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第12話:聖女偽りの「慈愛」

翌日。トトが配達中に段差で転び、足を挫いたという知らせが入り、心配して駆けつけたレンが見たのは、村の広場で「聖女」として崇められるミュリンが、トトの足を優しく撫でている姿でした。


「……あら、レン君? お久しぶり。生きていたのね、運のいいゴミ箱さん」 


ミュリンは一瞬だけ、かつてダンジョンで見せた「ゲス顔」をレンに向けましたが、すぐに聖母の微笑みに戻り

トトの両親へ向き直りました。


「この子の足、複雑骨折していますわ。私の『聖域病棟』で、特別なケアをしましょう。……大丈夫、この子が二度と痛みに苦しまなくて済むような、最高の身体にしてあげますから」


「聖女様、ありがとうございます……っ! なんてお慈悲深い……!」


両親が涙を流してひれ伏す中、トトが病棟へ連れて行かれようとしたその時でした。シオンがトトの前に立ちふさがり、その細い肩を掴んで強く引き寄せました。


「……! レン様、行かせてはなりませんわ。あの女の魔力……あれは治癒などではない。内側から肉を腐らせ、歪ませる冒涜の波動です!」


シオンの必死な訴えに、広場の空気が凍りつきました。レンは困惑しながら、トトに話した。


「トト君、聞いて……。トト君の怪我は、確かに痛そうだけど、そこまで酷いものじゃない。シオン様の持っている最高級の薬や、シオン様の手当てでも十分に治せるはずだ。わざわざ隔離病棟まで行かなくても……」


「ええ、そうですわ! 私が治します。あんな女に預けたら、トト君は二度と『人間』として戻ってこれなくなる!」 


シオンの言葉が広場に響き渡った瞬間、ミュリンの表情がピキリと凍りつきました。


「…今、何と仰いました? 王女殿下」


ミュリンがゆっくりと立ち上がりました。その背後から溢れ出す冷たいプレッシャーに、村人たちが息を呑みます。


「ミュリンさん……落ち着いて。トト君の怪我は確かに酷いけど、隔離病棟まで行くほどじゃ……。」


レンの言葉は、純粋な「シオンへの信頼」でした。しかし、それがミュリンの逆鱗に触れました。


「……ふふ、あはははは! 面白いことを言うわね、この**『ゴミ箱』**は!」


ミュリンが豹変しました。聖母のような笑みは消え、剥き出しの軽蔑がレンを射抜きます。


「レン、貴方……。死に損なった分際で、私の神聖な儀式を汚すつもり? 貴方はただの荷物持ち。魔法の『ま』の字も使えず、ただ仲間に寄生して、最後は使い捨てられるだけの無能……。そんな汚らわしい男の言うことを信じて、私の『奇跡』を拒もうと言うの?」


「ミュリンさん、君……何を……」


レンが絶句する間もなく、異変は村人たちにも波及しました。


「そうだ! 聖女様を侮辱するな、この軟弱者が!」


「一泊止めさせた恩を忘れたか! この薄汚い荷物持ちめ!」


「トトを渡せ! 聖女様に治してもらうんだ!」


豹変した村人たちの罵倒が、レンとシオンに突き刺さります。あんなに仲の良かったパン屋の両親までもが、血走った目でレンを睨みつけ、シオンを突き飛ばさんばかりの勢いで詰め寄りました。


「レンお兄ちゃん……ごめん、僕……やっぱり聖女様にお願いするよ……。お兄ちゃんたちは、もう、どっか行ってよ……!」


トトまでもが、怯えたようにミュリンの法衣の裾に隠れ、レンを拒絶するような言葉を口にしました。それは、ミュリンの暗示か、あるいは狂信的な村の空気に呑まれた結果か。


「トト君……」


レンの顔から血の気が引き、その拳が白くなるほど強く握りしめられました。自分を信じてくれたはずの少年。パンの香りがした幸せな時間は、聖女への盲信によって一瞬で塗りつぶされたのです。


「……行きましょう、シオン様。僕たちがここにいても、もう……」


レンは力なく首を振り、罵声の嵐が吹き荒れる村を後にしようと歩き出しました。背後では、ミュリンが勝ち誇ったようにトトの肩を抱き、闇を孕んだ瞳でレンの背中を見送っています。


「……レン様。後悔しますわよ、あの方たちは」


馬車に乗り込む間際、シオンは村を振り返り、冷たく言い放ちました。

村人たちの罵声を聞くたびに、レンの胸の奥でドロリとした「何か」が溜まっていく。

【ストレス値:65%……】

復讐の火種は、最悪の形で薪をくべられたのです。




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