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22 お飾りの妻の私と、名工のピアノ

 公爵邸の音楽室は1階にあり、サンルームも備えたとても開放的な空間だった。

 そこに飴色に輝くグランドピアノ、名工ウォルドグレイヴのピアノ。


「弾いても?」

 案内してくれたメイドに聞くと「もちろんです。調律もしてあります」と微笑んだ。


 鍵盤蓋をゆっくり開け、鍵盤をすこし叩いてみる。

 あぁなんて重厚な音色なんだろう。


 少し鍵盤が重いけれど、その分なんてグラマラスな音をだすの。


 これは年配の貴婦人だわ。

 若い令嬢は軽やかで華やか……それはそれでいいけれど。彼女は人生の色々な経験を経て、時には過ちもおかし、裏切りにも会い、でもそこから這い上がってきた強靭な魂の持ち主だわ。



 椅子の高さを調節し、腰を掛け大きく深呼吸をする。

 やはり初めに弾くのは『春の庭』。


 軽やかで夢見るような旋律に、いつも私は救われてきた。


 だけど、このウォルドグレイヴで弾くとそんな表面上の喜びでは収まらない。

 その音は冬枯れの大地に、春がおとずれ芽吹く草木への賛歌であり、感じるのはその生命力、自然の底力……圧倒的なエネルギー。

 そのエネルギーを貰いながら、私は心のまま奏でる。


 あぁ、すっかり自分に酔った演奏をしちゃったなと思いながらも、満足して演奏を終えると、そこには懸命に拍手をするメイドと、静かに涙を流すクリス様がいた。


「あ…貴女はやはり…すばらしい…すばらしい」

 そう言って顔を覆う。



 そこに飛び込んできたのはハリー様だ。


「今、ピアノ弾いてたのはオフィーリアだよね? アースキン伯爵令嬢の替え玉をしてたって聞いてたけど~~すごい! すごいね!」


 昨日の話など無かったかのように、陽気に、親し気に、私に話しかけてくる。


 そして懐から紙の束を取り出し、私に見せてくる。


「これを僕と演奏してみようよ!」


 この譜面は……『マリアへの朝の挨拶』。

 有名なバイオリン協奏曲で、誰もが耳にした事がある名曲だが、30分以上ある。それを5分ほどに短縮し、バイオリンパートとピアノパートだけで演奏できるように編曲してある。


「これはクリスが編曲したんだ。ジェニーもピアニストだから一緒に合奏したくてね」


 最愛の二人のための曲を、お飾りの妻と演奏していいのだろうか。ジェニー嬢は怒らないのだろうか。

 その譜面を譜読みし、軽く試し弾きをしてみる。


「初見でここまで……やはり貴女は!」


 あぜんとするクリス様をしり目に、ハリー様の明るい声が響く。


「よし! とりあえずやってみよう!」


 そう言って彼は戸棚からバイオリンを取り出し、演奏を始める。

 それに私もついていく。

 合奏なんて初めてだ。


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