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04 子どもの私と、母の死

母が死んだ。

 粗悪な麻薬の過剰摂取だった。


 いくら疎遠でも遺体を放置するのは困ると思ったのか、近所の娼婦たちが共同墓地に埋葬するための荷車を貸りる手配をしてくれた。


 母の胸に河川敷で摘んだ野花を置き、シーツでくるんで荷車に乗せる用意をしていたら、身なりの良い初老の紳士がやってきた。


「私はリッチ男爵家の執事、クルトと申します。そのご遺体はシャーリィお嬢様でしょうか?」


 男爵……って分からないけれど貴族様よね? 

 母は本当に貴族だったんだ。


「貴女様はシャーリィ様のご息女、オリヴィア様ですか?」


 ご息女? そんな言葉初めて聞いたけれど、多分子どもという意味だろうとうなずいた。


「シャーリィ様のご遺体は、リッチ男爵家の墓地に埋葬いたします。貴方様の処遇はアースキン伯爵家の采配に従うこととなっておりますので、このままここでお待ち下さい」


 そう言うと紳士は下男に豪華な飴色の棺を運び込ませた。内側に真っ白な絹が貼られたその棺にシーツをはぎ取った母が横たえられる。

 その時、私が摘んだ野花が落ちてしまったが、かえりみられることもなく棺の蓋は閉じられた。


「では失礼いたします」


 そう言って母の棺は下男によって馬車に乗せられる。

 こんな場所に貴族の馬車が止まっているのが珍しいのか、沢山の娼婦たちが道に出ていた。


 ガラガラと馬車の音がする。それはどんどん小さく小さくなっていき、やがて聞こえなくなった。



 私はただ、下男たちに踏みしめられて、床のシミのようになった野花を見つめたまま動くことができなかった。




 そのまま3日が過ぎた。

 家にはわずかながらの金があったので何とかパンは買えたが、元締めの男に次の娼婦を入れるから、この長屋からさっさと出ていけと言われた。

 仕方ないと荷物をまとめている時に、辻馬車が家の前に止まった。


 そして不機嫌そうな中年の男が、ドカドカと家に入ってきた。


「お前がオリヴィアだな?」


 不穏な空気を感じて逃げ出そうとすると


「あばれるな。殺されたいのか? こっちはどっちでもいいんだ。むしろ死んでくれた方が色々面倒が減る。生きたいならさっさと馬車に乗れ」


「あ…荷物を……」


 外で待つ私のために、母が初めて買ってくれた手袋、一緒に作った押し花……数少ない母との優しい思い出。


「そんなゴミ不要だ! とっとと乗れ!」


 抱き上げられ馬車に放り込まれる。

 8歳の力では大人には何の抵抗もできない。


 諦めるのは慣れている。

 そんな事でいちいち嘆いていたら、今まで生きてはこられなかった。


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