勇者
「んぁ…ここは?」
「おはよう、お目覚めかい?」
「お、はよう?君は誰?」
「えぇっと、それは冗談かな?」
「?」
「あぁ…混乱しているんだね。キミは魔王と相打ちになったのか倒れていたよ」
「何を言っているの?」
「もしかして、覚えてない、記憶喪失なのかい?」
「うん…」
「そうか。じゃあ、勇者パーティの魔法使い、バンが今までのことを教えてしんぜよう」
「よろしく…」
「始まりは、魔王が誕生した10年前に遡る。
10年前、魔王が誕生し一斉に魔物が暴れ出した。それはそれはひどいもので、大きな都市以外は、ほぼ壊滅した。キミの村は、キミのお父さんを含めた村の若い者たちが魔物を抑えてくれたおかげで、最小限の被害に抑えられた。それでも、若い者たちは全員死んでしまって、子供と老人くらいしか生き残ってなかった。それで、子どもたちの中で最年長だったキミがいろいろ頑張ったそうだ。
そんな状況で、数年が経って、キミの村は一躍有名になった。オレもそのことは覚えている。同年代の子供が仕切っている村があるってね。更に、キミは腕が立ったんだろう、その噂が冷め切らないうちにキミは王都にやってきた。最年少で騎士団に入って、功績を上げた。
数年が経って、また、魔物が暴れ始めた。まぁ酷かったよ。被害は、確かに騎士団だけで済んだんだけど、魔の戦いなんて言われて、その戦いでほとんどの騎士が死んで、生き残ったやつも、ほぼ廃人になった。でも、その戦いで大きな功績を上げたキミは、勇者になったのさ。オレとアルトとリーシャが集められて、勇者パーティが結成した。
最初は、オレもアルトもリーシャも乗り気じゃなかった。でも、キミの熱気でやる気になったんだ。キミは勇者としてたくさんの人を助けた。オレ達もいろいろしたけど、大体はキミが成し遂げたんだ。世界中に散らばった魔王軍の奴らを全員倒した。特に魔王軍のアルヴァカルバを倒したときはすごかった。そいつ、町ごと人質を取るんだけど、町の中の魔物をばったばったとなぎ倒し、最後にそいつごと、建物を切ったんだ。あれはすごかったよ。ナムカってやつも厄介だった。人の欲求に漬け込んで、人を支配したのさ。もちろんそいつも倒した。ライトニングズとかいう魔道士も、魔法を切るなんて離れ業で倒した。もちろんキミがね。まあ、たくさんのことがあったけれど、僕達はその苦難を乗り越えた。そして、魔王の元へとたどり着いた。
魔王との戦いは苛烈を極めた。その中で、アベルとリーシャは無くなってしまったけど、キミによって、魔王は打ち倒された。オレも気絶していて結末は見ていないけれど、キミは成し遂げた。どうだい?なにか思い出したか?」
「…そうか。僕は…。俺は…。」
ーーー
昔から、重圧というものに耐えるのは得意だった。
父がいたときは村長の息子として、父がいなくなってからは村長として、今の勇者という重圧に比べたら軽いかもしれないけど、十分な重圧だった。
王都に行ってからは、束の間の休息だった。僕より強い人はたくさんいたし、何なら僕は雑兵だった。だけれど、魔の戦いでほとんどが死んで、僕は雑兵じゃなくなった。
ただ少し、メンタルが強かっただけで、僕は勇者の重圧を授かった。
仲間としてつけられたアルト、バン、リーシャは僕に期待の目を向けてきた。また、重圧が増えた。
魔王城に向かう道中に魔王軍とやらに幾度も絡まれた。よりにもよって、民を傷つけている悪者だった。
勇者として、民を守りながら、その魔王軍の頭を殺した。だけれど、民は守りきれなかった。何人も死んで、何人かは行方不明。あれだけやったのに、力が及ばなかった。
それから、犠牲を厭わないようにした。自分からは殺さないが、ある程度見捨てることにした。魔王軍を殺せば殺すほど、勇者としての名声が上がっていった。
勇者の名声が轟くにつれて、皮肉なことに日に日に見捨てる人の数が増えてきた。それまではなんともなかった。ある程度の割り切りは必要だと、知っていたからだ。
最初におかしくなったのはアルヴァカルバという魔王軍の一人を倒したときだった。なんか、人を助けるのが面倒になって、邪魔するものだけを殺し、殺し、殺し、殺し、殺し、殺し、殺し、殺した。町の被害なんて考えず、町の建物ごと殺した。この頃、僕の中の勇者は消え去った。
それでも、勇者が存在し続ける限り人々の心の平穏は保たれるのだから、それを続けるだけの良心はあった。
勇者であればあるほど、その分勇者でない部分が濃くなっていく。
勇者とは人類の希望なのだ。勇者とは敵を倒す者なのだ。勇者とは人々を助ける聖人なのだ。勇者とは…。勇者とは…。勇者とは…大量虐殺者なのだ。
ーーー
「ーーーーーーーーーーーー。ーーーーーー、ーーーーーーー。」
お前は…そうか。僕を解放してくれる存在か。
いいよ。そうだね。
僕の願いは、「平穏な生活」だ。
ーーー
魔王消失から一ヶ月後。王都。
「ご苦労だった」
「労いのお言葉、感謝します」
「勇者はどうした?」
「勇者様、並びに騎士アルト、聖女リーシャは魔王との戦闘の末、死亡いたしました」
「そうであったか」
「私はこれで失礼します」
「待て、褒美をやる」
「いえ、お断りいたします」
「そうであるか…」
「では、失礼します」




