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49 ハワード子爵令息、クリスの過去⑧

 とにかく喋り続けて、オリヴィア様の注意を引かなければ! 


 そうしなければ彼女は……



「そして、私はバイオリンを失ったのに、貴女には私より遥かに素晴らしい才能があって、音楽家として大成する可能性がある……私はその才能に嫉妬したのと同時に、貴女に憧れていました。貴女と音楽を作り出す日々は楽しくて、初めて生きていてよかったと思いました。」


 オリヴィア様と二人で音楽室の床に座り込んで、コンサートのアイデアを出し合った夜を思い出す。打てば響くような返答を返してくる彼女との充実した時間は、本当に幸せで……このまま時が止まって欲しいと願っていた。


「しかし次第に貴女の才能が開花し、世に知られるようになると、置いて行かれたくない、同じ場所にいて欲しい、そう思うようになりました。自分と同じ利用される屈辱の場所に、縛り付けたくなったのです。なんて醜い、醜い……」


 自分の罪を、自分の愚かさを、自分の醜さを、告白するのは身を切られるように辛い。

 だが、辞める訳にはいかない!


「でも、貴女の幸せを願った気持ちに、偽りはありません。私の事は罵ってもいい、殴ってもいい、一生憎んでいい、この命を奪う権利は貴女にあります! だから…だからどうか…死なないで…お願いです」


 私はどんな罰を受けてもいい! どうか、どうか神がいるなら、彼女をこの世に留めて下さい!


「ピアノが弾けなくなったのが辛いの」


「その手は必ず治ります! 名医を探してみせますから、必ず良くなります!」

 

 世界中を探し回ってでも、必ず彼女の手を直してみせる!


「もしそれでもだめなら私の右手を差し上げます」


 この右手など切り落としてもいい!


「私の右手をくっつけられたらいいんですが……ですが、私もピアノを弾けるようになります! 私が右手のパートを弾きます。そして左手のパートをオリヴィア様が弾いて下さい。二人で連弾をしましょう」


「連弾…」


「そうです。連弾で…二人でオリヴィア様の音を探しましょう。必ず私はやり遂げます!必ず貴女を自由にし、私の右手は一生貴女のものです」


 お願いです! どうか貴女の側で一生償わせて下さい。


「……そんな罪滅ぼしはいらないわ。もうクリス様の顔も見たくないの」


 息が止まる。

 それはそうだろうな、それならどうしたらいい?


「顔を潰しましょう。声もいやですか? のども潰します」


「どうしてそんな……」


「オリヴィア様に生きていて欲しいからです! 小さいころから虐待を受けて、私に利用されてそのまま死ぬなんて……そんなこと許されるはずがありません! 神が許しても、私は許せない! 絶対に! ……必ず貴女を幸せにしてみせます!」


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