88 花言葉
「ねえ。フリードさん知らない?」
アイリスたちが任務を終え、学園に帰る日。各々が準備をする中アイリスは試験の為に勉強をしていた。元々荷物も多くない為整理や準備もすぐ終わり、やることがなくなったのだ。
ルイに話しかけられ、アイリスは首を横に振る。
「ユーリさんが探していたんだけど……はあ、面倒くさい」
「では私がさが「アイリス」ユーリさん?」
部屋に入ってきたのはユーリ。
「貴女にお客様ですよ」
「?」
誰だろうと首を傾げると、ユーリの後ろからひょっこり顔を出した女の子がいた。
「ソフィアさん!」
「お姉ちゃん!」
パタパタとアイリスに駆け寄るソフィア。
「お姉ちゃん、今日帰っちゃうって……聞いて……」
「ソフィアさん……」
「お姉ちゃん、本当に帰っちゃうの? 寂しい……」
ソフィアは目に涙をためている。そしてアイリスも寂しさを覚えていた。それはモニカと別れた時と同じような感覚だった。
「帰っちゃいますけど……大丈夫です。また会えばいいのです」
「!」
「また私と会ってくれますか?」
「うん……うん!」
ソフィアはアイリスに笑顔を向ける。そしてアイリスも安心するのだった。
「お姉ちゃん……私、お姉ちゃんに聞きたいことがあるの」
「なんですか?」
「将来お姉ちゃんみたいな魔法師になりたいの。どうやったらなれるのかな」
「……え?」
予想にもしていなかったことを突然聞かれてアイリスは驚く。ソフィアはいたって真剣だ。ユーリとルイも目を見開いて驚いていた。
アイリスはどう答えるべきか困惑する。そもそも自分が世間から見て手本になれる魔法師だと欠片も思っていなかったからだ。
「もしかして……人狼は魔法師にはなれない?」
困惑して沈黙してしまったアイリスを見てソフィアは不安になる。
「そんなことないですよ。でも……そうですね。『私みたい』は置いておいても、魔法を真剣に学びたいと思っているのなら……ユーリさん。学園って種族差別はないですよね」
図書館でギルバートと話したことをアイリスは思い出す。確か種族間の差別はなかったはずだ。ユーリも頷いて肯定した。
「もし本当に魔法を学びたければ王立魔法学園に来ることも将来の選択肢の一つになるかもしれませんね。種族間の差別はないので」
アイリスの言葉にソフィアは目を輝かせる。
「分かった。私、王立魔法学園に入学する! それで魔法で誰かを助けてお姉ちゃんみたいな強くて優しい魔法師になる!」
「助け……優しい……? 私がですか? 痛っ!」
ソフィアの言葉に目を瞬かせていると、頭上に軽い衝撃と痛みを感じた。どうやらルイに手刀を入れられたらしい。
「ルイ君!?」
「……」
ぷいと視線を外すルイ。どこか不満げな様子だ。
「ルイ。いじけてはいけませんよ」
「…………」
ユーリは苦笑いをしながらアイリスを見る。
「まあ、ルイの気持ちも分かります。アイリス。今回は貴女がいたからこそ最善の結果になったと私は思っています。どうやら自己評価が低いようですが、もっと自分を高く評価……そうですね……貴女の場合は、もっと自分を認めていいと思いますよ」
(自分を……認める……?)
アイリスは少し困る。そんな中服の裾を引っ張られ、視線を向ける。どうやらソフィアに引っ張られたようだ。そしてソフィアの瞳にはアイリスに対する尊敬が浮かんでいる。アイリスは少しのくすぐったさを感じる。
アイリスはしゃがんでソフィアと視線を合わせる。
「では……待っています。ソフィアさん」
「うん!」
それからソフィアと別れを済ませ、ソフィアを家まで送ろうとしたが、疑いの晴れたサイラスがソフィアを迎えに来て一緒に帰っていった。
まだ人狼を怖がる人々もいるが、これからはこの町で親子仲良く暮らすことになるのだった。
***
「見つけた!」
パタパタと走ってくるアイリスの声や音に気づいたらしく、寝そべっていたフリードは目を開ける。
「こんなところにいたんだね」
駆け寄ったアイリスは寝そべっていたフリードを少し心配そうに上から見下ろす。そして隣に腰かけたのだった。そして口調は砕けた状態だ。
ここは鉱山の近くにある森の中。目の前には穏やかに澄んだ水が流れる川がある。あれからソフィアを見送ったアイリスはフリードを探していたのだった。
「魔力は完全に消していたはずだったが……君の感知能力には敵わないな」
「え? 私感知なんて使っていないけど……」
「……………………」
「私はただフリードの行きそうな場所を探しただけであって…………はっ!」
「ん?」
アイリスは大変なことに気が付く。
(なんか私の今の言葉……私の方が付きまといみたいじゃない? 下手したら通報される?)
「アイリス?」
「え? ああああああ! ごめんなさいフリード! なんですか?」
「なんですかって……君が俺に用があって探していたんじゃなかったのか?」
「はっ!」
一人で色々なことを考えて焦っていたことに気が付き、ゆっくりと深呼吸した。
「……渡したいものがあって」
「渡したいもの?」
アイリスは両手で背に隠していた物を出して立ち上がり、ふわっとフリードの頭に落とす。
優しい香りがフリードを包む。
「これは……」
「花冠です。以前ソフィアさんに連れて行ってもらったところにたくさんお花があって……勿論ちゃんと許可はを取って摘んだよ」
「…………」
「フリード、帰ってきてから元気がなかったから……だから綺麗なお花を見れば癒されるかなと」
「………………」
静かなフリードの様子にアイリスは段々不安を覚える。
「あの! この何輪かある黒い花、これはここにしかないイベルキアスという花みたいで……花言葉がフリードにぴったりで!」
「どんな?」
「えっと……隠れた優しさ、信じる心、それと……あ」
アイリスは慌てて口元に手を当てる。
「それと?」
フリードは先を促す。
「いえ、あの……その……」
フリードは静かにアイリスを見る。
アイリスの顔色がみるみる青くなっていく。
「それと?」
もう一度フリードが促す。甘く優しく、それでいて逃げられないような声音だ。
アイリスは顔をそむける。
「変人」
「……………………」
「ご、ごめんなさい! 静かにならないで! でもぴったりだと……はっ! いや、その! そもそも男の人に花冠って嬉しくないのかな……それでも綺麗な花を見れば落ち着くかなって! だから……その……」
「……………………ははっ」
フリードはもうこらえきれないといった様子で笑う。
(あ)
アイリスはお腹を抱えて笑うフリードを見る。
(フリードってこんな感じで自然に笑うんだ)
その笑顔は作られていない。素のものだということが分かる。
(そっか。私はフリードに笑っていてほしいんだ)
あの時、フリードがヴィットーリオの命を奪おうとした際、アイリスは必死に止めた。
ただ止めないといけない、と思ったものと他に何か理由がある気がした。その理由を今、はっきりと自覚したのだった。




