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48 ハワード子爵令息、クリスの過去⑦

 だが●カはジェニーからオリヴィア様に心を移し始めた。


「オリヴィアはまだまだ利用できるから離縁はしない。あれは一応貴族だし、父上も納得してるし、適当に子を産ませて、年を食ってきて飽きたら離縁してやるよ」


 怒りで身体が震えるが、必死に冷静さを保ち、何とか言いくるめようとしていた時だ。


 オリヴィア様に全てを聞かれてしまった。

 彼女をお飾りの妻にし、自分が●カから逃れたいがために、そのピアノを利用した張本人は私なんだと。



 頭が真っ白になり、しばし佇む。


 どうごまかす?

 どう弁明する?

 どう許しを請う?


 いつもはすぐに適切な方法が思い浮かぶ頭から、何も出て来やしない。




 とにかく追いかけなくてはと彼女の部屋に飛び込むと、そこにはぞっとする光景が広がっていた。


 大きく開け放たれた窓から見える優美なアールデコ調のベランダの手すり。

 それに寄りかかってこちらを見るオリヴィア様の顔はどこまでも白く、宵闇に浮かび上がる。

 紫の瞳はガラス玉のようで、何の光も映していない。


 風に煽られ銀髪は生き物のように揺らぎ、薄手の夜着から見えるほっそりとした肢体は心もとなく、少しでも後ろに倒れればこのベランダから落ちてしまいそうだ。


「いけません! 早まらないで下さい!」


 必死に声をかける。だがその瞳は無反応で、私が側に行けばすぐにでも彼女は死を選びそうだ。


「お願いです! 私を置いて死なないで下さい」


 貴女の苦しみ、貴女の心の傷を甘く見た私が愚かだった!

 どうにかして彼女をこの世に留めなくては……!



 私は左手の袖をまくって、以前彼女に見せた傷跡をさらした。


「私もかつては、音楽家を目指していました。でもハリー様に切りつけられて、その夢を奪われました。悔しくて、苦しくて……何度も自殺を考えました。

 しかし我が家は所詮、貧乏な下位貴族。金のためにハリー様の側近となり、今まで這いつくばって生きてきました」


「でも私からバイオリンを奪ったハリー様に、仕えるのは悔しくて堪らなくて……でも領民のためには逃げることもできなくて……だから貴女を利用して、復讐のついでに側近からも外れようと、そんな利己的な理由で貴女に近づき、計画をたてて実行しました」


「次期公爵の仕事は全て私が引き受け、何も出来ないハリー様を無能者だと蔑んでいたけれど、本当は分かっていたんです。結局私は公爵家に利用されているだけのただの使用人だと。私はずーっとハリー様に利用されてきました…だから……だから私が貴女を利用したっていいだろう……そんな八つ当たり的な理由で貴女を利用し、自分を正当化してきたんです」


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