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アイリスのドタバタ減量大作戦2

「あー。癒しが欲しい」


 アランは放課後、ひとり学園の廊下を歩いていた。


「ゼンの奴……俺のこと、こき使いすぎる」


 一仕事終えたアランは最後に風紀委員の仕事である学園内の見回りを行う。


「はあ……本当についてない」


 アランは近づいてくる気配にうんざりしながらも前を見据える。


「ついてないのは俺の台詞だけどな」

「勝手に人の言葉盗まないでくれる?」


 アランはゆっくり歩いて来たフリードにうんざりする。


「へえ。学園の風紀を守る風紀委員がすれ違う生徒一人に挨拶もせず悪態をつくんだな」


 フリードの挑発にアランはイライラしながらも心を落ち着かせて言い返す。


「悪態だなんてとんでもない。これから挨拶しようと思っていたんだよ。それとも何? 人の独り言にいちいち突っ込まないと気が済まないわけ?」

「いいや? 独り言にしては随分大きな声だと思って誤解しただけのようだ。悪かったな。てっきり大きな声だったから返答が欲しいのかと思っただけだ」

「……………………」

「……………………」

「……はあ。君の相手をするのは疲れる」


 アランは大きな大きなため息を吐く。


「そう。それじゃあ」

「いやいや!」


 フリードはアランの様子に気にすることもなくすれ違い歩き出すので、アランは慌てて止める。


「こんな時間に校舎で何やってるわけ?」


 風紀委員としてこんな時間に生徒がいることを見過ごすわけにはいかない。

 

「……探しもの」

「探し物? そんなの明日にしなよ」

「いや……おそらくここらへんにいるはずなんだ」

「あるじゃなくて……いる……ってまさかアイリスちゃん!? もしかしてまた迷子!?」


 アランはアイリスが学園に来た初日、学園内で彷徨っていたことを思い出す。


「いや、迷子ではないんだが」

「もしかして愛想尽かされて出て行っちゃったとか! ざまあ」

「そういう単純な話だったら良かったんだがな」


 フリードは苦笑いを浮かべて歩き出す。

 アランも一緒に歩き出す。


「なんで一緒に来るんだ」

「別に。ただアイリスちゃんがいるって聞いたら探すしかないでしょう。それに今一番俺に必要なのは癒し! つまりアイリスちゃんを眺めて癒されたいんだよ!」

「……………………」


 フリードはじろりと睨みながらも足は止めない。


「しかも愛想尽かされているなら俺の寮への勧誘チャンス! 逃すわけにはいかないね」


 アランは張り切るが、フリードは相手にせず歩く。

 そして唐突にフリードが足を止めた。


「……明かりがついてるな」

「あれ? この気配」


 明かりが漏れている教室のドアにアランは手をかけ、勢いよく開ける。


「何この状況」

「……………………」


 そこには黒板へ一心不乱にチョークで文字を書くゼンと、自分の腕を枕に眠っているアイリスがいた。


「どうしたアラン。それとフリードか」


 ゼンはドアを開けて目を丸くしているアランとフリードに目を向ける。


「ゼン、何してたの?」

「何って……見て分かるだろう。アイリスに大切な講義をしてたんだ」


 確かに黒板には文字と図がびっしり書いてある。そのことからもゼンは一生懸命アイリスに何かを説明したかったというのはすぐ分かった。


「アイリスちゃん……寝てるけど」

「なに!?」


 ゼンは気がついていなかったようでとても驚いている。


「えーっと……とりあえず」


 アランが教室に入りアイリスへ近づく。


「おいアラン。不埒な真似は」

「しないしない! しないって! ちょっとアイリスちゃんの寝顔を見て癒しを……ってそんなに睨まないでよゼン! フリードも人を殺しそうな殺気を向けるのはやめて! それよりこんな場所で寝かすわけにはいかないでしょ!」


 ゼンとフリードが睨みを効かせる中、アランはアイリスの肩を揺すって起こそうと手を伸ばすが、肩に触れる前にアイリスの目が勢いよく開かれる。


「うわっ! ご、ごめんアイリスちゃん、起こしちゃった?」

「……………………」


 アイリスは驚いているアランに目を向けているが、何の応答もなくぼんやりと見つめているだけだ。


「アイリス。寝ぼけてる」


 いつの間にかフリードがアイリスの近くに立ち、アイリスの柔らかな髪を一束掬い上げ指で優しく撫でた。


「…………はっ!」


 漸くアイリスは我に返ったように周りを見渡す。


「フリードとアラン様?」


 アイリスは目を瞬かせるのだった。



 ***


(え? 何で二人がここに? それに……もしかして私……寝てた!?)


 恐る恐るゼンへ面向けると、ゼンはとても落ち込んでいた。


「そうか……俺の話はつまらなかったようだな……アイリスは……」

(どうしよう! ゼンがすごくすごく悲しそう)


 アイリスはあまりに落ち込んでいるゼンに慌てて声をかける。


「違います! とても興味深かったです!」

「だが寝てしまうほど退屈だったのだろう」

「そんなことないです! えっと……栄養のお話でしたよね」


 実はこの空き教室へ連れてこられてから、アイリスはゼンから栄養の話を聞かされていたのだ。


 アイリスはちらりと一瞬黒板に目を向ける。


「えっと……まず重要な栄養素の種類として炭水化物、脂質、タンパク質があるんですよね。炭水化物はパンや麺類等ですね。炭水化物といっても糖質と食物繊維に分類されます。ざっくり説明すると重要なエネルギー源になるんですよね。次に脂質は……」


 アイリスは自分の知識と黒板に書かれた知識をフル活用してゼンに説明されたであろうことを説明する。


「勿論栄養素は他にもミネラルやビタミンがあります。大まかにミネラルやビタミンと言いますが、いくつもの種類があり、勿論効果も違えば、摂取できる食べ物もバラバラです。例えばビタミンの中には貧血予防や美肌効果。それと代謝を助けたり、中にはアルコールの分解を助ける種類もあるのだとか」

「ああ。その通りだ」


 落ち込んでいたはずのゼンは興味深そうに相槌を打つ。そして説明はまだまだ続く。


「……と、このように様々な栄養がないと生活に影響が出たり、病にかかる可能性も高くなってしまうのです」

「ふむ」

「ただ栄養も過剰摂取は体に悪いと言われています。炭水化物や脂質の過剰摂取は肥満を招きます。ミネラルの中のナトリウムはむくみや高血圧のリスクにも繋がるとも言われていると研究成果が上がっています」

「その通りだ。つまり栄養をバランスよく摂取する事が重要ということだ。…………なんだ、ちゃんと聞いていたんだな」

「あはは……」


 アイリスは曖昧な笑みを浮かべる。

 

 実のところすぐ寝てしまったのかあまり話を聞いていなかったのだ。

 ただ、アイリスには栄養に関する知識があった。


(一応医学の本たくさん読んだし、体に関わることだから栄養関係の本もそこそこ読んだんだよね……こんなところで役立つとは……ただ、ちょっと喋りすぎたかもしれない)


 アイリスは自分の知識をフル活用して誤魔化しにかかっていたのだが、フリードやアランもいたことから簡潔に説明するつもりだった。

 興味のない話なら聞いていて退屈かもしれないと思ったからだ。

 しかしつい詳しく説明してしまったとアイリスは反省する。


 ただ、目の前にいるゼンは少なくとも退屈ではなかったようだ。


「さすがアイリスだ。なるほど理解した。先ほどは眠っていたではなく、瞑想をしていたということか」

「え?」


 ゼンは納得したようにうんうんと頷いている。


「心を落ち着けることはとても大切なことだ」

「そ、そうですね……」


 気づかぬうちにゼンが盛大な勘違いをしているが、何とか事が丸く収まりそうなので否定も肯定もせず笑みを浮かべるアイリス。


「いや、ただアイリスちゃんが博識だっただけで、実際は眠っていたと思うけど……」


 アランが完璧な正解を言い当てる。


〈余計なことは言わないでください!〉


 アイリスは慌ててアランに向かって秘匿魔法を使う。


 アランは首を縦にコクコクと勢いよく振るのだった。


「アラン、何を言っている。先ほどの説明は完璧だった。俺の伝えた話以外にも詳しい説明だったからな」


 どうやら必要以上のことを話してしまったようだ。

 これでは事前知識を披露しただけのことがバレてしまうと顔を青くしたアイリスは、慌てて立ち上がる。


「私もう寮へ戻りますね! 貴重なお時間をありがとうございました!」


 アイリスは頭を下げ、そそくさと逃亡しようと走り出す。


「アイリス」


 ゼンの声に振り返る。


「お前は――――――――」









***

「ゼンってさ、アイリスちゃんに甘いというか何か絶対的な信頼があるよね」


 アイリスたちが教室から飛び出し、ゼンは黒板の文字を消し、アランは暇を持て余している。


「一度手合わせすれば相手の人となりが分かる。アイリスは完全な善人であり、信頼に足りるだろう」

「確かに良い子だけど、あからさまに目にかけてるよね。今まで他にも手合わせしている人がいるはずなのに、あの子だけは心を配ってる」

「そうか?」


 ゼンの言葉には裏表なく、本当に疑問に思っている声だ。


「うん。それはすごく良いことだよ。個人的にはこれがどう変化するのか観察したいけど……さて、ゼンは勝てるかな?」

「は?」


 アランはまだ色々分かっていないゼンを見てから上を向くのだった。

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