表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/76

03 子どもの私と、母の憎しみ

「お前さえいなければ!」


 酔っぱらった母はよく私を殴った。

 いつからか、記憶がないくらい小さな頃から……

 母は貴族令嬢だったらしい。


「お前を妊娠しなければ、フレデリック様のお側でいられたのに! ずーっと私を愛して下さったのに!」


 フレデリック様というのが私の父らしい。


 だが、そのフレデリック様にはすでに奥さんがいて、とても偉い人だったそうで……その奥さんの勘気に触れ、母は身ひとつで平民に落とされたらしい。


 そんな一銭も金を持たない、お腹の大きな母を親切にも生活をみてくれた男がいたのだが、私を産み落としたとたんに豹変、今までの生活費は借金だから働いて返せとばかりに、この娼婦街の長屋に放り込み、客を取らせるようになった。


 避妊に失敗した愚かな娼婦とされた私たち親子は、この娼婦街で孤立、誰も助けてくれる人なんていない。

 しだいに母は酒と薬におぼれ、その容姿も今や見る影もない。


「お前のせいなのよ! あやまりなさい!」


 背中を蹴られ、ひざまずかされ、頭を床に抑え込まされる。

 勢いよく床に叩きつけられたので、鼻血が出てしまった。


「あやまりなさい!」


 声を出そうとするが、声が出ない。



 ごめんなさい。

 ごめんなさい。

 生まれてごめんなさい。



 母が私の顔をあげさせ、頬をきつくつねる。

 鼻血がだらだらと流れる。


「何よこのきめ細やかな白い肌! ピンク色の唇、艶やかな銀髪……全部私のものだったのよ! お前が私から盗んだんだ! 返せ! 返せぇ~!」


 母が私の顔を殴りつける。

 母は私の顔をいつも一番に痛めつける。


「お前の美貌が憎い! 憎い! お前なんて死んでしまえ!」



 薬でやせこけた母は体力がない、次第に殴る力は弱くなり、ふらふらとベッドに倒れこみ、やがて寝息が聞こえてくる。


 ようやく今日が終わった。

 寝る前に母に殴られる……それが一日の終了の合図。



 井戸に行き、血まみれの顔を洗ってると、隣の家の娼婦が顔を出してきた。


「あんたさ。さっさとここを出ていきなよ」

 そう言って家にひっこんでいった。





 朝になると母は、昨夜のことを全て忘れている。

 これもいつものこと。


「どうしたの? オリー! こんなに顔を腫らして! 誰にやられたの!」


 やせ細ったその腕で、ぎゅっと抱きしめられる。


「ごめんなさいね。こんなところで暮らしているからよね。もう少しだけ我慢して! もうすぐフレデリック様が、迎えに来て下さるから。もう少しの辛抱だから」


 昔はこの言葉を信じていた。

 私が想像の翼を持っているなら、母は夢想の翼を持っている。

 やっぱり親子なんだろうと思い、悲しくなった。


 どちらの翼も現実では何もしてくれない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ