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70 立ち止まる暇なんてない

本日お昼頃に前話を更新しております!

よろしければ前話からどうぞ!

 翌日、アイリスたちは部屋に集まっていた。

 昨日ソフィアが図書館へ転がり込んできてから事態は一気に急変した。諸悪の根源と言われている人狼を捕まえたことで、人々は喜びの渦中へいることになる。

 しかし喜びとは正反対の空気がこの部屋を覆いつくしていた。


「まさか結界が解除されたことで、アルストレスタの人たちが人狼を捕まえに行くなんて思っていなかったな」


 オーウェンの言葉に誰も頷かない。自分たちは結界を解除する以外何もできなかった。最終的にこの町の人々が自分たちで解決する結果となったのだった。


(なんでサイラスさんは結界を張り直さなかったの? 魔法的には強力な結界だけど、難しい構築じゃない)


 アイリスはサイラスに結界を張り直すように伝えた。しかし実際サイラスは張り直さなかったのだ。


(私が解除したから……このままじゃ無実のサイラスさんが……でも、完全に白とは言い切れない)


 アイリスは下を向く。


(私のせいだ……私が解除してしまったから)

 

「アルストレスタの方々は私たちに感謝を示しておりますが、私たちはお役御免でしょう。明日には戻るよう学園から指令が来ています」


 今晩は感謝を伝える為宴をやるらしく、それに出席してほしいと言われていたのだった。


「俺たちが頑張って調べたりしていたのに……なんだかやるせないですね」


 オーウェンは窓から賑やかな外を見る。

 

「まあ確かにオーウェンさんの言い分も分かります。まあでも解決したならよかったんじゃないですか?」

「まあ……そうかもしれないけどさ」


 ルイの言う通り解決したならそれでいい。


「本当に……?」


 アイリスは小さな声で言う。


(だってまだみんな……赤黒い魔力が見える)


 アルストレスタに来てから見えるようになった魔力。それが消えていないのだ。


(それにソフィアさんのこともある)

 

 ソフィアは安全の為にアイリスたちが滞在している屋敷にいる。ただ、昨日の出来事がショックだったのか寝込んでしまっている。そんな中でもアルストレスタは喜びに包まれていた。呪いの根源はサイラスという人狼だとアルストレスタの人々は考えていたからだ。


(もし人狼のせいじゃなかったら……今度は)


「誰のせいにするんだろう」

「アイリス……?」


 唐突に口から出た言葉は隣にいたフリードに届いていたようだ。

 そもそも原因が人狼なんて証拠はあがっていない。なぜここにいるのか、どういう考えなのか動機的なものはこの前話した時に知ることができた。しかし物的または魔法的証拠はまだあがっていない。


(これは本当に……皆の喜ぶ最善……なの?)

 

 パンと両頬を叩く。


「あ、アイリス!?」

 

 オーウェンがアイリスの仕草に驚く。

 

(帰るまで時間はまだある。自分のせいだと落ち込む前にソフィアさんの為にも、サイラスさんの為にも出来ることをやらないと。絶対に諦めない!)


「私ちょっと出かけてきます!」

「アイリス?」

「宴までには戻りますので!」


 アイリスはラウンジを飛び出す。もう時間は残りわずかしか残っていない。


「さて、じゃあ俺も行こうかな」


 アイリスに続きフリードも立ち上がる。


「何をするつもりですか?」


 ユーリは訝しげだ。


「さあ」


 フリードは楽しそうにラウンジを出たのだった。



 

 ***


 夜になって、アイリスはお祭りのように祝宴ムードになっている。普段は興味を惹かれるのだが、今日はそんな気分にはなれない。


「行かないのか?」


 フリードがアイリスに聞くが、アイリスは表情をかたくする。


「こんな時に……」

「こんな時……だからこそだろう? 大丈夫。できることはやったさ」

「でも……」

「こういうの、興味あるだろう? それに、アイリスはいつも通り困難すら味方に変えて笑顔で乗り越えることができる。だから、ほら」


 フリードが手を差し伸べる。


「一緒に行こう」

「……はい!」


 アイリスは笑顔を浮かべてフリードの手を取り、走り出すのだった。







「うわあ! 屋台がいっぱい! すごいですね、フリード!」

「そうだな」


 周りにはたくさんの屋台と人の賑わい。そして鼻を掠める香ばしい香り。


「見たことのない料理がいっぱい……!」


 アイリスはフリードと手を繋ぎながら賑わっている宴の中に入っている。


「あ! フリード! 少し待ってもらってもいいですか?」


 アイリスはフリードから離れて一軒の屋台へ近づく。そしてお目当てのものを二つ購入し、フリードのもとへ戻る。


「これどうぞ! そば粉から作られた生地にハムやチーズ、それと卵が入っている隣国の食べ物を模したもののようです。フリード、甘いものは食べないですよね。これなら美味しく食べれるんじゃないかなと思って」

「……」


 フリードは目を瞬かせている。


「フリード?」

「甘いものを食べないって俺言ったことあったか?」

「ないですけど……そうですよね? せっかくですし私だけじゃなくて、フリードも楽しめたらいいなって思って」


 フリードは嬉しそうな笑みを浮かべるとアイリスから受け取ったものを口へ運んだ。


「うん。美味しい。さすが俺のアイリスだ」

「いや、私は貴方のじゃないので。それと、さすがなのは屋台の人なので」

「いいや? アイリスは俺の好むものを見つける天才だからな。せっかくアイリスが選んでくれたんだ。残りは魔法で永久保存しようかな」

「食べてください!!!!」


 その後も二人で色々なところを歩いて宴を楽しむ。


「わああ……!」


 アイリスは色々なところに目移りしながら歩いている。


「はしゃぐのは構わないが……」


 フリードがアイリスの肩を抱き寄せる。どうやら前から通行人が歩いて来ていてぶつかりそうだった為、助けてくれたようだった。


「あ、ありがとうございます……」

「いえいえ。やっぱり手を繋いでいた方が」

「あ! あっちの方からいい匂いが!」


 フリードに抱き寄せられたときフードが外れてしまっていた。しかしそれを気にも留めずフラフラと屋台の方へ吸い込まれていく。


「フリード! 見てください、これ!」


 アイリスの手に持っているのは串に刺さった果物のようなもの。


「これは果物……いや、果物に何か……飴のようなものでコーティングしてあるものだな」

「はい! 異国のお菓子のようです」

「あ! やっと見つけた! フリードさんとアイリス!」


 オーウェンたちが人ごみをかき分けてアイリスたちの方へやってくる。


「二人ともあれから姿が見えないから探してたんすよ」

「す、すみませ…………ルイ君? お顔が……どうかしたんですか? 調子が悪いとか……」


 ふとルイを見ると普段の三割増しで顰め面をしている。


「別に」


 短い言葉。しかしかなり不機嫌と言うことだけは分かる。


「ルイはこういう賑やかなところ好きじゃないだけなんですよ」

「なるほど……」


 ユーリの説明でアイリスは頷く。確かに人の多いところが苦手な人はいるだろう。

 様々な人の声、屋台の匂い、様々なものが混ざり合っているような場所だ。静かとは程遠い。


「あ、皆さん。こちらにおられましたか」


 笑顔でやってくるのはヴィットーリオ。


「あなた方が人狼の結界を破っていただけたから町は平和になったんです。本当になんて感謝すればいいか……短い時間ですがぜひ楽しんでいただければ幸いでございます」


 ヴィットーリオの言葉にユーリは「ありがとうございます」と頭を下げた。


「そういえばそこのお嬢さん」


 ヴィットーリオがアイリスを見る。


「このアルストレスタでは魔鉱石の事業の他にも装飾品や服飾も盛んなのです。ぜひアルストレスタのお洋服を着ていただけないでしょうか。きっとお似合いになりますよ」

「は、はあ……」


 どうしようかアイリスは迷ってしまう。正直に言えばあまり興味はあまりなかったが、異なる文化を知ることはいいかもしれないと思う。


「ま、ままままままさか! その衣装っていうのはあそこで踊っている姉ちゃんみたいなむ、胸元とかが開いていては、肌が見えるやつか!? アイリス着なくていいからな! このおっさん、見かけによらずムッツリだ! けしからん!」


 オーウェンが指さすのは踊り子のお姉さま方だ。確かに胸元が開いており、スカート部分はスリットが大きく入っていることもあり、大人な印象を彷彿とさせる。


(ムッツリってなんだろう……でも私があのお洋服が似合うとは到底思えない……)

「あの」


 とりあえず断ろうと口を挟もうとした時だった。

 

「いえいえ、あちらの服は踊り子用の服。今回ご用意するのはアルストレスタが自信をを持ってご紹介するお洋服です。我が家のメイドがお着替えもお手伝いいたします。なんでしたらその服を見てから着る着ないをお嬢さんがご判断されたら良いかと」

「なるほど……それでしたらぜひ!」

「ちょっと待てえええええ!」


 こちらが選択できるならと頷こうとしたが、オーウェンがアイリスの後ろから肩を持ち、くるっと方向転換させ、小声で話しかける。


「待て待て待て! このおっさんに着いて行って最終的にもっとやばい服持ってこられたらどうするんだよ!」

「そうしたら丁重にお断りすれば……」

「他所のメイドに服をひん剥かれた時抗える自信あるか?」

「……………………」


 確かにそんな自信はなかった。きっとあっという間に着替えさせられてしまうだろう。


「……はあ。オーウェン。ヴィットーリオさんに全て聞こえていますよ。アイリス、いいんですね」


 見かねたユーリがアイリスに意思を聞く。


「はい!」


 確かに危惧はあったが、服を見てみたいという好奇心があったのも事実。着ると決めたアイリスはフリードたちと別れ、ヴィットーリオに着いていく。


「本当にあなた方のおかげです」

「とはいっても私はCランクで回復魔法くらいしか得意じゃないので役立てたかどうか……」

「滅相もございません。さて、着きましたよ」


 着いた先は大きなお屋敷。


「それではメイドに準備させますので、こちらのお部屋でお待ちください」

「はい」


 重い扉がゆっくりと閉まっていくのだった。







 

「さて、では私たちはこれから……フリード……またですか」


 ユーリはフリードがこの場にいないことを確認し、ため息を吐くのだった。

明日も更新します!

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