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第6話:絶望の果ての恍惚

マルクスが無惨に潰れていく。

その一部始終を、シオンはベッドの上で、言葉を失い眺めていた。

呼吸は乱れ、心臓はこれまでにない速さで打ち鳴らされている。恐怖――それは間違いなかった。だが、その恐怖の先にある、もっとドロドロとした熱い感情が、彼女の脳を麻痺させていった。


(……信じられない。マルクス様が……あんなにも無残に、まるで道端の石ころをどかすように殺されている……)


死に行くマルクスの、苦痛に歪んだ異形。

それを作り出しているのは、かつて自分が『無能』と蔑み、泥を舐めさせたはずの男。


「あ……ぁ、あ……っ!」


レンが放つ圧倒的な殺気。空間そのものが軋み、自分まで押し潰されそうなほどの覇気が、シオンの肌を、粘膜を、震わせる。

恐怖が閾値を超えた瞬間、彼女の身体はかつてない悦びに包まれた。股間に広がる熱い感覚。膝の震えが止まらず、彼女は吸い寄せられるように、血の海と化した床へと膝をついた。


「レン様……! ああ、レン様……っ!!」


「……あ? なんだ、まだ喚く気か? お前もこのゴミと一緒に、平らになりたいのか?」


レンの冷徹な視線がシオンを射抜く。

かつてのレンなら、この視線だけで彼女は死を覚悟しただろう。だが、今の彼女にとって、それは極上の愛撫に等しかった。


「いいえ……違いますわ! レン様……あなた様こそが、この世界の真の『重み』ですのね! 素晴らしい……あんなクズ共の裏切りなど、あなた様という神を誕生させるための、些細な儀式に過ぎなかった……っ!」


シオンはマルクスの遺体から流れ出した血を気に留めることもなく、レンの足元に縋り付いた。彼女の瞳は濁り、狂ったような恍惚の色に染まっている。


「私をお連れください! あなた様の影として、靴の裏を舐める奴隷として……! 私、知っておりますの。逃げ出したあの7人が、どこで、どんな汚い欲望に溺れているか。私があなた様を導きます。だから……私を捨てないで、もっと、もっとあなたの重力で私を組み敷いて……っ!!」


シオンは、レンのブーツに自分の頬を擦り付けた。かつての誇り高い王女の姿はどこにもない。そこには、圧倒的な支配者に魂を屈服させた、一匹のめすがいた。

レンは白髪をなびかせ、不気味に静まり返った室内で、底冷えするような笑みを浮かべた。


「……ハハッ、面白い。裏切り者の王女が、俺の飼い犬になたいと乞うか。いいだろう、シオン。お前の言う『ガイド』としての価値がなくなるまで、地獄の特等席で俺の処刑を見せてやる」


レンはシオンの顎を強引に掴み上げ、その紅い瞳に彼女の歪んだ笑顔を映し出した。


「ただし、忘れるなよ。お前もその7人と同罪だ。……復讐が終わった時、お前がどんな形に潰されるか。……今から楽しみにしていろ」


「あぁ……っ! 悦んで、お受けいたしますわ……レン様……!!」


夜の王城に、狂った王女の歓喜の悲鳴と、死にゆく肉が軋む音だけが響き続けた。

こうして、白髪の魔王と狂愛の王女による、凄惨極まる「8人の処刑行脚」が幕を開けたのである。

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