表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/76

28 お飾りの妻の私と、得られない栄誉

 今日は芸術大賞の受賞パーティーだ。

 パーティー参加のため、ハリー様とジェニー嬢が1階へ降りてきた。


 ハリー様はコンサートのバイオリン王子の衣装をそのまま、ジェニー嬢は白ウサギの衣装をまとっている。



「この栄誉はオリヴィア様のものでもあります! そして正妻でもあるんですよ! 受賞パーティーのパートナーには、オリヴィア様をお連れすべきです!」


「クリスったら何言ってんの? 表彰されるのは僕だし、栄誉は僕のものでしょ? その僕のパートナーは愛するジェニー以外ありえない!」


「この受賞はオリヴィア様がいたからこそ、得られたものですよ!」


「うるさいな~! みんな僕が行けば満足するし喜ぶんだ! どけ!」


 クリス様の制止を振り切り、二人は馬車に乗ってパーティー会場に行ってしまった。




「こんなことって……!」


 クリス様のこぶしが震えている。

 私はそっと彼の肩に手を置き、微笑みかけた。


「貴女は腹が立たないのですか!」


「腹を立てたところで、何か変わるの?」


 そもそも私は怒られる側だったから、怒り方なんて知らない。


「貴女は正式なハリー様の妻で公爵夫人です! しかも受賞は貴女のピアノがあってこそだ! 貴女には怒る権利があります」


「それを言うなら、クリス様の編曲のおかげでもあるわよね」


「……貴女は自分の才能を、認められたいとは思わないんですか?」


「そんなもの必要? それがあったところで私のピアノの何が変わるの?」


 私がそう言うとクリス様は大きく目を見開き、しばらく私を見つめたまま悲し気に微笑んだ。


「そうですね。貴女はそういう方だ」


「私はただ楽しく演奏したい、美しい音楽に触れたい、それだけなの」


「…しゃ…が…い…る」

 クリス様が何かつぶやいたけれど、小さくてよく聞こえなかった。




 ハリー様に『君が妻で良かった』なんて言われて、ちょっと舞い上がりすぎたかな。

 こんな私でも必要とされている、ここにいていいんだと嬉しく思ったけど……

 やっぱりここでも都合よく利用されただけ、子どもの頃から何も変わらない。


 何も変わらない……


 誰に何も期待しない、誰にも頼らない、音楽だけが私を裏切らない。






「ブラクトンホールでのコンサート依頼がきた!」


 その日は私の21歳の誕生日で、公爵家に嫁いで3年がたっていた。


 ブラクトンホールとは150年前の王、芸術王と呼ばれたカール王が建てたバロック様式のオペラハウスだ。音楽家憧れの舞台として有名で、そこでコンサートができれば一流と認められる。


「ついに、ここまできたか!」


 ハリー様は満足そうに鼻をならす。

 その隣でジェニー嬢は、首をかしげて不思議そうにしている。


「半年後の新年明けに、3日間の日程で予定されています。早速、曲の選定にかかりましょう!」


 さすがのクリス様も、頬を紅潮させて興奮気味だ。


「ん~~。お前ら二人に任せるよ。ジェニーと夏はクレル島にバカンスの予定だし、年末はアッケド山にスキーに行く予定なんだ」


「そんな……!」


「大丈夫、大丈夫。いつもみたいにお前らで決めておいてくれたら、僕はちゃんとやるし。今までも失敗したことないだろ?」


「ブラクトンホールですよ!? 今までと違って耳の肥えた紳士淑女が、聴きに来るんですよ? 誤魔化しは効きません!」


「とにかく任せたから! 僕はバカンスの準備で忙しいんだ」

 そう言ってジェニー嬢を抱きしめながら、音楽室を出て行ってしまった。




 そうしてその2日後、ハリー様たちは本当にバカンスに行ってしまった。

 そして結局、3カ月も帰ってこなかったのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ