13話封鎖された聖域
トトが連れ去られてから三日が経過した
。
「……おかしいよ。ただの骨折なら、もう顔くらい見せに来てくれてもいいはずなのに」
黒髪のレンは、居ても立ってもいられず山頂の隔離病棟へと向かいました。しかし、そこには武装した信者たちが立ち塞がり、鉄格子の門は固く閉ざされています。
「面会は謝絶だ。聖女様の神聖な加護を邪魔するつもりか!」
「でも、トト君の両親が心配して……」
追い返されようとしたその時、門の影でうずくまっていた一人の痩せこけた女性が、レンの袖を掴みました。
「……あんたも、家族が中へ? 無駄だよ。うちはもう一ヶ月、娘の顔さえ見せてもらえない。病気が治ったっていう聖女様の言葉を信じるしかないんだ……。でも、夜になると聞こえるんだよ。山全体が震えるような、獣の泣き声が……」
女性の虚ろな瞳に、レンの心臓が激しく脈打ちました。
「一ヶ月……? そんな、おかしいですよ……」
【ストレス値:75%……】
その日の深夜。レンはシオンを伴い、断崖絶壁を這い上がるようにして隔離病棟の地下搬入口から内部へと忍び込みました。
廊下には、鼻を突くような薬品の臭いと、焼けた肉のような異臭が充満しています。
「レン様、あそこです……。一番奥の、魔力濃度の高い部屋……」
シオンが指差した重厚な扉を、レンは震える手で押し開けました。
「トト、君……?」
そこには、もはや「少年」と呼べる造形は存在しませんでした。
台座に固定されたその「肉塊」は、過剰再生によって肥大化した筋肉が皮膚を突き破り、幾層にも重なる甲殻のようになっていました。
パンをこねていた手は、五本の指が融合して巨大な鎌状の骨の刃に変質し、背中からは脈打つ血管が剥き出しの触手となって床を這っています。
「あ……が、……れ……にぃ……」
濁った瞳が、かろうじてレンを捉えました。しかし、その口からは言葉ではなく、肺が潰れたような湿った呻きが漏れるだけです。
「……ふふ、あはははは! 素晴らしいでしょう? 私の最高傑作よ!」
暗闇から、カツン、カツンと靴音を響かせてミュリンが現れました。彼女は懐中電灯のように魔法の光を灯し、誇らしげにトトの「改造部位」を指し示しました。
「見てよレン! この筋肉の密度! 普通の治癒魔法じゃ、骨が折れたら戻すだけ。でも私は『もっと強く』してあげたの! これならもう、二度と転んで骨を折ることもない。永遠に、私の忠実な『防衛兵器』として生き続けられるのよ!」
「ミュリンさん……あなた、何を……。トト君を、元に戻してくれ! お願いだ、今すぐ元に……っ!!」
レンが膝をつき、必死に懇願しました。しかし、ミュリンは腹を抱えて高笑いしました。
「元に戻す? 冗談言わないでよ! 一度作り替えた細胞をどうやって戻すっていうの? 腐ったリンゴを元の新鮮な果実に戻せって言ってるのと同じよ! 無理に決まってるじゃない、あははは!」
「……戻せ、ない……?」
「そうよ! この子はもう一生、その醜い姿のまま、私のために鳴き続けるの! 貴方と同じようにね、無能なゴミ箱さん!」
その瞬間、レンの中で何かが「プツン」と断線しました。
トトの笑顔。焼けたジャムパンの甘さ。信じていた少年を、自分の目の前で化け物に変えられ、それを「自慢」と笑う女。




