84 暗躍
薄暗い光しかなく、重厚な扉で外から完全に隔離された部屋にヴィットーリオは拘束されていた。
「すべてはあの魔法師たちが来たからこんなことになったんだ。今までみたいに適当にご機嫌取りをして帰ってもらう予定だったのに……呪いが無力化されたことと、サイラスに張った結界が破られたことから全ては狂い始めたんだ」
ヴィットーリオはぐしゃぐしゃと自分の頭を掻きむしる。
「あの女……あの女は絶対に無傷で帰さない。絶対に。……それにあの髪色なら、高値で売れるだろう。幸い顔も整っている」
ヴィットーリオは狂ったように笑い始める。
「それでも抵抗するなら」
「抵抗するなら?」
ヴィットーリオはアイリスを陥れようと頭を回転させていたが、突如聞こえた声にはっとして視界を上げる。
重厚な扉がゆっくりと開く。
「抵抗するなら? 話の続き、教えてくださいよ」
「貴様……」
仄暗い笑みを浮かべるフリードが部屋に入ってくる。
「今の面白い話の続き聞かせてくださいよ」
「……………………」
ヴィットーリオはフリードを警戒する。
「聞かせてくれないんですか? 興味あったのに。何せ…………彼女に何か用だとか」
「ひいいいい!」
フリードはゆっくり近づく。ヴィットーリオは怯える。そもそも怯えることしかできない。
「そんなに怯えなくていいのに。ただ、彼女に危険が降りかかろうとするのを黙って見過ごすわけにはいかないな」
「っ!」
「所詮犯罪者は犯罪者で、悪党は悪党。お前が生きているだけで彼女が、他の連中が苦しむことになるということが証明された」
フリードは座り込んでいるヴィットーリオの胸ぐらを掴んで立ち上がらせる。首もしまっているようで、ヴィットーリオはくぐもった声をあげ、恐怖と苦しさで顔を歪める。
「本当は彼女の意思を汲むつもりだったけど仕方がない。これ以上傷つけさせるわけにはいかないからな」
フリードは手の力を強める。
「さて、殺す前にまだ解決していない旅人の件、知っていることを洗いざらい吐いてもらおうか」
ヴィットーリオの解呪後アイリスが旅人の話をいくら聞いても「知らない」「分からない」の一点張りで話が進まなかったのだ。
「何も知らないということはないだろう。例えば……原初の樹の封印を解いた旅人は誰だ?」
「っ………………」
「なるほど。自主的に話すのではなく、俺に魔法を使わせたいか」
「んぐ……ぐ」
ヴィットーリオは首が締まっている為上手に言葉を紡げない。それに気がついたフリードは無表情で手の力を抜く。ヴィットーリオは地面へ倒れこみ、咳き込む。
「さて、これで話せるだろう。それとも」
フリードはヴィットーリオに手を近づける。ただ近づけているだけだったが、ヴィットーリオには相当な恐怖なようで顔色を悪くして怯える。
「ひいいい! ほ、本当に知らないんだ! 旅人はただ魔法が使える魔法師で! 本当にふらりと立ち寄った様子なだけだった! ただあいつが原初の樹の封印を解いたのは事実だ! それも、あっという間に」
「へえ」
「原初の樹が封印された場所から変な気配がするからって……町に何か起こる前に把握した方がいいって言ってて……でもあんな簡単に封印が解けるなんて思っていなかったんだ!」
この様子では実際犯罪を犯していたのはヴィットーリオでも、きっかけはその旅人が与えたということだ。
それでいてヴィットーリオの話からは、旅人は相当強い魔法師ということが分かる。
「それで?」
フリードが先を促す。ヴィットーリオは慌てて言葉を紡ぐ。
「他に結界魔法を教わったんだ!」
サイラスの小屋の付近にかけられていたサイラスの血のみに反応する結界魔法は、どうやらその旅人に教えられたらしい。
「で?」
「もう他には知らない! 本当なんだ」
「……………………」
ヴィットーリオの様子からして本当にもう知っていることはないのだろう。
「さて、聞くべきことは聞いたしもうお前に用はないかな」
「ま、待ってくれ! 助けてくれ!」
「助ける? どうやら錯乱しているようだな。俺が助けるわけないだろう」
「ひい!」
「まあ、俺もきっとお前が行くような地獄に行くだろうから、気長に待っていろよ」
フリードはヴィットーリオの首に手をかける。
「あ。でもアイリスはお前が楽に死ぬことを願っていない。だったら俺の魔法を使おうか」
「へ?」
「俺の魔法は闇属性。人の精神に干渉する。ただ心を壊すだけではない。……心が壊れる寸前、絶望の最中に留めてやろう」
フリードはヴィットーリオの首に少しずつ力を込めながら魔力をゆっくり流し込む。
「いやだ……いやだ……やめてくれ!」
ヴィットーリオの悲痛な叫び声と同時に重いドアが音をたてて勢いよく開く。
「あ! やっと見つけたフリード! 探したんですよ!」
明るい声と共にアイリスが汗臭い部屋に入ってくる。
「もうすぐご飯の時間なので帰りましょう?」
「………………………………」




