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52 ハワード子爵子息、クリスの過去⑪

 ハリーは家督を継ぐのに老公爵から条件を出された。

 それは、クロム子爵家のリリアナ嬢との結婚だ。


 私が側近になっても、やはり平民のジェニーとの子どもは後継者にはできないと親族中から反発があったのだ。この結婚に応じ、さらにリリアナ嬢との間に子どもができなければ家督を継がせず、分家筋に譲るとまで言われたらしい。


 ここまで言われると、さすがのハリーも従うわけにもいかず、結婚を承諾した。

 もちろんジェニーは反発し、泣きわめき暴れまわった。


 こうなるとハリーも「私が公爵になれなくてもいいのか!」と反論し、この頃から二人の間に亀裂が入るようになった。



 そして迎えた妻、リリアナ嬢は可愛らしい顔をした肉感的な女性で……つまりハリーの好みのど真ん中だったのだ。

 徐々にジェニーとは疎遠になり、「子を作る」という大義名分もあるため、ハリーとリリアナ嬢はどんどん親密になっていった。



 そして私が仕事で2週間、屋敷を開けていた時に事件は起こった。


 深夜、ハリーとリリアナ嬢が眠る寝室にジェニーが忍び込み、ナイフでリリアナ嬢は心臓を一突きに、ハリーの顔と両手を滅多刺しにしたのだ。


 どうやら二人は睡眠薬を盛られたらしく全く無抵抗で、リリアナ嬢は即死、ハリーはなんとか一命をとりとめたが、両目はつぶされ、両手を刺し潰された。

 そして治療の甲斐もなく、両目を失明し、潰された両手はやむを得ず肘から下が切断された。


 ハリーはしばらく精神的に不安定だったそうで面会謝絶だったが、1カ月ほどで解かれたので会いに行った。


 ベッドに横たわるハリーの腕には包帯が巻かれ、肘から下は両手とも本当に無くなっていた。

 顔は上半分は包帯が巻かれていて見えないが、下半分は呼吸か食事のためなのかむき出しになっており、その傷の状態が見えた。大きく切り裂かれたために縫われたのだろう、その表面は大きく引きつれ変形し、口の半分は歯茎がむき出しになっていた。


「ハリー様」


 私が声をかけると、ハリーは大きく身体をゆらし、その口が動く。


「ふぁぅううでくう……ぅううふぉおおおん」


 完全に閉めることができないのか、だらだらとよだれが垂れる口からは、全く聞き取れない、うめき声のような言葉が紡がれる。




 私はハリーの事を憎んでいたし、後継者から引きずり降ろそうと画策していた。

 だが、これほどの不幸を願っていた訳じゃない。


 15年間共にいた。

 尻ぬぐいばかりさせられて腹を立てていたが、こいつはいつも何の悩みもないかのように朗らかに笑っていた。




 警察に捕まったジェニーの供述によれば「その面相では女は寄り付かないし、その手ではバイオリンは弾けないし、女も抱けないだろう」と高笑いしていたらしい。

 平民が、貴族を一人殺し、もう一人には生涯介護がいる傷害を与えたのだ。


 即刻裁判が開かれ、1カ月もたたずに死刑が執行された。




 その後、キャンベル家の家門会議が開かれ、この状態のハリーでは公爵家を継がせられないとされ、分家筋から養子を迎え後継者にすることが決まった。


「私はハワード子爵家のクリスに後を継がせようと思う」

 そう老公爵は提案した。


 同じ分家筋の伯爵家からは反発があったが、次期公爵の業務を15年も続け、尚且つこの1年で事業を拡大し、公爵家の資産を倍にした私に黙るしかなかった。

 私はハワード子爵家の後継者だったが、ハリーに生涯仕えると決めた時にそれを降り、ハワード家はすでに従弟が当主となっていたので、何の問題もなかった。



 こんな事態になるとは、全く予想をしていなかった。

 このような幸運があっていいのか、傲慢で、過ちを繰り返した私に……

 それにあの姿のハリーを見たあとでは実に後味の悪く、手放しでは喜べなかった。



「ハリーは領地に連れて帰るよ。慣れ親しんだ領地の自然が、あの子の慰めになるだろう」


 立ち尽くす私の肩に、老公爵の手が包み込むように置かれた。


「私は色々間違ったのだな。年を取ってから生まれたあの子が可愛くて仕方がなくて、資質がないのは分かっていたのに、公爵家を継がせようとした。公爵になるから平民娘との結婚も反対して……あんなに好き合っていたんだから、後継者からはずして、結婚を認めてやれば、こんな事にはならなかったのにな」


 そう話す老公爵はすっかり老け込み、以前のかくしゃくとした面影は無かった。


「クリスも長い間すまんかった。お前は想像以上によくやってくれた」


 そう言いながら自分の指から指輪を抜き、私の手に握らせる。

 金の指輪にはキャンベル公爵家の紋章が刻まれていた。


「公爵就任おめでとうクリス。これで堂々とオリヴィア嬢に会えるな」

 ハリーがあんな事になった責任の一端は私にもある。

 そんな私が彼女に会えるのか? 


「オリヴィア嬢は今は平民だ。結婚するなら、ドリトス侯爵が養女にしてもいいと言っている。これが祝いになるかな?」


「……気が早いですよ。振られるかもしれないのに」


「君はしっかり仕事をして結果を出す男。そうだろう?」


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