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72 ドン引き

「で、君は先ほどから一体どこへ向かって走っているんだ」


 牢の外は地下道または洞窟のような場所だが、整備されており、道は遠くまで続いている。アイリスたちはその道を走って進んでいた。


「探しているんです。この『呪い』騒ぎの原因を」

「君は『呪い』の正体を知っているのか?」

「はい。ソフィアさんと一緒に…………っ!」


 前から来る気配に気が付き、慌てて足を止めるもここは一本道。隠れる場所なんてどこにもない。


「なんだ貴様ら! まさか逃亡者か!」


 兵士のような人たちが剣を抜く。


「お嬢ちゃん、下がっていろ」


 サイラスが前に出る。しかしアイリスがそれを止める。


「大丈夫です」


 アイリスが手を前に掲げる。しかしすぐに眉を寄せる。


「魔法が……………………使えない」

「なんだと!?」

「そりゃそうだ! この山の地下道は魔封石の壁でできている。抵抗は無駄だ」


 兵士が斬りかかろうと走ってくる。


「お嬢ちゃん!」


 サイラスの声が地下道に響く。


「とりあえず最低限の情報は引き出せた……かな?」


 魔法が使えないことは牢にいる時から分かっていた。しかし原因が分からなかった。その為わざわざ口に出して驚いた演技をしたのだ。そうすれば相手が口を滑らせて何かしらの情報を漏らすとアイリスは考えたのだった。そしてアイリスの目論見通り兵士たちは魔法を使えない原因を口にしてから、アイリスたちに襲い掛かった。

 アイリスは兵士たちの剣を避け、武器を素手で弾き、背負い投げをする。あっという間に三人の兵士は地面へ倒れることになった。


「ふう」


 パンパンと手をはたくアイリス。


(なるほど魔封石……)


 魔封石とはその名の通り魔法を封じる石だ。それでいて兵士の男たちからここが地下道であるという情報も入手した。


「もう俺は何も驚かないからな」

「?」


 サイラスは遠い目をする。あくまで学生でもある女性が訓練された男たちを倒したのだ。それでいて先ほどは縄から抜け出したり牢を鍵無しで開錠したりしており、サイラスが考える女性像とアイリスはかけ離れていた。しかしこの状況下でいちいち驚いてもいられない。


「そんなことより早く行きましょう。今の騒ぎで人が「こっちだ!」応援が来ますね……」


 近くから声がする。どうやら逃げたことがばれたらしい。


「一度出ましょう。この地下道の入り口さえ分かればもう一度侵入することができます」


 サイラスは悔しそうにしながらも頷く。見つかってしまった今、状況は明らかに不利だ。

 開けた道でもないことから、咄嗟に隠れられる場所があるとは限らないし、道も分からない。さらには魔法も使えないという状況。

 一度立て直した方がいいだろう。


「お嬢ちゃん、ついてきてくれ! 俺の鼻なら人がいない道を選びながら走れる! それに走りながら外への空気の流れがあれば出口まで分かるかもしれない!」


 人狼の嗅覚は人間の数倍。アイリスは頷き、走り出したのだった。



 ***


「ど、どどどどどどどどどどうしよう! やっぱりアイリス一人行かせるべきじゃなかったんじゃないですか!?」


 オーウェンが挙動不審になりながら歩き回る。


「確かに全然戻って来ませんね」


 ユーリも眉間にしわを寄せる。

 ヴィットーリオ邸に一人で行かせて、戻ってくるであろう時間になっても戻ってこないのだ。


「いつもの迷子じゃないですか?」


 ルイが遠くを見つめる。

 

「それならそれでいいのですが……」

「よくないですよ! こんな人が多い中一人迷子になったらあいつ……人から押しに押されて圧迫死……いや、この中に悪人がいて連れ去りとか……あああああああああ!」


 今はサイラスが捕まった為町全体で宴を行い盛り上がっている状況だ。人が多く合流も難しい。

 

「落ち着いてください、オーウェン。と、言いたいですが彼女のことですと、その可能性も無くはないですね。さらに彼女は本調子と言っていますが、本当にそうなのかもわかりませんし」

「ですよね!」


 アイリスの場合、攫われる可能性は低くない。それはアイリスの珍しい髪色をしているからだ。そしてアイリス本人もそれを自覚しており、何度も攫われたとアイリスは困ったように、だけれど深刻な空気にならないように明るく言っていた。だからこそ、アイリスが自身の髪を疎ましく思っていることをユーリも分かっていた。


 今まで無事だったのは、アイリスが自分の力で乗り越えてきたからだ。しかし今は本調子ではないとユーリは考えている為、有事の際満足に動くことができないのではないかと心配しているのだ。

 

「こんな時にフリードはどこへ行っているのやら……とりあえず一度ヴィットーリオさんの屋敷に行って彼女を迎えに行きましょう」

「ユーリさん」

「なんですか、ルイ」

「あれ」


 ルイが指さす。そこには『呪い』の原因となっている霧が迫っていた。


「やはりこうなりましたか……」


 ルイが気が付いたように他の人も霧に気が付く。そしてあたりは混乱の渦中となる。

 人を押してこちらにやってくる霧から逃げようとする人や混乱によって転んでしまう者もおり、騒然となる。


「はっ」


 ユーリが大きな結界を作る。


「なんだこの壁は…………出してくれ!」


 混乱の中、作った結界を内から叩く男性や泣き出す人たちも出てくる。


「落ち着いてください! 逃げるにしろ、この風向きと霧の速度からして足で逃げるのは不可能です! この中は安全ですので!」


 ユーリが広範囲の結界を生成しながら叫ぶ。


「おい、大丈夫だから落ち着け」


 オーウェンも町の人たちを落ち着かせようと走り回る。


「うわああああ! 霧が! もう駄目だ!」


 あっという間に霧が結界の外を包む。

 結界のおかげで霧が結界内に入ることはない。


「くっ……」


 しかし大きな結界を維持するのはかなり大変だ。ごっそりと魔力を使うことになるとともに、いつまでこの状態で耐えないといけないのか分からないという状況の中で精神力や集中力も相当消費する。


「ユーリさん! 結界が!」


 結界の端から霧に飲まれて光の粒子となって消えていく。


「ユーリさん……」

「大丈夫」


 ユーリは地面に片膝をつきながらも強く魔法を発動するのだった。


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