表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

89/92

87 背負い投げで天下統一

「なるほど。魔法耐性があるんだったな。加減が仇になったな」


 霊山の魔力。それはアイリスに魔法耐性をつける効果もある。実際秘匿魔法もこの魔力のせいで弊害がでてしまったのだ。アイリスはフリードから離れて自分の足で立つ。


(頭がグルグルする……辛うじて意識は保てるけど今にも意識が飛びそう……でもここで気を失ったらきっと後悔する)

「あのね、フリード。あなたは私を守ろうとしてくれているんだよね」


 アイリスの口調は普段の敬語ではなく、砕けたものになっている。敬語で話す余力がないのだ。

 アイリスは靄がかかった意識の中で、フリードとヴィットーリオの話の断片を何とか拾っていたのだった。


「私を守るためにあなたが悪役になる必要はないの」

「…………」

「きっと今までもあなたは誰かを守るために相手を傷つけていた。エレナさんから聞いたよ。任務先の犯罪者が無傷ではなく大けがしていたり、魔法で精神が壊されていたって」


 それは初めての任務出発時、エレナがアイリスを追いかけてまでも教えてくれたことだ。それはフリードが平気で人を傷つけたり人の精神に干渉する闇魔法を使うということだ。傍にいればいつかアイリスも傷つけられるのではないかというエレナの心配もあったのだろう。

 

「それがどうしたっていうんだ? 何よりこの男は俺の邪魔をしようとしたんだ。ここで君を失うわけにはいかない」


 それはアイリスがフリードの目的においての駒だということをアイリスは思い出す。


(なんだろう……この感じ)


 アイリスはチクリと胸に痛みを感じるが、今はそれどころではない。

 

「人間は簡単には変わらない。この男はまた繰り返すだろう。君を傷つけることもあるかもしれないし、他の人間を傷つける可能性だってある」

「そうかもしれない。だとしても! たとえ正当な理由があったとしても貴方が率先して手を汚す必要はないの」


 アイリスは真っ直ぐフリードを見つめる。


(きっとユーリさんたちはフリードのこのこと、知っていたんだ。知っていてなお知らないふりをしている。それは…………怖いからだ)


 いつものフリードと違い、殺気や冷酷さが滲み出ている。それでいて闇属性の魔力の持ち主であり、底知れない何かを感じる。


(それでも……私はここで止めたい。…………フリードのこの目、私は知っているから)


 フリードは何もかもを諦めたような目をしている。それは昔からアイリスの夢に出てきた時と同じような目だった。


(だからこそ……絶対止めて見せる)



「フリード、覚えてる? 貴方が最初に私へ闇魔法を見せた時怖いかどうか聞いたよね」


 それは初めてクレア村で出会って山賊と対峙した時のことだ。その時アイリスは恐怖という感情が分からず使い方次第だとフリードに言ったのだ。


「あの時の答えに付け足すね。……貴方の魔法は誰かを守る優しい魔法だということを知ったよ。だから怖くない」

「…………」


 アイリスは思い出す。フリードはいつも誰かのために魔法を使っていたことを。

 今だってアイリスを守る為だ。


「貴方の優しい魔法で、人を傷つける必要はないの」


 アイリスはまっすぐフリードの目を見る。


「……俺の魔法を優しい魔法だと言うのは君ぐらいだな」

「フリード…………」

「だが、君が見ている俺は俺の一端でしかない。俺はもっと残酷で冷酷だ。目的の為なら、君をも駒とするのだから」

「だとしても、私は自分が見ているあなたを信じたい。……………………信じているの」

「……………………」

「フリードは頭も良くて魔法もできてひとりでなんでもできるかもしれない。でも……ひとりは寂しいよ」


 フリードは仲間に何も言わずにアイリスを傷つけようとしていた男を処理しようとしていた。フリードは簡単に人は変わらないと言っていた。だからこそ犯罪者に対して強硬な手段をとってきたのかもしれない。誰にも言わず、突き放してでもアイリスや他の人たちを守ろうとしたのだろう。


 それにフリードの魔法の性質からして、孤独になることも多かったのかもしれない。しかし今のアイリスはひとりぼっちで孤独の寂しさを知っている。

 昔のアイリスは、ひとりの時に寂しいという自覚はなかった。それ以外は知らないのだから、寂しいなんて考えもつかない。ただ、ひとりを受け入れるだけ。


 しかし今は一緒にいてくれる人も友達もいる。どれだけ孤独が寂しいものかアイリスは身に染みて分かっているのだ。


「それに、貴方は私のそばにいてくれるんでしょう?」

「…………」

「一緒にいよう? フリード。ひとりでいるより一緒の方が楽しいよ」

「……っ」


 フリードは驚いているのか目を大きく開いている。

 アイリスは両手でフリードの手を取る。

 

「ねえ、フリード。私は貴方をひとりになんてさせてあげないから」

「……………………!」

「それでも手を汚すことを厭わないのなら……あなたの代わりに私がやる」


 フリードから手を離し、ヴィットーリオへ近寄るアイリス。


「重荷を一人で背負わせたりなんて、させてあげない」


 アイリスは手をヴィットーリオの方向へ向けて魔力を解放する。


「やめてくれ!」

「ごめんなさい。貴方のことは私が一生背負って生きるから」


 アイリスのキラキラとした魔力の輝きが部屋を包む。


「待て」


 低い声と共にヴィットーリオに向けられた手が大きな手に包まれる。


「はあ…………俺の負けだ」


 フリードは大きなため息をつく。

 

「え?」

「君が手を汚すことはない。君が俺に言ったこと、ちゃんと分かったから」


 アイリスはフリードに手を汚してほしいと思っていない。フリードも同じようにアイリスに手を汚してほしくないと思ったようだ。


「それに……詰んだからな」

「え?」

「今ここで君を封じてこの男に手をかけてもいいが、君が気にするだろう」

「………………え?………………は、はい! それはもうしっかりと!」


 フリードの諦めた理由が想定外な理由で驚いたアイリスは、一瞬硬直するが我に返り首を縦にブンブン振って肯定したのだった。


「だから詰みだ。…………俺の負けだよ」

「フリード……」


 眉を寄せ、困ったような顔をするフリードにアイリスは安心する。もう殺気は感じない。


「人間は簡単には変わらないってフリード言ったよね。もし……万が一今回みたいなことが今後起きて、フリードが誰かを守るためにひとりで相手を傷つけるなら、必ず止めて見せる」

「……」

「だから隠そうとしても無駄なんだからね」

「それは……手強いな」

「えへへ」


 アイリスは笑う。

 そんな中ヴィットーリオはじっと二人を見る。そしてゆっくりと体勢を立て直していた。


(今しかない)


 ヴィットーリオは自分の眼鏡のテンプルに手を添える。


(ここから逃げる。その為に)


 ヴィットーリオはテンプルを捩じると細い刃先が出てくる。眼鏡に仕込んでいたのだ。

 そしてアイリスたちに気づかれていないことを確認するとそれを持ってアイリスに突進する。


「アイリス!」

「!」


 フリードが魔法で確実にヴィットーリオの命を奪おうとする。

 そんなフリードをアイリスは無理やり押しやって前に出る。

 そして思いっきりヴィットーリオを掴んで背負い投げをした。


「ぐはっ」


 ヴィットーリオは地面に打ち付けられる。


「ふう」


 パンパンと手を叩く。


「一丁上がりです! こう見えて私、そんなに柔じゃないんです。Cランクであっても、たとえ魔法が無くても簡単には傷つきません」


 倒れているヴィットーリオに向けて言ったが、同時にフリードにも伝えたかったことだ。


「何より、貴方は自分の犯した罪からは逃げられません。絶対に。………………あれ? …………ヴィットーリオさん?」


 先ほどからピクリとも動かないヴィットーリオ。アイリスはサーっと顔から血の気が失せていく。


「ええええええ! まさか打ち所が悪くて!?」


 アイリスが慌てて倒れているヴィットーリオの状態を確認する為しゃがもうとするが、どこか抑えたような笑い声と共にアイリスの手は後ろへ引っ張られる。


「ははっ。大丈夫だ。よく見て。気絶しているだけだ」


 アイリスはヴィットーリオを見る。胸は上下に動き、フリードの言う通り気絶しているだけだった。


「よかった……」

「さて、この男は放置してこのまま帰ろうか」

「え?」


 急に話題が変わり、目を瞬かせる。


「アイリスのの食事の方が、この男より大切だからな」

「フリード……」

「まあ、食事はもう少し先になりそうだが」

「え?」


 フリードはドアに視線を向ける。するとドアからユーリたちが出てきた。


「え? ユーリさん、オーウェンさん、ルイ君?」

「怪我はないか!?」


 オーウェンは駆け寄り肩をゆする。アイリスは目が回らないうちに全力で肯定した。


「貴女は大した人ですね。アイリス」

「一種の無謀とも言いますけど」

「ユーリさん……ルイ君」


 三人とも安心した顔をしている。どうやら飛び出したアイリスが心配で追いかけてきたようだった。

 その時だった。地の底を這うような音が響き渡る。全員がアイリスを見る。

 アイリスは顔を手で覆う。


「すみません……」


 アイリスのお腹が空腹の悲鳴をあげたのだ。


「こんなほぼ独房でお腹を鳴らす女って……」

「返す言葉もございません」


 引いた様子のルイと言い返せないアイリス。


「まあまあ。アイリスはまだ今日何も食べていでしょう? 無理はありません」


 確かに起きてから何も食べていない。ユーリたちから話を聞いてすぐに飛び出したからだ。


「簡単なスープでよければすぐに作りますよ」

「すみません……ユーリさん」


 全員がドアに向かって歩き出す。フリードはそんな四人を見る。


「フリード」


 アイリスが後ろを振り返る。


「帰ろう」


 フリードは静かに目を閉じる。


「アイリスを守る為にここへ来たのに、結局守られたは俺の方か」


 フリードが小さく言葉を紡ぐ。


「本当に……アイリスには敵わないな…………」


 フリードも歩き出すのだった。




 

 こうして、アイリスの初めての任務は無事終わることになる。

 その後は王都からの人員で町の復興が行われ、他の不正も洗い出されることとなる。

 原初の樹は魔法師団により厳重な封印魔法が施されることになった。

 そして今回の実行犯ヴィットーリオはすべての罪を洗い出した後重罪と判断され、重い刑が執行されることとなるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ