ける。軸足を刈り取られ転ぶユーリから距離をとった。
――まともにぶつかり合ったらこっちがやられる。逃げ続けて時間切れを待つしかない!
だが、ユーリは一歩、また一歩と歩いて距離を詰めてきた。
ヴァイスの攻撃は一瞬しかダメージを与えられない。
逆にユーリは身体能力が低下しても重い一撃を繰り出せる。
先に攻撃を繰り出したところでやられるのはヴァイスの方だ。
サイドステップで弧を描くようにユーリから距離をとる。
ヴァイスに向かってゆっくりと足を勧めていたユーリが強く床を蹴った。
静から動への瞬間的な変化に反応が遅れる。
なんとか体を捻ると、ヴァイスの横腹をユーリの貫手が掠めた。
シャツが破れ、掠めた肌には赤い線が走る。
お返しとばかり無理な体勢からユーリのあごに拳を見舞った。
威力は無いが脳を揺さぶる一撃にユーリは崩れ落ちる。
ヴァイスが後ろに飛びのくと、倒れたユーリは直ぐに起き上がった。
「脳へのダメージも回復するのか……」
どういう原理かは分からないが、これでユーリを昏倒させることは不可能だという結論に達した。
ヴァイスに残されたのは、無様に攻撃を受けながらなんとか致命的な一撃を避けるという道だけだ。
至近距離で放たれる拳を両腕でガードし、頭部への蹴りを躱し、隙あらば反撃に移って僅かに動きを止めて距離をとる。
「反則もいいところだよ……!」
愚痴をこぼした瞬間、懐にもぐりこまれた。
「しまっ――」
「終わりです」
世界が一瞬で闇に染まった。あごに拳を打ち込まれたのだ。
背中から倒れこむ。ユーリは倒れたヴァイスの上に馬乗りになり、拳を振り上げ――その拳を静かに下ろした。
「……?」
ユーリはヴァイスの上から立ち上がった。ヴァイスは鈍くなった体を無理矢理起こす。
「五分間が経過しました」
どうやら無事乗り切ったらしい。緊張が切れて、力なく倒れこむ。
「ヴァイス!」
イリアが叫び声を上げて駆け寄ってきた。手をひらひらとさせて無事だと伝える。
「治癒をかけましょうか?」
ユーリが無表情なまま感情のこもらない声でそう言った。
「無理だよ。ヴァイスに魔術は効かないんだ。例えそれが治癒であっても」
イリアがユーリに説明する。その間に近寄ってきたアリスが懐から試験管を取り出した。
「治癒の魔法薬。貴方が体の周りに張り巡らせている魔力は魔力素を世界の裏に追放するけど、体内の魔力は逆に魔力素を吸収して身体能力を向上させている。だから、服用者の魔力を使用する魔法薬なら効果がある」
「……副作用は?」
「極端に眠くなる。それだけ」
アリスから試験管を受け取り、栓を抜いた。
そのまま澄んだ緑色の甘ったるい液体を飲み干す。
試験管をアリスに返したところで猛烈な睡魔に襲われた。
重くなったまぶたを閉じ、床に再び倒れこむ。
そしてヴァイスの意識は深い闇へと飲まれていった。
ヴァイスは目を開いた。見慣れた天井が目に入る。
どうやら寮の自室のベッドに寝かされていたようだ。
体を起こすと、三人の少女が部屋の真ん中でテーブルを囲んでいるのが目に入った。
「あ、起きた」
「イリア、あれからどうなったの?」
近づいてきたイリアにとりあえず質問する。
「ヴァイスが眠った後、とりあえずここにヴァイスを運んできたんだよ。大丈夫? 痛いところはない?」
体をあちこちさわってみる。どこにも異常は無い。
シャツから覗く薄く切れたはずの脇腹にも傷は無くなっていた。
「うん。大丈夫みたいだ」
「よかった。ところでユーリのことなんだけど……」
ちらりとユーリのほうを見る。その視線を受けてユーリはヴァイスのほうを向いた。
「私に下された指示はヴァイスの傍に侍り仕えることです。私は万難を排し、これを実行します」
「いや、そんなのやらなくていいから。それよりユーリのこれからのことなんだけど……」
「ヴィヴィに話は通してきた。ユーリは特待生として私達の科に編入させることになった」
ヴァイスの懸念にアリスが説明をしてくれる。
「ただし女子寮に入ることが条件。ユーリはそれを拒否した」
「私は常にヴァイスの傍にいなければならない。それが私の使命です」
「ちょ、ちょっと待って。もしかしてここで暮らすつもりなの?」
ヴァイスの言葉に頷くユーリ。
「駄目だよ。その、君だって女の子なんだから……」
「私に興味があるのですか? 私は生殖行為は出来ますが、生殖能力がありません。子供ができる心配はありませんが」
「いや、みだりにそんなことをしちゃいけないんだって! 君は女子寮で暮らすの!」
「それは命令ですか?」
命令。ユーリはヴァイスに仕えると言っていた。ヴァイスが命令すれば従ってくれるかもしれない。
「うん、命令だ。卒業するまで学生として女子寮で暮らすこと。あと学園の規律を守って生活して欲しい」
「……命令でしたら仕方ありません」
あきらかに不服のオーラを出しながらユーリがしぶしぶ承諾する。
学園に学生以外の人間がいれば問題になるし、学園から放り出すわけにもいかない。
言うことを聞いてヴィヴィの温情に甘えさせてもらうのが得策だ。
それにヴァイスも男である。同じ部屋で寝泊りしたり、あまつさえ風呂に付いて来られたりしたら理性が持たないかもしれない。
そんなことを考えていると、ついユーリの胸に視線がいく。
十分過ぎる程立派な大きさだった。ヴァイスが女の体になったときとそう変わらない大きさのように見える。
「じゃあボク達はヴィヴィに会ってからユーリを女子寮の部屋に連れて行くね」
「あ、ちょっと待って」
立ち上がるイリアの手を取って引き止める。
「本当は誕生日まで待つつもりだったけど、今日召喚を行うよ。夜九時の鐘の後、あの木の下まで来て欲しいんだ」
「うん。分かった」
「……(こくり)」
イリアが嬉しそうに微笑み、アリスが無表情のまま頷く。
どうでもいいけれど、ユーリとアリスを同じ部屋に置いておくと一言も会話をしないんじゃないだろうか。
三人が部屋を出て行く。ヴァイスは机の奥から古びた紙を取り出した。そこには蛇と二匹の狼が描かれている。
ふと窓から外を見る。山の上で赤い夕日が輝いていた。
窓を開けて宙に浮かぶ。そのまま窓から出て空高くに上っていく。
見下ろした町と湖は夕日の光を照り返し赤く輝いていた。
その景色を見て気持ちを入れ替える。
小さく時計塔の鐘の音が聞こえた。
夕食の時間だ。
ヴァイスは名残惜しげに湖を見つめ、学園へと降りていく。
そして、夜が始まった。
東方と他の練習作の方をしばらく優先するので次話は相当先になります。ご容赦下さい。




