アイリスのドタバタ減量大作戦1
「減量したいと思います!」
アイリスは拳をぎゅっと握りこみ、宣言する。
「は?」
アイリスの言葉にルイは訝しげな視線を送る。
「アンタ何言ってんの」
「減量! つまりはダイエットです!」
「それはもう分かってる……」
ルイは呆れた目でアイリスを見る。
「そもそもアンタにダイエットなんて必要?」
「勿論です!」
アイリスはアルストレスタでフリードに抱えられた時に言われた「人間の、生きている重量がする」という言葉を気にしてダイエット作戦を決行しようとしていたのだった。
しかしそんなことは当たり前に人には言えない。
「それに戦闘時は身軽な方が動きやすいので」
戦闘するにあたってスピードはアイリスにとって重要な生命線であり、それを可能にしている要因の一つは身軽さだ。
また、相手からの攻撃を回避する時も身軽の方が回避しやすい。
「まあ確かにそれはアンタの取り柄かもしれないけど」
「と、いうことで減量です!」
握り拳を作り、決意を固めるアイリス。
そんな時、オーウェンがラウンジに入ってくる。
「アイリスなんか張り切ってるな! どうしたんだ?」
オーウェンが興味津々に聞いてきたので、アイリスはこれから始める減量計画を話した。
「まずは食事を抜くところから……」
「だ、駄目だ駄目だ!」
オーウェンは焦った様子でアイリスに詰め寄る。
「いいかアイリス! 今の体格で飯を抜いたりなんてしたら本当に皮膚と骨だけになっちまう!」
「え?」
いきなり傍に手を回され、視界が突如高くなる。
「こんな簡単に持ち上がるほど痩せているのに!」
「っ!」
「……何をやっているのですか」
視線と声が聞こえた先を見ると、どうやら買い出しから帰って来たユーリとフリードがいた。
手には袋を抱えている。
そしてユーリはとても呆れた目をしていた。
「何って……」
アイリスは抱えられたままオーウェンを見る。
オーウェンも静かにアイリスと視線を交わした後、同時にユーリへ視線を向ける。
「「高い高い?」」
アイリスとオーウェンの声が重なる。
「いい歳して一体何をしているのですか」
ユーリは眉間に深い皺を作る。
「それで? これはどういった状況ですか?」
ユーリはアイリスへ質問する。
「実は……」
アイリスは減量作戦のことをユーリたちへ説明する。
説明をすればするほどユーリの表情が真顔から呆れた表情になっていく。
ユーリは一度ルイに目を向けたが、ルイは黙って首を横に振り、ユーリはため息を吐いた。
「……………………なるほど。状況は理解しました」
「なので減量です! 思えば山にいた頃より腕とかがふっくらしたような……?」
「それは幻覚だぞアイリス! そもそもアイリスはこっちが心配になるくらい肉がついていないじゃないか!」
オーウェンが間髪入れずに否定をする。しかしアイリスはあまり納得していなかった。
「ユーリさんのごはんが美味しいから山にいた頃よりつい多く食べてしまったことが原因でしょうか……」
「…………」
ユーリはアイリスの言葉を聞いて固まってしまう。
「あー。ユーリ。嬉しいのは分かるが固まっているぞ」
「はっ!」
今まで静かに状況を見守っていたフリードが固まって動かなくなっていたユーリに話しかけると、ユーリは我に返るのだった。
「……嬉しい?」
アイリスは首を傾げる。
「そりゃあ自分の作った料理に美味しいって言われたら嬉しいでしょ」
少し後ろにいたルイの言葉にアイリスは「そうなのですね」と頷いた。
「でもやっぱりふっくらしたのはよくないですよね……」
「だから全然太ってないって! おいルイ! 部屋へ逃げんな!」
そそくさと部屋へ帰ろうとしたルイをオーウェンは止める。
「そもそもルイ! お前もだ! アイリスと同様にお前ももっと食った方がいいんだからな!」
「は?」
「だから! アイリスもだが、お前ももっと食った方がいいって言ったんだ! そんなひょろっちいとこっちが心配になる」
「…………」
ルイは言い返さないが、オーウェンに向ける目は明らかに怒りの色を含んでいる。
「お、おいルイ! 聞いてんのか!」
人をも殺せそうな視線にオーウェンはたじろぎながらも、なぜかルイを問い詰めている。
「オーウェンさんに俺の何が分かるんですか」
いつもより低いルイの声が部屋に響く。
「そりゃあ同じ寮で過ごしているんだから、ちっとはお前のこと分かるさ! 俺が言いたいのは」
ここから事態は混沌と化すことになる。
オーウェンとルイの言い合いが始まってしまったのだ。
「ちょっと二人とも落ち着いてください」
ユーリは慌てて仲裁に入るが、当の二人の言い合いは激しさを増していく。このままでは魔法も飛び交うかもしれない。
(どうしてこんなことに)
アイリスは目の前の混沌に戸惑うばかりだ。
アイリスは自身の減量作戦を話していただけなのに気がついたら喧嘩が始まってしまったからだ。
(あまりここにいたくないな……それに何となくここから離れた方が良い気がする)
喧嘩はユーリが仲裁に入っているので恐らくすぐ終わると信じるにしてもきっかけは自分だとアイリスは考えているので、距離を取ろうと考える。
ちなみにアイリスも仲裁に入ろうとは考えたが上手に仲裁できる自信がなかった。
アイリスの隣にフリードが立つ。
「それで? これ、どうするんだ?」
「う……」
戦略的撤退という名の敵前逃亡に走ろうとしたアイリスは言葉を詰まらせる。
でもこんな状態で逃亡するのもどうかと思ったアイリスは少し考え、目的を持って足を動かすのだった。
アイリスは目当てのものを準備してからラウンジへ戻る。
手元から出ている良い香りにアイリスは頬を緩ませる。
フリードを除いて最初にアイリスへ目を向けたのは仲裁しているユーリだった。
ユーリがこちらへ目を向けたので、アイリスはそそくさと準備した物を手に持って駆け寄る。
「ユーリさん。良ければこちらを」
「それは……お茶……ですか? とても良い香りがしますね」
「はい。貰い物の茶葉なのですが、とても癒されますよね」
ユーリと話していると声に気づいたのかお茶からの香りに気がついたのかオーウェンとルイもアイリスを見る。
そしてその視線を察知したアイリスは颯爽と二人にもお茶を渡す。
(さすがエレナさんからのお茶。これで皆落ち着いてくれれば)
アイリスは最後にフリードのもとへ駆け寄る。
「はい、フリードも。それじゃあ!」
アイリスはオーウェンたちにバレないように寮のラウンジから足早に退出するのだった。
「アイリス、こちらの茶葉はどなたからの貰い物ですか?……って、いませんね」
「逃げたな」
先ほどの喧騒から打って変わって全員がお茶で落ち着きを取り戻した中、アイリスがいない事を認識する。
ルイは恨めがましそうだが、ユーリは苦笑いをした。
「あんな空間にいたくはないでしょう」
「きっかけはあの子なのに」
「きっかけ……そういえばアイリスは何故急に減量と言い出したのですか?」
「俺が知るわけないじゃないですか」
ルイは機嫌悪そうにそっぽを向く。
次にユーリはオーウェンを見るが、オーウェンも首を傾げている。
「それ、多分俺だ」
今まで静観していたフリードが苦笑いで白状する。
「フリードがですか!?」
「余計な事を言った……かもしれない。って、何でそんなに驚いているんだ?」
フリードの言う通りユーリはとても驚いていた。
「いえ……貴方がアイリス相手にそんな事を……というか減量を仄めかすきっかけを言ったことに驚きで……」
「…………そういう意味で言ったんじゃないんだがな」
「フリード?」
「いや……」
フリードはアイリスが飛び出したドアを見る。
「それでフリードさん! アイリスどうするんですか! このまま飯を抜いたりなんてしたら本当に骨と皮だけに……!」
「それは言い過ぎですオーウェンさん。でもアイリスって頑固なところがありますからね」
オーウェンは当然だが、ルイもアイリスの減量計画には反対の様子だ。
「そうなんだよな……そこで、俺に考えがあるんだが」
***
突然寮から飛び出したので、特に目的地もなく足を動かすアイリス。
(図書館にでも行こうかな)
広い図書館にはアイリスの知らない知識が沢山ある。
時間があるならそれを読み耽るのも良いかも知れないとアイリスは考える。
こうしてアイリスは図書館へ行こうと方向転換する。
「アイリス」
右側から声をかけられ振り向けば、ゼンがいた。
「こんにちは」
「ああ。……こんな時間に何故校舎にいる」
確かにもう夕食の時間だ。各々寮へ帰っており、生徒がいない時間だ。
「その……実は」
アイリスは自分がこれから行う作戦と寮での惨事を口にする。
ゼンはユーリ同様真顔で聞いていたが、どんどん顔を顰めていくのだった。
「ちょっと来い」
「え……? は、はい!」
アイリスは先に歩き出したゼンを追いかけるように走り出した。
番外編「アイリスのドタバタ減量大作戦」は全4話となります。
1話か2話で終わらせるつもりだったのに、楽しくてつい少々長くなってしまいました……!
ちなみに発端は「79 ゾンビの行進」の出来事となります。




