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頭にもぐる


 さて、数日後のこと。


「親方ぁ、親方ぁ」

「どうした、ハチ」


「ことぶき屋の若旦那から依頼がありました。屋敷の中にあるはずの隠し資産を見つけてもらいたいそうですよ」

「隠し資産というからには、若旦那が隠したわけじゃなさそうだね」


「へぇ、隠したのは御隠居さんになります。つい先日、脳梗塞をおこして意識不明になってしまったとか。医者によると回復の見込みは薄く、至急、隠し資産のありかを探ってほしいと言われました」

「なるほど、私が()()()のは御隠居さんの頭の中というわけだね」


「もぐる? 頭の中にもぐるんですかい? それはまた一体どうやって」

「何を言っている。もう忘れたのかい。つい先日、おまえに教えてやったばかりだろ」


「へへ、すいません。物忘れだけは誰よりも早くて。それはそうと、親方にお願いがあります。どうぞ、親方の仕事ぶりを見学させてください」

「うーん、そいつも十年早いかな」


「親方ぁ、ケチくさいことを言わないで、見学させてくださいよぉ」

「甘えた声を出してもダメだ。私のノウハウは企業秘密だからね。だが、実際に見て覚えないことには、何の役に立たないのも事実。よしわかった、見学させてやろう。ただし、私の命令には絶対に従うこと」

「へへーっ」


 こうして、私はハチをつれて、ことぶき屋に出向きました。ことぶき屋は日本橋にある呉服屋で、知らぬものがいないほどの大店(おおだな)です。その隠し資産が莫大な金額になることは容易に想像がつきます。


 まず、若旦那と打ち合わせを行いました。御隠居の病状や性格など、お宝探しのヒントになりそうな情報を収集。脳髄というダンジョンの中では、情報がものをいいます。情報の取捨選択こそが、お宝探しのポイントといってもいいでしょう。


 また、これは極めて大事なことですが、報酬として隠し資産の一割をいただくことに落ち着きました。例えば、隠し資産が一億円なら報酬は1000万円というわけです。ちなみに、これは標準的な価格設定です。


「親方、隠し資産が十億円なら一億円、百億円なら十億円ですよ。ぜひ、あっしも一緒に行かせてくだせぇ」ハチはすっかり目の色が変わっています。

「ハチ、命を賭ける覚悟があるのか? ダンジョンから無事帰ってこられなければ、生きる屍になってしまうんだぞ」


「生きる屍とは何ですか?」

「意識を失ったままの植物状態ということだ」

「はぁー、それは激ヤバっすね」


 私たちは御隠居の部屋に移ると、若旦那に人払いをお願いしました。もちろん、〈探し屋〉のノウハウは企業秘密だからです。「鶴の恩返し」よろしく、こちらから呼ぶまでは、声をかけないで欲しい、と伝えておきました。


 さて、作業にとりかかろうとした時のこと、ハチが神妙な顔つきになり、

「親方、覚悟を決めました。やっぱり、おいらも一緒に行かせてくだせぇ」

「十年早いと言いたいところだが、そこまで言うなら連れて行ってやろう。ただ、ダンジョンでは私の指示に従うこと。それが守れなければ、おまえは最悪、生きる屍になるんだからな」

「へぇ、わかりやした」


 私は〈マジカルタオル〉を丁寧に折りたたむと、そっと御隠居の額に置きました。次に特殊なオイルを落とし、御隠居の脳髄をタオルになじませます。しばらくして、私は御隠居の横に寝転ぶと、タオルを御隠居の額から私の額に移しかえました。


「これで準備は整った。ハチ、5分たったら、おまえももぐってこい。なに、このタオルを額にのせるだけだ。簡単だろ」

 そう言って、私は御隠居の頭の中にもぐっていったのです。


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