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35 ハワード子爵令息、クリスの過去②

 私の左手は切断は免れたが、重要な神経を傷つけたらしく、指を自由に動かせなくなった。



 私のバイオリニストとしての人生は終わった。




 キャンベル公爵は、芸術に精通していた方だ。

 私がバイオリンを弾けなくなった『息子が起こした事故』に非常に心を痛め、我がハワード家に多額の慰謝料を払って下さった。


 実はハワード子爵家の領地は、ここ数年何度も起こる水害のせいで困窮していたのだ。私が飛び級で学院を卒業したのも、学費を節約するためだったし、積極的にコンサートを開いていたのも金が目的だったのだ。


 この慰謝料で領民の生活を立て直しても、また水害がおこらないようにする工事が必要だ。だが、土木工事は金がかかる。両親はこの『事故』をきっかけに今まで言い出せなかった借金を主家キャンベル公爵家に申し込むことにした。



 そこで公爵様に言われたのは……

「その工事資金は全て公爵家が提供しよう。その代わりクリス君を息子の側近にしたい。ハリーはやや迂闊なところがあるが、優秀なクリス君がついてくれたら、なんとか当主としてやっていけるだろう。何、ずーっととは言わない。クリス君が子爵家を継ぐまででいいから、あの子の力になってやってくれないか?」というものだった。


 ハリー様は公爵様が55歳を過ぎてやっと恵まれた嫡男、可愛くて堪らないし、心配だったのだろう。



 主家の願いを断れるはずもない。父はありがたくその申し出を受けた。


「すまない。お前のくやしい気持ちは分かるが、これで領民が助かる。お前は次期当主として領民を守る義務がある。」


 そう言われると私には何も言えない。

 私だって領地を愛していたし、領主一家としての責任と矜持もあった。





 あれから12年。私は24歳に、ハリーは22歳になっていた。


 あの「事故」からずっと側近として仕え、支え続けてきた、表面上は。


 この低能ハリーは、見た目だけなら王子様のように成長した。

 権力のある男は美しいトロフィーワイフを望む。その美貌の遺伝子が受け継がれ、もうすぐ80歳にもなる老公爵も若いころは社交界の花形だったし、ハリーもその例外ではなかった。


 だが脳みそは空っぽ、次期公爵としての業務はほったらかし、遊興と酒と女にふける見事な●カ息子に成長した。

 それはまぁ、私がそのように仕向けたのだが……。


 公爵家の次期当主としての業務は、全て私が行っている。

 ハリーは私の指示通りサインをするだけだ。呆れたことに書類を一切読みやしない。


 そして、そんな無能に育ったことを、私は父親の老公爵には一切報告していない。

 私は他にも次期公爵名で数々の事業をしているが、その成功もハリーのものだと信じて疑わない。



 だが、私は彼の素行の悪さ……散財や酒癖や女癖の悪さはちょくちょく報告していた。私の苦労や嘆きと共に。

 老公爵がハリーへの不信感の根を張るように、少しずつ、少しずつ。


 その度に老公爵は「素行は悪いが仕事はできる子だから、それが救いだ」と己を慰めている。




「クリスのやる事に失敗はないからね。任せたよ」

 私に全ての仕事を丸投げしているハリーは、いつもこのセリフを吐く。


 こいつは私の左手を奪っておいて、恨まれていないとでも思っているのか?

 そのおめでたい頭に失笑を禁じ得ない。


 公爵家の援助による、我がハワード領の土木工事もこの春で一応の目処が着いた。

 途中、工事中に大きな事故が起こって、随分と時間がかかってしまったが、これで今後水害が起こっても被害は最小限に抑えられるだろう。




 さて、そろそろ行動を起こすか。


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