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11話:パン屋の弟子と「無能」な兄貴

辺境の村『リリウム』。

かつての仲間を一人屠り、次なる標的を追う旅路の中で、レンは一時的にその「牙」を失い。黒髪に戻った彼は、魔王の面影など微塵もない、どこにでもいるお人好しの青年に戻っていた。


「おらぁ!レン兄ちゃん、もっと腰入れてこねろよ!そんなんじゃパンが膨らまねーぞ!」


「ひいぃっ、トト君、勘弁してよ……。僕、ステータスが『微増』だから、これ以上力が出ないんだ……」


朝靄の立ち込める厨房。レンは粉まみれのエプロン姿で、粘り気の強い巨大なパン生地と格闘していました。

10歳の少年トトは、レンの数倍の速度で手際よく生地をまとめ上げると、腰に手を当てて威張って見せます。


「だらしねーなぁ!俺が立派なパン職人になったら、レン兄ちゃんを雇ってやるからシャキッとしろ!その代わり、店中の掃除は全部任せるからな!」


「あはは……。頼もしいね、トト君。僕、掃除なら得意だよ」


レンは困ったように笑いながら、汗を拭いました。裏切られ、殺されかけ、復讐に身を投じた彼にとって、この「平和な説教」はどんな治癒魔法よりも深く、凍りついた心を溶かしていくようでした。

そんな光景を、厨房の隅でシオンがじっと見つめていました。


(……フフ。レン様が粉まみれで喘いでいらっしゃる……。あんなに弱々しく、頼りない姿……。あぁ、守護欲をそそられて全身がゾクゾクいたしますわ。本当は私がすべてやって差し上げたい……。ですが、あのガキ、レン様にタメ口を叩くだけでなく掃除まで押し付けるなんて……)


シオンは愛剣の柄に手をかけ、暗い情念を瞳に宿らせて独りごちます。


(……後で関節を一つ、私の剣技で**「お掃除」**してあげましょうか。レン様の代わりに私が躾けてあげなくては……)


「あ、レン兄ちゃん!これ、俺が初めて一人で最初から最後まで焼いたジャムパン!やるよ!」


トトが差し出したのは、少し形が崩れ、表面が焦げた小さなパンでした。

レンが恐る恐る一口かじると、中から溢れ出た安っぽいジャムの甘さが、鼻の奥をツンと刺激しました。


「わあ、……おいしい。トト君、これ、天才じゃないか?」


「へへっ、だろ!俺のパンで、世界中のみんなを笑顔にしてやるんだ!」


誇らしげに胸を張る少年。レンは、自分を「生贄」として捧げたかつての仲間たちとは正反対の、真っ直ぐな眩しさに目を細めました。裏切られて以来、初めて触れた本物の「人の温かみ」を堪能しているのであった

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