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26話: 芽生える光


「や、やめて……! 私は、私は死にたくないのよぉぉッ!!」


フェルンは自身の「若さ」を維持するため、エルフたちの生命力を無理やり吸い上げ、半透明の巨大な魔導障壁を展開した。それは、数千年の寿命を盾にした、世界で最も強固な「拒絶」の壁。


「……お前の『永遠』なんて、この一瞬で終わらせてやる」


レンが静かに一歩を踏み出した瞬間、障壁はガラス細工のように粉々に砕け散った。物理的な力ではなく、レンが纏う重力が、フェルンの展開した「魔力の密度」を上回り、空間ごと圧殺したのです。

レンはフェルンの喉元を掴み、そのまま宙へと吊り上げた。


「が、はっ……あ、あ、ああ……っ!」


「フェルン。お前は長生きしたかったんだろ? ……なら、一瞬の中に『無限の老い』を詰め込んでやる。……受け取れ、お前が誰かから奪い続けた『重み』だ」


「『重力崩壊:刻の牢獄クロノス・グラビティ』」


レンの指先から、真っ黒な光がフェルンの体内に流れ込みました。

次の瞬間、フェルンの絶叫が空間に固定されました。重力によって時間の進みが極限まで歪められ、彼女の肉体は、一秒の間に「数万年分」の加齢と再生を繰り返す無限ループへと叩き込まれました。


「あ……あ、ぁ……っ!!」


ピチピチとした若々しい肌が、一瞬で枯れ木のような老婆へと変わり、次の瞬間には重力による細胞圧縮で赤子へと戻る。そしてまた、数千年の時を数秒で駆け抜け、老いさらばえていく。


「ふ、あはははは! 素晴らしい……最高ですわ、レン様ッ!! 永遠を欲した女が、永遠に終わらない『死と再生の重圧』に溺れていく……! これこそ、これこそが私が跪くべき魔王の洗礼ッ!!」


地面にめり込んだままのシオンは、折れた指で床を掻きむしり、フェルンの無残な姿を眺めて激しく身悶えていました。その口端からは、狂喜のあまり血の混じった唾液が垂れ流されています。


「……うるさいと言っただろ」


レンは振り返りもせず、さらに重力を上乗せしました。

ドゴォォォォンッ!!

シオンの身体はさらに深く床へ沈み込み、肋骨が数本へし折れる不快な音が響きましたが、彼女は「あ、が……っ、はぁ……ッ!」と、それすらも極上の悦楽であるかのように受け入れていました。

やがて、フェルンの肉体は時間の加速に耐えきれず、一粒の「灰」すら残さず、虚空へと消滅しました。

彼女が奪ったエルフたちの生命力は、重力から解放され、淡い光の粒となって森へと還っていった。


研究所の崩壊と共に、カプセルからリィネの姉が滑り落ちました。

レンは白銀の髪をなびかせたまま、彼女を優しく抱きとめ、静かに地上へと降ります。

魔王化がゆっくりと解け、髪が漆黒へと戻っていく。


「お、……お姉ちゃん……っ!」


草陰から駆け寄ってきたリィネが、姉の身体を抱きしめて泣き崩れました。


「お兄ちゃん、ありがとう……! 本当に、ありがとう……っ!!」


少女の小さな、温かい手がレンの服を掴みます。

今まで、ガンドやジャックを殺した後のレンには、虚無感と血の匂いしか残っていませんでした。しかし今、リィネの涙ながらの感謝に触れた瞬間、レンの胸の奥で、カチリと何かが噛み合う音がしました。


(……ああ。僕の力は、……壊すためだけじゃなく、こうして『守る』ためにも使えるんだな)


レンの瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちました。それは絶望の涙ではなく、どん底まで落ちた心が、ようやく「自分」を取り戻し始めた証でした。

「ふふ……。救った命の温もりに、魔王様が涙を流されるなんて……。その『甘さ』すら、次の復讐のスパイスに思えてなりませんわ、レン様……っ」

全身泥と血まみれで、這いずりながら近寄ってくるシオン。彼女はレンの涙を指ですくい取り、それを愛おしそうに自分の舌で舐めとると、うっとりと目を細めました。

レンの心は、まだ傷だらけです。

しかし、その暗闇の中に、リィネの笑顔という名の小さな「光」が灯りました。

復讐の旅は続きます。

残る元仲間は……あと2人。

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