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26 お飾りの妻の私と、私が好きな笑顔

「あたし、こいつも大嫌い!」


 次にジェニー嬢は攻撃の矛先を、クリス様に変える。


「いつも偉そうで、あたしをバカにしてくるのぉ~ただの使用人のくせに」


「クリスは便利な男なんだ。公爵子息としての業務も全部やってくれるし、僕を音楽家として有名にするために、手を尽くしてくれるんだよ。こんな使い勝手のいい使用人はいない。だから頑張って好きになってやれよ~~実質的な公爵夫人のジェニーに嫌われたら、こいつも辛いだろ?」


 私は始めからお飾りだと知らされていたし、バカにされるのは慣れている。でもクリス様はこの二人に、こんなことを言われていい人ではない。

 私はじっとジェニー嬢を見つめた。


「な…何よ!」


「ジェニー嬢は、何の後ろ盾もない平民のお嬢さんなんですよね? ハリー様に愛されているというだけの」


 彼女が息を飲むのが聞こえた。


「嫌悪や憎しみは、時間とともに薄れていくことがあるのに、どうして愛情だけは、薄れずに永遠だと思っているんですか? 何故、愛を向ける相手は、愛する心は、ずっと変わらないと思われているんですか?」


 私はあの娼婦街で、たくさん愛を失う瞬間を見てきた。母も父の心変わりで捨てられた。


 その私の言葉にハリー様は、「お前は僕の純愛を疑うのか!」と唾を飛ばしながら怒り、ジェニーさんには頬を殴られた。


 やはり私が口を開くと、殴られるみたいだ。

 ただ、本当に不思議で聞いてみただけなのに。


 それに未亡人と挨拶で閨をしたくせに、ハリー様の純愛って何?



 その後、二人は罵りながら音楽室から出ていったが、私の頬に濡れタオルを当てながら、笑いが止まらないのはクリス様だ。


「オリヴィア様って最高」


「やっぱり、私が喋ると不快なんですね」


「いえ、私は痛快でしたよ」


 一時は収まったけれど、最近のクリス様の笑顔はまた、お父様に似てきた。


 でも今の微笑みは良い笑顔。

 私の好きな――――


「この笑顔は好き」


 クリス様は、大きな大きなため息を吐く。


「貴女は私をどうしたいんですか」


 そうして今度は、悲しそうな笑顔になる。


「クリス様はハリー様にとって使い勝手のいい人間?」


「……そうですね」


「私もハリー様にとって使い勝手のいい妻?」


「……えぇ」


「でもクリス様と一緒に編曲したり、音楽の話をするのは楽しい。例え利用されていたとしても、楽しいから良い」


 そう言うとクリス様は頭を大きく振った。


「貴女はこんなところで搾取されるべき人間ではない。もう少しだけ我慢して下さい。必ず貴女をあるべき場所へと、私が送り出します」




 次の日からハリー様は、編曲はおろか、練習にも来なくなった。


 曰く、ジェニーの心はオリヴィアのせいで大きく傷ついた、だから慰めるために僕は彼女と毎日デートしなくちゃいけない。

 曰く、練習に出ないのはオリヴィアへの罰だ。僕に参加して欲しいなら、ジェニーに心の底から謝れ。

 との事らしい。



 別に謝るのは慣れてるから、ジェニー嬢のところへ行こうとしたら、クリス様に止められた。


「困るのはハリー様ですから、放っておいていいです。それより、早く編曲を二人で進めましょう!」


 3カ月後には大ホールでのコンサートも控えている。チケットはすでに完売もしている。

 確かに二人の機嫌を取っている場合ではない。

 編曲は順調に進んでいるが、まだまだ曲数を増やしたいところだ。


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