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20話:交易都市オーラムの光と影

格闘場に残されたのは、肉塊と化したガンドの残骸と、解放された獣人たちのむせび泣く声。白銀の魔王となったレンは、返り血を浴びたまま、感情の消えた瞳で格闘場を後にしした。


その背後で、シオンは狂ったように身悶えていた。彼女はガンドが「圧縮」された際、床に飛び散ったわずかな返り血を指ですくい上げると、それを自らの唇に塗りつけ、瞳を限界まで見開いて絶頂の吐息を漏らします。


「あぁ……レン様……ッ! あの冷徹な眼差し、あの無慈悲な破壊……! ガンドの剛腕すら紙細工のように丸めてしまわれるなんて……ッ! その強大な重力で、いつか私の身体も、骨の欠片一つ残さず粉々にしてくださるのかしら……あぁ、想像するだけで全身の血が沸騰してしまいますわ!」


シオンは壁に背を預け、ガタガタと震える脚を無理やり動かして、歩き出したレンの影を踏むように追いかけた。


次なる目的地、大陸最大の富が集まる街『オーラム』。

空を突くような大理石の塔、純金で縁取られた街灯。一見すると繁栄の極致ですが、その足元には、この街の支配者ジャックが作り上げた「地獄」が広がっていた。


「……ひどい。何、この光景……」


黒髪に戻り、精神を磨り減らしたレンは言葉を失う。

豪華な商店が並ぶ目抜き通りから一歩路地に入れば、そこには「借金」のカタに売られた人々が、値札を貼られて檻に入れられていました。ここでは、法律さえもジャックの金で書き換えられ、「払えない者」には人権など存在しない。


「ふふ、さすがはジャック。合理的ですわね。レン様、あちらをご覧になって?」


シオンがレンの耳元に唇を寄せ、熱い吐息と共に指差す。


そこでは、痩せ細った少女が、血を吐きながら自分の身体ほどもある重い石材を運んでいました。


「あの子、まだ子供なのに……」


「ジャックのギルドが貸した、親の借金の利子を払っているのですわ。完済まであと二百年ほどかかる計算だとか……つまり、一族郎党、死ぬまであの重荷を下ろすことは許されない。金で買えないものはない。それがこの街の、ジャックの法なのですから」


レンの足元で、一人の老人が這いつくばり、ジャックの紋章が入った豪華な馬車に縋り付いていました。


「お願いだ……薬を、孫に薬を……! お金は、身体を売ってでも必ず返しますから……!」


しかし、馬車の窓から投げ捨てられたのは、中身の入っていない空の瓶と、冷酷な嘲笑だけでした。


「価値のない人間に投資する趣味はねえんだよ。死ぬならさっさと死んで、その臓器を金に換えろ」


馬車から聞こえたのは、かつての仲間、シーフのジャックの軽薄な声。


「……あいつ、何一つ変わってない」


レンの脳裏に、あの日、ダンジョンの暗闇で自分を突き飛ばしたジャックの顔が浮かぶ。


『レン、お前の命はここで捨て石にするのが、一番コスパがいいんだ。恨むなよ? 金で買えない価値なんて、この世にはねえんだからさ』


あの時、ジャックはレンの命を「安物の消耗品」として処理した。

今の彼は、この街全体の人間を「換金対象」としてしか見ていない。


「行きましょう、レン様。あの方、今夜は自分の誕生祝いで、金で作った巨大な噴水に最高級のワインを流して遊ぶそうですわ」


シオンはレンの腕を抱きしめ、その柔らかな胸を押し付けながら、恍惚とした表情で囁き続けます。


「あそこの檻で、乾きに震えて泥水をすすっている子供たちの目の前で、贅の限りを尽くす……。あぁ、なんて素晴らしい悪辣さ! その汚らわしい欲望を、レン様の聖なる重力でギュッと、ギギギッと絞り上げて差し上げる瞬間が待ちきれませんわ! レン様、早く……早く私に、あの男が絶望で顔を歪める最高の景色を見せて……ッ!」


「……ああ。……分かってる」


レンの黒髪が、感情の消失と共に静かに揺れました。

復讐心だけではありません。この街に満ちる「持たざる者」たちの絶望の叫びが、レンの精神を「魔王」の領域へと押し上げていきます。

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