*何者だ?
船の修理を行うため白銀たちは近くの惑星『トルコメシャス』に向かう。
トルコメシャスは工業惑星だ。人件費が安いため色んな工場がひしめき合っている。
「ムルスカ港に降りてくれ」
「! 知り合いでもいるのか?」
「うむ。そこなら格安で修理をしてもらえるだろう」
白銀は半ば疑いながらもムルスカ港に進路を取った。
「ベリル! 久しぶりじゃないか」
ガタイの良い男がベリルを見つけて笑顔で近づく。
ムルスカ港にほど近い個人の修理工場に白銀たちは来ていた。大型船を収納できる規模の個人の修理工場は珍しい。
「!」
ベリルに声をかけてきた男の顔と肌に白銀は目を見張った。薄青い肌と部分的に鱗状になっている腕。そして白目の無い瞳は銀色だ。
「わ~ウォーテリア人だよね」
ディランが珍しそうにその男を眺める。男は怒った素振りも見せず豪快に笑った。
「わっはっはっ、珍しいだろう」
「うん、肌とか水色で綺麗だね」
水上惑星『ウォーテリア』に住む種族。総人口がきわめて少なく人見知りの激しい人種なのだ。
その中でもこうして外の世界に出て暮らしている者も多くはない。セピア色の髪をかき上げ男はベリルに向き直った。
「修理か?」
「うむ。よろしく頼む」
男はまくっていたつなぎの腕を戻し船に向かった。ディランがそれについていく。
「セレンは腕が良い」
心配そうに後ろ姿を見ていた白銀にベリルは安心させるように発した。
「俺はどっちかっていうとあんたの方が心配だけどね」
「……」
その言葉にゆっくりと視線を外すベリル。
「ほぅ~こいつは整備がしっかりしてる船だな」
「俺がいつも点検してるからね」
エンジンルームでセレンとディランは機械を眺めて語り合う。
「こいつは凄いエンジンだな。個人で持つには余りあるんじゃねえか?」
「整備が大変なんだよねぇこれ」
「若いのにやるじゃねえか」
褒められて照れるディラン。機械いじりは好きなので彼は自発的に船のエンジンなどの整備を行っていた。
こんな大型の船はなかなか個人ではお目にかかれないシロモノでもあるからだ。
「彼とは友達?」
ディランがさりげなく訊ねてみた。セレンはさして怪訝にも思わず答える。
「おう! あいつとは30年前からの親友さぁ」
「は……?」
「オレもあの頃はまだ若くてイカしてたんだぜ」
いや、そこん処はどうでもいいんだけど……俺の聞き間違いだったのか? ディランは聞き返す事も出来ずにセレンの若かりし日の話を聞かされるのだった。
「シルヴェスタ」
「!」
呼ばれて振り返る。工場内を見て回っていた白銀にベリルが何かを投げつけた。それを上手く受け取ると手の中にある物体に目を通す。
「なんだこれは?」
「そいつが追われている理由だよ」
「!」
言われて再び見つめる。手にすっぽりと収まるサイズは長方形で鈍い銀色をしていた。
「そいつが完成し設計図を破棄して逃げてきた」
「! あんたもそこにいたって事か?」
「正確には捕まっていた」
私は別の理由でね。とベリルは付け加えた。
「奴らは『死の商人』だ」
「! じゃあこれは……」
「そいつ1つでお前の船は木っ端微塵になる」
「!?」
白銀は驚いて物体と自分の船を交互に見た。
修理場所を確認し船から出てきたセレンは白銀に大体の見積もりを述べる。
「! 確かに格安だな」
「ベリルの知り合いなら当然さ」
「俺も修理手伝うよ」
ディランが親指で自分を指して応えた。
「武器を見せてくれ」
「おう!」
ベリルがそう言うとセレンはみんなを案内する。
「!」
ベリル以外の全員がその光景に目を丸くした。
工場内の一角に金属の壁で囲まれた部屋がありそこに入ると天井高くまで携帯武器の数々が並べられていた。
「なんだこりゃ……」
白銀は開いた口がふさがらない。そんな白銀にベリルは笑って応える。
「彼は傭兵専用の武器商人なんだよ」
「! 傭兵?」
ぴくりとリャムカが反応しベリルを見やった。その態度にセレンは首をかしげる。
「あれ? こいつらお前のこと知らないのか?」
ベリルは薄笑いで肩をすくめた。
「じゃあ、マクロディアンって事も?」
「マクロディアンじゃと!?」
ナナンは声を張り上げた。そして押しのけるようにベリルの前に駆け寄り驚愕の瞳で見上げる。
「本当におぬしはマクロディアンなのか……?」
ベリルはそれにニコリと微笑んだ。
「『マクロディアン』って何?」
意味の解らないディランはナナンの様子に怪訝な表情を浮かべる。そんな彼に白銀はベリルを見つめて応えた。
「……不死者の事だ」
「えっ!? なにそれ!?」
「死なないの?」とエイルク。
「私もマクロディアンは初めて見る」
広い宇宙、寿命のない種族も存在するが地球人で不死者など珍しい以外の何者でもない。
しかも……
「寿命が無いんじゃなくて完全な不死だって!?」
白銀とナナンはさらに驚いた。
「なんだ、何にも知らなかったのかよ」
「言ってなかったからな」
言いながらベリルは武器を手にとって確認していく。
本来の不死とは寿命を持たないだけで事故や何かの事で死に至るものだ。しかしベリルのそれは常識を逸脱している。
「どれくらい生きとるんじゃ?」
「さあ、どれくらいかな」
ナナンの質問にとぼけて返す。
「言っておくが、不死だから傭兵という訳ではないよ。死ななくても痛いものは痛いからね」
そしていくつかの武器をみつくろいセレンに手渡した。それを確認し頷いて再びベリルに返す。
光を収束して撃つ『ラインガン』2挺に『電磁ナイフ』ふたふり。相手を気絶させるほどの電流を流す『ショックライザー』を1つ。
ホルスター(収納ベルト)を腰に装着し仕舞っていく。





