*シップチェイス
「エンジンルームにいたぁ!?」
白銀はリビングルームに呼ばれて、ディランから説明を受けながら目の前にいる青年を示された。
この顔は覚えている。あいつらに見せられた画像の男だ。
「……名前は?」
「ベリル」
そう名乗った青年は悪びれる様子も無くそこにいる一同を確認するように一瞥していった。
「面白い取り合わせだな」
ベリルはそう言って微笑んだ。白銀はそんなベリルに睨みを利かせ少し上から見下ろす。
「どうして俺の船にいる」
「目の前にあったから」
度胸の据わった答えだ。白銀は半ばあっけにとられた。
「おぬし、地球人かな?」
「うむ」
ナナンは何故か物珍しそうにベリルをマジマジと見上げている。
「ジイさん、どうした?」
白銀は怪訝な表情を浮かべて不思議そうにベリルを見つめるナナンに問いかけた。
「シルヴィよく見てみるんじゃ。この者、面白いオーラを持っとる」
「! 何?」
言われてベリルを見つめる。その様子にベリルは思い出したような声を上げた。
「! ああ……スナイプ人は生まれついてのエナジー・ブレインだったな」
「あんた……何者だ?」
白銀はようやくベリルに興味を持った。そんな白銀にベリルは薄く笑うだけだ。
「どういう事?」
ディランとエイルクは意味が解らなくて首をかしげる。
「お前たちには解らんじゃろうが、この者のオーラは変わっておる。なんというか……」
「俺たちに似てるんだ」
「似てるってエナジー・ブレインに?」
白銀たちの持つオーラは一般人とは少々、異なった形と色をしている。
「見たところおぬしにはエナジー・ブレインとしての能力は無いようだが」
「うむ。その通りだ」
「追われている事と関係あるのか?」
白銀が相手の反応を確かめるようにゆっくりと発した。
「……」
ベリルは少し視線を外し目を細める。
「話さないつもりなら宇宙に放り出す」
「出来るのか?」
しれっと問いかけるベリルに白銀は「うぐっ」と声を詰まらせた。よほどの事じゃない限り宇宙に人間を放り出す事が出来る者はいない。
「とりあえず! 追われているのはあんたで合ってるんだな?」
白銀の質問にベリルは無言で頷いた。
「近くの惑星で降ろす。あとは勝手にしろ」
白銀はそう言ってコクピットに向かった。その後ろ姿をベリルは無言で見送る。
「ふむ」
青年は思案するように小さく唸った。
「近くの惑星は……」
白銀がベリルを降ろす惑星を探していた時──
「!?」
再び警告音が船内に響き渡った。船外カメラに映されたものは先ほどレーザーケーブルで白銀の船を固定した船だ。
「追いかけてきてやがったのか」
「シルヴィ!」
ディランが慌ててコクピットに入ってきた。
「操縦を頼む!」
言って白銀はレーザー砲のシートに移る。
「撃って来たぞ!」
「気合いで避けろ」
レーザー砲を起動させ白銀はトリガーに手をかけ静かに目を閉じる。白銀の力は主に癒しの力だが時として己の意志で変化させる事が出来るのだ。
エイルクとリャムカはそれぞれの船の上下にあるビーム砲に向かった。
白銀が目を閉じたままレーザー砲の引鉄を引くとその軌道は追ってくる船に向かって弧を描くように走っていく。
「! だめだ。相手のシールドが強すぎる。もっと接近して撃たないと」とディラン。
「バカいえ! これ以上の接近はこっちにも大きな被害が出る」
相手の船は中型船だがこちらよりも多くの武装をしている事は明らかだった。
「短距離HDは可能か?」
「えっ!?」
2人の間に突然別の声。振り返るとベリルが後ろに立っていた。
「何か策でもあるかの?」
後ろのシートにベルトを締めて座っていたナナンが問いかける。
「奴らの船は小回りは利くが操縦士はお前ほどの腕は無い。短距離移動で後ろに付く事が可能だ」
「この船でそんな芸当しろって!?」
ディランが声を張り上げた。
「私がサポートにつく」
言って副操縦席に腰を落としたベリル。シートベルトを締め不安げなディランを一瞥した。
ベリルはこの船を熟知しているようにボタンを素早く押していく。
「下にいるのは誰だ」
<オイラだよ>
「左に照準を合わせておけ」
<え、なんで?>
「上はリャムカだな」
<うむ>
「照準は10時の方向だ」
<了解した>
「ディラン、私が合図したらHDを」
ベリルは言いながら座標を入力した。
「……」
テキパキと指示をくだしていくベリルを唖然と見つめてディランは開き直ったように目を吊り上げる。
「やってやろうじゃない!」
「それでいい」
相手の攻撃に当たらないように船を動かしその時を待つ──
「セット」
「!」
ディランはHDのスイッチに指をあてた。
「アップ」
ベリルの言葉にHDのボタンを押す。