自由になりたい
「ー私、自由になりたい」
キャサリンはそう言うと、草原から立ち上がる。
側には湖があり、隣には幼なじみのフェルナンドが座っていた。
「自由? どういう意味?」
「どういう意味って、全てを捨てて、新しい人生を切り開くの」
鼻息荒くして言うキャサリンに対し、フェルナンドはふと笑う。
2人とも同い年で、ちょくちょく遊びに来る仲だった。
「無理だよ。僕達は操り人形なように、親に結婚相手を選ばれて、生活しているんだから。今の生活だって、親がいるからできるんだよ」
「そんなことは…!!」
「現実を見ろ、キャサリン。自由なんて無理だ」
「無理じゃないわ!! やればできるはずよ!!」
キャサリンは強気に言い返すと、髪を掴む。
何をするのかとフェルナンドが口を開けて見ていると、キャサリンは自分の髪を切ろうと、忍び込んでいたナイフを手に取る。
「なっ…!! 危ない」
フェルナンドは素早く気づき、キャサリンの手を掴む。
彼女はもちろん抵抗し、2人はもみ合いとなる。
「く、くそ!! 放せってば!!」
「嫌よ!! 私は自由になるの!!」
2人はせめぎ合っていたが、男のフェルナンドのほうが強いに決まっている。
ナイフを落とさせると、身体を旋回させ、ナイフを遠くへ飛ばす。
「ああ…。ナイフが!!」
「いいんだよ、これで。分かった?」
荒い息を吐きながら、フェルナンドが言うと、キャサリンは涙を零す。
しかしフェルナンドの言葉は冷たい。
「僕達が生活できているのは、民がいるからだ。その民を幸せにしないと、僕達は断首台に連れて行かれる。幸せと不幸せは、紙一重なんだよ。分かった?」
「…ううっ。だって、結婚だって自分の自由にならないし、日常生活だって見張られているようで、息がつまって」
「キャサリン…。それは僕も同じだよ」
フェルナンドは優しくキャサリンの手を包み込むと、力を加える。
「ー強く生きなければ駄目だよ、キャサリン。僕達はそのために英才教育を幼い頃から受けているんだから」
「フェルナンド…」
こくりと子どものようにうなずくと、キャサリンは更に涙を流す。
その涙は偽りのものではなく、幼い頃からフェルナンドだけが見られるものだった。
「大丈夫。僕がキャサリンをお嫁さんにしてあげる」
「フェルナンド…。でも、もう決まっているし」
「何とかするよ。僕の力でできる限りのことはする」
「…」
キャサリンは上目遣いで、フェルナンドを見る。
色白の顔は整っており、彼の家はキャサリンの家と同じで、地位も名誉もあるものだった。
「フェルナンドは婚約者は…?」
「いるよ、それは。でも何とかする」
「大丈夫なの? 私、その女らしくないかもよ?」
「そんなの小さい頃から知っているさ。カエルを捕まえたり、木に登ったりと、女とは思えないもの」
「きゃ!! 忘れてよ、その話」
2人は見つめ合うと、しがらみのないこの瞬間だけ、キスをする。
それからキャサリンはフェルナンドの肩に額を当てる。
「ねえ、フェルナンド。その、私、あなたに嫁ぎたいわ」
「ありがとう。…というか、初めからそうすれば良かったんだよ」
フェルナンドの言葉に、キャサリンも今更ながら気づく。あまり近くにい過ぎて、互いに気づかなかったのだ。
「…これからどうするつもり?」
「とりあえず親に言ってみる。キャサリンは?」
「私も親に言ってみる。ううん、そうしなくては駄目だわ!!」
キャサリンは強く言うと、フェルナンドの両手を左右に揺らし、一回転する。
「綺麗だよ、キャサリン」
「ありがとう、フェルナンド」
キャサリンは頬を紅潮させ、最高の笑顔を浮かべる。
一緒に泥遊びから、雪の中の遊びまで、よく知っているのは、フェルナンドだけだった。
ー何で今まで気づかなかったんだろう? ずっと側にいてくれたのに。
自分で馬鹿だなと思うと、キャサリンは湖に向かって吠える。
「私、絶対、幸せになってやるー!! もちろん自由も手にしてみせる!!」
「キャサリン…。自由なら僕があげるよ」
「ありがとう。でもまずは親と戦わないと。そのためには、作戦を練らないとね」
ウィンクするキャサリンは、もういつもの気の強いものとなっている。
フェルナンドは安心したのか、彼女の髪に触れる。
「ブロンドの髪、大事にしなよ。太陽の輝かしい色のように、鮮やかなんだから」
「うん!! ごめんね、フェルナンド。…あー、すっきりした」
キャサリンは伸びをすると、フェルナンドに軽くキスをする。
フェルナンドも快く受け入れてくれ、2人の影はしばらく動かなかった。




