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07 子どもの私と、継母マティルダ様

 目を覚ました私の目に、石膏の天井が見えた。


 使用人用の大部屋の天井は木だった。

 ここはどこなんだろうと起き上がると、頭に稲妻のような痛みが走る。


「あぁ起き上がらないで! 痛いだろう?」


 こぎれいな身なりの男性が、私をベッドに押し戻した。


「私はこのアースキン伯爵邸の専属医師のレオナルドだ。そしてここは屋敷内の医務室で、君は伯爵夫人に殴られてここに担ぎ込まれた。覚えているかい?」


 あぁ死ななかったんだと落胆のため息を吐くと、それをおもんばかったのか

「非力な貴族女性の暴行なんてたがが知れてるよ。一応明日までここで様子を見るけど、その後は……」

 そこでノックの音が言葉をさえぎる。



 従者と共に入ってきたのは、私の父アースキン伯爵だった。


「お前の事がマティルダに知られてしまった! マティルダを前にして、ただつっ立ってただけなんて……お前は何故もっと上手く立ち回れないのか! ただの平民が伯爵夫人を前にしたなら、地に頭をすりつけてへり下るべきだろう! せっかくお前が飢えないように、マティルダに目をつけられないようにしてやったのに! ……傷が癒えたら、マティルダ付きのメイドだ。どんな目にあっても私を頼るなよ! いいな!」

 そう言い放って伯爵は出て行った。


「そうか……君がリッチ男爵令嬢シャーリィ様の娘さんなんだね」

 思案顔のレオナルド医師は続いて口をひらく。


「8歳の君に話してどこまで理解できるか分からないけれど、これからの君のために忠告する。君の父親はアースキン伯爵ではあるが、元は家臣である男爵家の三男で婿養子だ。ここの実質的な当主は、嫡女たる伯爵夫人のマティルダ様だ」


 よく意味は分からなかったが、マティルダ様に虐げられても、従うしかない立場になるのだという事だけは分かった。


 それは娼婦街にいた頃と何も変わらない、ただ耐えるだけ、それだけだ。





 マティルダ様付きのメイドになって1週間。

 ちょっとでも失敗をすれば、いや失敗をしなくても毎日叱責され、殴られた。


 その頃にはすでに、言い訳を言えばよりひどい目に合うのは分かっていたし、泣けば次も泣くまで痛めつけられるのは知っていた。

 だから平然としていれば、飽きてきて最終的には気味悪がられて、暴力を振るわれる時間が短くなることを知った。



 私には想像の翼がある。


 今日もマティルダ様が、メイドに命じて私を殴らせる。


 バシバシ……私の身体を叩いてもいい音色はしないのに。お腹のいっぱい食べた人のそれを叩くとポンポン鳴るって聞いたけど本当なの?


 バアーン……突き飛ばされて床に転がされたら、床から共鳴音がする。この音はどこまで響いているのかしら。



 それより窓を開けてみない?!


 鍵がはずしてみて! 

 ねぇ、世界はもっと素晴らしい音であふれているのよ? 

 鍵を開ける音、窓をひらく音。

 その音の交わりが、始まりの合図。

 風の音、人々の声、鳥のさえずり、こんな心躍る音にみんなどうして気が付かないの?





 こうやって音の世界にいれば痛くないし、暴力もやがて終わる。



「本当に気味の悪い子ね。表情も変えずに窓だけ見て。」


 マティルダ様の声はいつも不快な音で、美しくない。


「こんな人形みたいな子、もう見たくないわ! しばらく部屋に閉じ込めて」


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