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22話:レートは絶望

「はっ! 価値を失っただと? 笑わせるなよ。この街のすべて、いや、この国の法律すら俺の金で動いてるんだぜ?」


ジャックは余裕の笑みを崩さず、パチンと指を鳴らす。

すると、豪華な絨毯の影や天井から、金で雇われた手練れの暗殺者たちが十数人、音もなく現れ、レンとシオンを包囲した。


「いいか、そいつの首には一億ゴールドかけてやる。殺せ。……あ、そこの女は生かしておけよ? 高値で売れそうな極上品だ」


ジャックの卑俗な視線がシオンをなめます。その瞬間、シオンの肩が歓喜に震えました。


「あぁ……っ! レン様、お聞きになりました? この汚物、私を『商品』として値踏みいたしましたわ! 踏みにじられ、オークションにかけられる屈辱……それを想像するだけで、レン様に救い出された時の悦びが何倍にも膨れ上がります……あぁ、なんて素晴らしい前戯サービス!」


シオンは愛剣を抜くことすら忘れ、頬を紅潮させて身悶えています。


「……シオン様、下がってろ。こいつらは、俺がやる」


レンの冷徹な声と共に、部屋の空気が一変しました。


「殺せッ!!」


ジャックの号令で暗殺者たちが一斉に踏み込んだ瞬間、レンの足元から漆黒の波動が広がりました。


「『重圧プレッシャー』」


ドォォォォォォンッ!!!


「が、はっ……!?」


「身体が……床に……っ!!」


飛びかかった暗殺者たちは、空中で巨大な鉄槌に叩かれたかのように、一瞬で床に叩き伏せられました。自重の数十倍に増幅された重力が、彼らの骨を容赦なく砕き、豪華な大理石の床に深々とめり込ませます。


「な、……なんだ……!? 何をしたッ!!」


ジャックが椅子から転げ落ちました。彼が信奉する「金の力」で集めた精鋭たちが、指一本触れられずにただの肉片に変わっていく光景に、その顔が初めて恐怖で引き攣る。


追い詰められたジャックは、その浅知恵をフル回転させ、懐から一束の借用書を取り出しました。それは、先ほどレンが見てきた、檻に入れられた親子の「借金」の証書。


「ひ、ひぃっ! 思い出した、さっきのガキの親の借金だろ! これだ、これを今ここで破り捨ててやる! だから助けてくれ!」


ジャックは震える手でその紙束をレンに見せつけると、あろうことか、それをクシャクシャに丸めてレンの顔面に向けて投げつけました。


「ほら、お前みたいな『お人好し』が欲しがるのはこういう『善行』だろ! 鑑定価額はゼロだが、お前にはお似合いだ! 命を懸けてゴミを拾いに来たのか? 笑わせるな、この偽善者がッ!!」


ジャックは恐怖の裏返しで、レンの足元に唾を吐き捨て、床に落ちた借用書を踏みにじりました。


「いいかレン、お前は昔からそうだ。金にもならねえ情けをかけて、結局最後は俺たちに捨てられた。学習しねえ無能だな! さっさとその紙クズを拾って、ゴミ溜めに帰れよ!!」 

レンの視線が、床で泥と唾液にまみれた「誰かの希望」に落ちました。

自分を裏切り、殺しかけ、今この瞬間も、他人の人生を『無価値なゴミ』として弄んでいる男。 


「……ジャック。お前、今……なんて言った?」


レンの喉から、底冷えするような声が漏れ出しました。

脳内で、理性の鎖が粉々に砕け散る音が響きます。

【ストレス値:95%……98%……100%。――リミッター、完全消滅】


「……あ、……あぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」 


レンの咆哮と共に、黄金の館全体が巨大な震動に見舞われました。

漆黒だった髪が、爆発的な魔力の奔流によって根元から**「純白」へと染まり上がり、伏せられた瞳は、すべてを圧殺する絶望の「紅」**へと変貌します。

ドォォォォォォォンッ!!!

レンを中心に、目に見えない巨大な「質量の壁」が全方位に膨れ上がりました。

周囲を囲んでいた金で雇われた暗殺者たちは、悲鳴を上げる暇もなく、超重力の圧力によって床の大理石ごと数メートル下の階層まで「圧搾」され、一瞬で肉の染みへと変わりました。 


「ひ、あ、あああああああッ!? 髪が、眼が……化け物だああああッ!!」


「ジャック。……お前の命を鑑定してやる。……『換金不可の汚物』だ」


白銀の髪をなびかせ、レンが冷酷な一歩を踏み出します。その一歩ごとに、館の重厚な柱が自身の重みに耐えきれずメキメキと粉砕され、天井からは剥がれ落ちた純金の装飾が凶器となって降り注ぐ。


「あ、は……っ! 来たわ、来ましたわあああッ!! この肌が裂けるような超重力! 魂まで押し潰されるこの快感ッ!!」


背後では、シオンが壁に叩きつけられながらも、悦びに顔を歪めて身悶えていました。彼女は衝撃で裂けた肌の痛みさえ蜜に変え、よだれを垂らしながらレンの背中を仰ぎ見ます。 

「あぁ、レン様! その絶対的なお力で、この不浄な街ごと、私をグチャグチャに愛してぇぇぇッ!!」 


「……黙ってろ、シオン。……ジャック、次は貴様だ」


レンが指先をわずかに動かした瞬間、ジャックの周囲にある数トンの金貨が、生き物のように浮き上がりました。


「や、やめろ! 金だ、金が欲しいんだろ!? ほら、やるよ! 全部持ってけえええッ!!」 


「……いらない。お前の金は、……お前と一緒に、地の底へ沈め」

「『重力特異点グラビティ・シンギュラリティ』」


レンが拳を握りしめると、ジャックの心臓を中心として、周囲の金貨と瓦礫が猛烈な勢いで吸い寄せられ始めました。


「ぎ、ぎゃああああああああッ!! 身体が、身体が縮まるぅぅッ!!」


ジャックの叫びは、数千枚の金貨が彼の肉体に食い込む音にかき消されました。

肉が裂け、骨が砕け、金貨の角が眼球を突き破る。

レンはジャックが最も愛した「黄金」に、彼自身の肉体を混ぜ込み、一つの「球体」へと圧縮していきます。


「……金で買えないものはない、だったな。……お前の命を買い戻すための金貨は、……たった今、お前の肉と混ざって『ゴミ』になったよ」 


バキィィィィィィンッ!!!

最後の一押し。

ジャックの絶叫が途絶えると同時に、そこには直径数十センチの、黄金と鮮血が混じり合った「醜悪な金属塊」だけが転がっていました。

欲望の都を統べたシーフは、自ら踏みにじった金貨の一部として、永遠にその価値を失ったのです。


「……ふふ、あはははは! 素晴らしい……完璧な処刑ですわ、レン様ッ!!」


シオンは血の雨が降る中で立ち上がり、レンの背中に抱きついてその白銀の髪に顔を埋め、陶酔した声を上げました。

レンは無言のまま、足元に落ちていた、汚れ、踏みにじられた借用書を拾い上げました。

四人目の断罪は、黄金の輝きを血で塗り潰して終焉を迎えました。



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