表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/76

05 子どもの私と、父親アースキン伯爵

辻馬車で連れてこられたのは、大きな貴族様の屋敷だった。

 裏口につけられた馬車から、おそるおそる降りる。

 男は辻馬車の馭者に「誰にも言うな! 他言無用だ!」と言って金を渡していた。


 裏口の入口にひとりの女性が立っていた。紺のドレスを着て、髪をきっちりまとめている落ち着いた雰囲気の中年の女性だった。


「この子がそうなんですか?」


「そうだ。とにかく風呂に入れてくれ。泥まみれだ」



 湯がなみなみと入った大きな湯桶に入らされた。こんな経験は初めてで身体がふるえる。

 何度も何度も湯を変えて洗われ、身体をタオルでこすられる。髪もひっぱられて痛くて堪らなかったが、ただ耐えるしかない。


 痛いときはいつも、優しい想像の世界へと旅立つ。


 川で見たエビの脱皮を思い出す。

 私はエビで、今日は初めての脱皮だ。

 上手く脱皮できない私を、優しいお姉さんエビが助けてくれる。


 バシャンバシャン…水がはねる音、大きく力強い音だ。


 ガッガッ……私の頭を洗う音、力強くリズミカル。


 ギュ~ギュ~……私の身体を洗う音、この低音もいい感じね。


「何この子、無表情で気持ち悪い」


「なんでこんな浮浪児を、あたしたちが洗わなきゃいけないわけ?」


「何回洗えば湯がきれいになるのよ!」


「訳アリの子らしいよぉ~特別手当出るって言ってたし、いいじゃん」


 爪も切られ、髪も切りそろえられた。


 ここは明るくて眩しすぎる。

 周りを見ると、部屋中を照らす奇妙なガラス瓶のようなものがたくさんある。

 あぁこれが電灯なのかと納得する。これはどういう仕組みで光るんだろう。




 シミひとつないワンピースに着替えさせられ、連れてこられた部屋には、馬車で迎えに来た男の他に、金色の髪と紫の瞳を持つキラキラの服を着た、どこから見てもお金持ちそうな男がいた。


「これは…!」

 馬車男が私を見て、目を見開いている。


「あぁ…シャーリィにそっくりだね。瞳は私の色だ。この容姿でよく今まで無事でいたものだ」


 愉快そうに笑うキラキラ男。察するに……


「フレデリック……」


 母が何度も口にした名前。

 本当にこの男が迎えに来たんだ。


 何故今頃? 母が生きているうちに何故迎えに来なかった!? 

 母はずっと待っていたのに!



 バン!


 馬車男に頬を殴られて、壁に頭を打ち付けた。


「呼び捨てとは何たる不敬! 伯爵様もしくは旦那様と呼べ」


「おやめよロイス。まだ子どもだよ?」


「はっ!」

 馬車男は深々と頭をさげる。


「シャーリィが何を言ってたか知らないけれど、私は君を私の子とは認知していないし、これからもする気ないから。ただ、私の血を引く子が場末の娼婦になるのは何となく嫌だし、ごろつきと懇意になってうちを脅してきたりしちゃ面倒だから、目の行き届くところにいてもらおうと思っただけ。で、どうするんだっけ?」


「はい。下女としてとりあえず洗濯女として働かせましょう。とりあえず、ねぐらはあるしメシも出る。下級娼婦になるよりマシでしょう」


「じゃ、わきまえて務めよ」


 そういって伯爵……私の父親は部屋を出ていった。


「明日から仕事だ。変な気を起こすなよ? いつでも平民のお前をこの世から消すなんて、簡単なんだからな」

 そう馬車男はさらにクギを差し、私を下女が生活する大部屋へと連れていった


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ