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アイリスのドタバタ減量大作戦3

「すっかり遅い時間になっちゃった」


 あたりはすでに真っ暗だ。居眠りまでしてしまったのだから当然と言えば当然だろう。

 

 アイリスは隣を歩いているフリードを見る。


「もしかして……探してくれてた?」

「案外すぐに見つかったがな」

「それはよかった……」


 アイリスは魔力感知にほぼひっかからない為、探すのは至難の業だ。その為申し訳なく思ってしまう。


「探してくれてたっていうのは……」

「誤解を解いておこうと思ってな」

「誤解?」


 アイリスは首を傾げる。


「そう。あの時アルストレスタでアイリスを抱えた時に言った言葉についてだ。俺は重いと言いたかったわけではなかったんだ」

「無理しなくていいんだよ。そもそも人一人が軽いわけないし」

「そうそう。それだよ」

「?」


 フリードは分かってるじゃないかというように頷く。


「俺が言いたかったのは、アイリスが特別重いっていう訳じゃなくて、ただ俺が嬉しかったんだ」

「嬉しい?」

「そう。ちゃんとここにいるって分かったから。存在していない物に重さはないだろう?」

「確かに……でも、その言い方だと私がいて嬉しいって聞こえる……もしかして揶揄ってる?」


 フリードはアイリスすら駒だとアルストレスタで言い切っていた。駒の一つでしかないアイリスに対し、今の言い方に違和感を感じ、いつものようにアイリスを揶揄って遊んでいるのではないかと疑いを持つ。


「まさか」


 フリードは少し困ったような笑みを浮かべる。

 

「それに聞こえるじゃなくて、そう言っているんだ」

「……え?」

「俺はアイリスが気に入っているからな」

「……何で?」

「それは」

「それは……?」


 沈黙が訪れた後、ゆっくりフリードが言葉を続けた。


「アイリスが面白いから」

「……はい?」

「何をするか分からないアイリスのそばにいるのは愉快だと言うことさ」

「何をするか分からない!? 私は至って平均で平凡な事しかしません!」


 アイリスが反論する中、フリードはくすくす笑う。


「それ、あいつらが聞いたら無言で首を横に振ると思うぞ」

「そんなあ……」


 フリードの言うあいつらとは、ユーリたちの事だろう。

 

「そもそも減量ひとつで他寮まで巻き込んだ騒動に発展するのはアイリスくらいだろうな」

「騒動!? そんなことにはなっていないかと……」

「…………」


 アイリスは認めたくなかったが、素直に否定は出来ない。

 少なくとも寮での喧嘩のきっかけは間違いなくアイリスだからだ。


「そ、騒動はともかくとして、今回減量は辞めようと思うの。今は」

「へえ。その心は?」

「思い返せば私、この寮に来てから体調が良いから」

「……」

「それはきっとユーリさんが皆の栄養を考えて食事を作っているから。その事をゼンの話で改めて実感したの」


 アイリスが空き教室から出る時ゼンに言われた言葉がある。


『アイリス。お前は栄養の重要さを知っている。そして大切なのはバランスよく摂取することも分かっているだろう。それなら、ユーリ・ハルロフの作る料理は栄養を考慮されて作られているか、それともそうでないか。お前なら分かるだろう』


 ゼンの言葉でユーリの作る料理を思い返せば答えは簡単である。それに最近はアイリスも手伝っているのだ。ユーリがどれだけ栄養を考慮した献立を考えているのかアイリスは分かっていたのだった。


「それに、わざわざ摂取するべき栄養を摂取せず不健康になるのは生活する上でも非効率的だし。ただ、今回のことは、騒動……にはなっていないけど、健康を考える良い機会だったと思う。今まではそんなこと、考えたことなかったから」


 騒動については認めたくなかったので否定をするアイリス。

 

 一方、今まで山の中で自分の栄養なんて全く考えないで生きてきたことを思い知ることになったのだ。

 山にあるものは限られている。だからこそあるもので命を繋いできたので、今まで考えるに至らなかったのだ。


「そもそも肥満の原因の一つは栄養の過剰摂取。ちゃんと考えて生活しようと思う」

「……そう」

「魔法師の任務は体が資本だし」

「そうだな」

「ちゃんと考えないと。肥満も怖いし、戦闘にも影響が出るし。それに……例えば十年後とかで久しぶりに会った時、私がすごく丸くなって別人みたいになった結果認識すらされなかったら、それはそれで悲しいだろうし」


 足を動かす度にドスーンドスーンと足音を立てる自分を想像する。今と全然違う姿に少しだけ面白味を感じてしまう。

 

「認識されない……か。それはないな」


 フリードは笑って否定した。それも言い切っている。


「何でそんなに自信満々なの?」

「俺がアイリスを見誤ることはない自信があるからだ」

「……」

「たとえアイリスがどんな体型になっても、成長したり、髪色が変わって容姿が変わったとしても俺は絶対に見誤ることはない」

「……じゃあ今度変装してみようかな」


 本当にフリードの言う通りなのか検証したくなるアイリス。

 髪色を変えることは難しいかもしれないが、髪型を変えたり服装を変えたりと頭の片隅で考える。今どきは靴のヒールで身長も変えられるので、印象をがらりと変えることができるだろう。


「受けて立つさ」


 フリードはどこか楽しそうだ。そんなフリードを見てアイリスはどこか照れくさくなるのだった。


「あ! そうだ!」


 アイリスは大切なことを思い出す。


「この前アルストレスタではフリードに抱えられることになったけど、有事の際、逆に私がフリードを抱えることもあるんじゃないかな」

「…………は?」

「だから私もフリードを抱えられるように今から訓練するべきだと思うの!」

「……………………いや、無理だろう」

「そんなのやってみないと分からないよ!」


 フリードはすぐに否定するが、何事もやってみなければ分からないのだ。

 

「いや、抱えられたらそれはそれで俺が無理」

「緊急時にそんなことを言ってられない可能性もあるよ。だから備えられることには備えないと!」


 アイリスは足を止めてフリードを見上げる。


(どこを持って抱えればいいんだろう……身長差もあるから……)


 アイリスは熟考した末、フリードの腰あたりに抱き着く。そして上へ力を入れる。


「あ……あれ?」


 力を入れてもフリードの足は地面から離れていない。


「ぐぬぬぬぬ……」


 極限に力を入れてもフリードは動かない。


(人一人ってこんなに重かったの!?)


 それでも緊急事態が起こった時を考えてアイリスは必死に力を入れる。


「はあ……色々本当に分かっていないんだろうな」


 フリードのため息と共にアイリスはぎゅっと抱きしめられる。それでいて痛くもなく優しい力加減だ。

 そもそもアイリスから抱き着いて力を込めていたので、腕を回されればあっという間に抱きしめられてしまう。


「ふ、フリード!?」


 ぎゅっとされたまま、フリードの頭がアイリスの肩に軽く乗せられる。

 

「この状況も、俺がアイリスをどう思っているのかも、きっと欠片も分かっていない」

「フリード? それはどういう」

「あああああああああ! なんでこんな学園のど真ん中でいちゃついているんですか!」


 大きな声が聞こえ、アイリスは声の方に顔を向けるとそこには大きな声をあげたオーウェンがいる。その後ろにはユーリとルイがいた。


「いちゃ? これは有事の際の訓練ですよ」

「く、訓練? いや、二人して抱きしめあってるだろう!」

「え? そんなことうわわわ!」


 急にアイリスの視界が高くなる。フリードに抱えられたのだ。


「ふ、フリード!?」

「俺、されるよりする方が好きなんだよな」

「それじゃあ私の訓練にならないよ!」


 フリードはアイリスを抱えたまま歩き出す。


「それは諦めてくれ。で、お前たちは俺たちを探していたんだろう?」


 フリードはあっさりと話題を変える。

 

「そうですよ。なかなか二人が帰ってこないから探していたんです」


 ユーリが呆れた顔で話す。

 一方ルイはアイリスに「手間かけさせないでよ」と苦情を言う。アイリスは探させてしまったことは事実なのでしょぼんと謝ったのだった。


「やっぱり細いな」

「え?」

「アイリスを抱えたまま王都一周は余裕だな。世界一周も多分大丈夫だろう。今度試そうか」

「は?」

 

 いきなり何を言い出すのかとアイリスは呆ける。ただ、フリードならやりかねない何かを感じる。


「いや、さすがに世界は無理だよ! 無理……だよね?」

「さあ」


 フリードは楽しそうに歩いている。


(ずっと抱えられたままいろんな人に見られるのはちょっと……)


 そんな事態になった際は最大限に抵抗しようとアイリスは心に誓ったのだった。

ここまで読んでいただきありがとうございます!


この番外編は残り1話となります。

お付き合いいただけますと嬉しいです!

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