表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/76

10 子どもの私と、ピアノ教師クレバー夫人

 マティルダ様付きのメイドになってからは、使用人の大部屋から、屋敷の屋根裏部屋に部屋が移されていた。

 ベッドはなく毛布だけ。机もない小さな物置部屋だったけれど、一人しかいないので、調理場のかまどからもらってきた炭で床に鍵盤を描き、月明かりの中、夜通しピアノの練習をした。

 鳴り響くピアノの音が、私の頭の中で再生される。


 空腹も、殴られた痛みも、何も感じない……私は空想でどこまでもどこまでも飛んでいける。





「もう、嫌っ!」


 私と一緒にクレバー夫人のレッスンを受けていたミュリエル様が、泣きながら音楽室から飛び出して行った。


「ふーう。可哀そうなことをしたわね。いくらミュリエル様でも、あなたとの実力の差は嫌でも分かるでしょうしね」


 ミュリエル様はもうピアノを辞めたいと、マティルダ様に訴えたようだったが、『王女様も参加する発表会』まで辞めることを許されなかった。



 すると、厨房で1日一回もらえるパンとスープも「お嬢様のご命令でお前にやることは出来なくなったんだ」と言われて貰えなくなった。

 空腹でフラフラしていると、ミュリエル様につき飛ばされた。


「お前のせいでわたくしはピアノが嫌いになったわ! お前がわたくしからピアノを奪ったのよ!」



『何よこのきめ細やかな白い肌!ピンク色の唇、艶やかな銀髪……全部私のものだったのよ!お前が私から盗んだんだ!』母も私を盗人だと言っていた。


『なんて忌々しい! 生きていたなんて! とっくに野垂れ死んだと思っていたのに!』こう言ったのはマティルダ様。


『お前の美貌が憎い!憎い!お前なんて死んでしまえ!』これは母。



「お前なんていなくなちゃえ!」

 ミュリエル様の悲痛な叫びが響き渡る。



 私が生きているだけで、こんなに苦しむ人がいるのは何故だろう。


 どうしてみんな私の死を願っているのだろう。





「顔色が悪いわ。……また痩せた? ごはんは貰えているの?」


 鍵盤を力なくたたく私に、クレバー夫人が心配そうに声をかけてくれた。


「……私のせいね。」


 そう言って彼女は、私の殴られた脛の跡を悲しそうに見つめる。


「貴女のこの屋敷での立場はメイドから聞いたわ。私のしたことは貴女にとって、余計なことだったかもしれない。でも、もしピアノで身を立てることができれば、貴女はこの生活から抜け出せるかもしれない。私は貴女にその可能性を与えたいの」


 そう言って、毎週日持ちをする食料をこっそり、渡してくれるようになった。


 おかげでまだ、私は生き続けている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ