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75 呼ぶ声

「そういえばアイリス。魔法が使えなかったとしても、君のことだからもう少し早く何らかの手段で合図を出すと思ったが」

「う……少しだけ熟睡してしまったようで……」


 じーっとこちらを見るフリードから目をそらす。

 

「合図?」


 サイラスが首をかしげる。


「はい。先ほどサイラスさんに言った通り、私はわざと捕まったんです。飲み物に薬が入っていたのはバレットが調べてくれて分かっていましたし、私はこの髪色ですからターゲットとなる可能性は高い。それなら利用しようと思ったのです。薬の入った飲み物は服の袖に流してわざと眠ったふりをして捕まったんです」

「………………」


 サイラスはどこか呆れた顔でアイリスを見る。

 

(眠ったふりをした後、荷台か何かで運ばれている最中うっかり眠ってしまったことは言えない……)


 アイリスは視線を逸らしながらも改めてサイラスに向き直る。

 

「もともと地下道が怪しいとフリードが調べていて分かっていました。……地下道なら私が適任です」

「どういうことだ?」

「地下道なら空気の流れがあります。私の風魔法とフリードの感知能力で、すぐに合図を出して合流する手はずだったんです。まさか魔封石に覆われた地下道だなんて思ってもいませんでしたけど」


 魔封石は想定外だった。そもそも合流手段を魔法だけに頼ったことがよくなかった。第二、第三の手段も考えておくべきだったとアイリスは反省する。


「それに問題があります。ヴィットーリオさんのことです。大丈夫だといいのですが……」


 アイリスは屋敷での悲鳴を思い出し、その時のことをサイラスたちに共有する。

 ヴィットーリオを探すことや無事も確かめなければならない。


「つまりヴィットーリオも被害者だが、黒幕はヴィットーリオ傘下の奴の可能性が高い……と」

「はい」


 飲み物はヴィットーリオの屋敷のメイドから出されたものだ。おそらく黒幕と通じている誰かがいる。


『…………き………………る?』

「え?」


 突然聞こえた声にアイリスはキョロキョロと周りを見渡す。


「アイリス、どうかしたか」

「あの……声が……」

「声?」


 フリードは周りを警戒しながら見る。


『お願………………聞こえ……る?』

「…………! 聞こえます!」


 明らかに聞こえたのは女性の声。


「お姉ちゃん?」


 ソフィアとサイラスも心配そうにアイリスを見る。


(フリードたちには聞こえていない……?)


『こちらへ。そこにはもうすぐ追手が来ます』

「!」


 今度ははっきり聞こえる女性の声。

 

『早く!』

「は、はい!」


 聞こえてくる女性の声に返事をするアイリス。

 

「アイリス」


 フリードの落ち着いた声がアイリスを落ち着かせる。アイリスは深呼吸して話す。

 

「女の人の声が……聞こえて……」

「私には聞こえないけど……父さんは?」

「俺も聞こえない」


 ソフィアとサイラスは眉を寄せる。

 

「人狼の耳でも聞こえない……となると、魔法的な何か。アイリスの様子からして秘匿魔法というわけでもないだろう?」


 アイリスは頷く。秘匿魔法は頭に直接声が聞こえる。しかし今回は普通に耳から音が聞こえる。


「もうすぐ追っ手が来るそうです。そして女の人がこっちに来てって」

「……………………」

「お姉ちゃん……本当は変な薬でも飲まされたんじゃ……」


 ソフィアは心配そうにアイリスを見る。しかしそれも無理はない。実際薬入りの飲み物を提供されたからだ。


「だが、お嬢ちゃんの言うことは本当のようだ」


 サイラスが地面に膝をつけ、地面に手を当てる。追手が迫ってくる音だ。


『こちらです。早く』


 女性の声はアイリスを急かす。少し迷ったが、追っ手が迫る中進まなければならない。

 

「こっちです!」


 アイリスを先頭にどこからか聞こえる女性の声に従って走り出す。

 いくつかの道をどこからか聞こえる声に導かれながらひたすら走る。しばらく走ると明らかに壁の材質が違う道に出た。


「なんか……においがちがう」


 ソフィアが大きく息を吸う。


「確かにな」


 サイラスも同じように大きく息を吸う。そして材質が変わった壁に手をつこうとする。


「触らない方がいい」

「!」


 サイラスの手が壁へ触れる前にフリードが声をかける。ピタリとサイラスの手が止まる。


「それが身体にどう影響を及ぼすかわからない」

「!」


 フリードの言い方だと壁の材質が何か分かっているような言い方だ。

 フリードは無言でアイリスを見る。アイリスは止まってはいるが前を見据えている。

 目の前には大きな扉。そしてその扉へ手を伸ばす。


「開けます」


 全員が静かに頷くと同時に周りを警戒する。そしてゆっくりと扉を押すのだった。

 重厚な音と共にひんやりとした空気が流れてくる。そして目にしたものに全員驚愕するのだった。


「お姉ちゃん……これって……」


 ソフィアがアイリスの服の裾を掴む。


「はい……原初の樹」


 周りには様々な色をした魔鉱石が地面から生えている。そして一番目につくのは奥にある鉱石でできたような樹。図書館で調べて知ってはいたが実物は想像よりずっと美しかった。

 空中にはキラキラと魔力の粒子が浮遊しており、とても神秘的だ。


「入りましょう」


 ゆっくりと部屋に入る。突如突風が吹き、反射的に目を閉じてしまう。突風が止み、ゆっくり目を開けると目の前には女性がいた。


『初めまして。……ではありませんね』


 二十代あたりの年齢だろうか。長い髪を纏めている清楚な女性がいた。

 女性は笑みを浮かべてアイリスを見る。


『ようこそお越しくださりました。貴女を……皆様をお待ちしておりました』

「私たちをここに導いたのは貴女ですか?」

『はい。………………不躾なことは重々承知の上でございますが、お願いがあります』

(あれ……この人どこかで……)


 目の前の女性はとても真面目な表情をしている。


「ちょっと待てえええ!」

「父さんうるさい」


 サイラスが興奮した様子で目の前の女性を指差す。


「そこの人……足が透けているじゃないか!!」

「え?」


 ソフィアも目の前の女性の足元を見て表情を変える。どうやら目の前の女性の姿や声をフリードやサイラス、ソフィアは認識できるようだ。

 目の前の女性はそんな様子を見てクスリと笑う。


『うふふ。そんなに驚くことないわよ。だって私…………五年前に死んでいるんだもの』

「………………………………ぎゃああああ!!!!」


 サイラスの叫び声が響き渡るのだった。

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